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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 5;緑綺星」
    緑綺星 第1部

    緑綺星・騙義譚 1

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    シュウの話、第22話。
    思わぬ訪問者。

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    1.
     出くわすはずのない人物に自宅の玄関で遭遇し、ジャンニたち三人は硬直していた。と、マドック警部は相好を崩し、手に提げていたフライドチキンの袋を掲げて見せた。
    「良かったら俺もパーティに参加させてくれるかい? いや何、あんたらのことは今んとこ、何もしやしないさ。今んとこはな」
    「……」
     ジャンニは背後を振り返り、成り行きを見守っているシュウとカズに顔を向けた。
    「ど、……どないしよか?」
    「どうって……その……」
    「お話するのが一番だと思いますよ」
     カズがたじろいでいる一方で、シュウは冷静に答えた。
    「刑事さんもそのつもりですよね?」
    「案外アタマいいねーちゃんだな、やっぱり。入れてくれるかい?」
    「ええ、どうぞー」
    「そんじゃ、お邪魔するぜ」
     棒立ちのままのジャンニの横をすり抜け、警部は家の中に入る。シュウはにこ、と笑みを向け、彼を案内した。
    「おつかれでしょ? 朝お会いしてから夕方まで忙しかったでしょうし、仮眠も取ってないんじゃないですか?」
    「まあな。だが早いうちに話をしといた方が、お互いのためにもいいと思ってな。どうにか時間作って、訪ねさせてもらったってわけだ」
    「お互いの?」
     首をかしげつつも、シュウはフライドチキンを受け取る。
    「ま、話はメシ食いながらにしようや。分かるだろ? フライドチキンってやつは匂いがすげーからな。持って歩いてると、ハラ減ってくんだよ」
    「すごく分かります。ソレじゃ早く食べちゃいましょー」
     残されたカズとジャンニは顔を見合わせ、揃ってつぶやいた。
    「……シュウってこーゆー時すげーよな」

     ともかくマドック警部を交えた4人は、夕食の卓に着いた。
    「まずは自己紹介させてもらうとするか。俺はカイロ・マドック。今年で44歳。結婚して子供もいたが、今は離婚して一人だ。公安局は勤続25年になる。階級は警部だ」
    「ご紹介ありがとうございますー。わたしのコトはご存知みたいですね」
    「なんでそう思う?」
    「玄関でわたしの顔見た時、『やっぱり』って言ってましたよね? 初対面の人に言う言葉じゃないですよー」
    「流石だな。で、俺の横のお兄ちゃんと斜向かいのお嬢ちゃん、どっちがスチール・フォックスなんだ?」
     尋ねた警部に、ジャンニが手を挙げる。
    「俺です」
    「派手な髪の毛してるな。金火狐か?」
    「ええ、まあ」
    「名前は?」
    「ジャンニ・ゴールドマンです」
     と、警部はくっくっと笑い、手をぺらぺらと振る。
    「別に職質ってわけじゃないから、もっとラクにしてくれ。大体ここは、お前さん家だろ?」
    「あ、は、はい」
    「聞きたいコトがある」
     今度はカズが手を挙げて尋ねる。
    「アンタ、どうやってココを突き止めたんだ? やっぱ考察動画か?」
    「それは知らん。新しいもんはさっぱりでな。俺がやったのは、もっとアナログで古典的な方法だよ。
     あの大仰な出で立ちのスチール・フォックスの鎧を、そこいらの民家で造れるわけがないしな。どこかの工場か工房だかであの鎧を作ってたはずだとにらんで、その辺りを尋ねて回ってたんだが、その過程で変なうわさを聞きつけた。どう見ても中学生くらいの、黒髪地黒の全身真っ黒なお嬢ちゃんが、やたら工具やら工作機械やら、レアメタルやらを買い集めてた、ってな」
    「……オレかぁ」
     頭を抱えたカズに、警部はニヤニヤと笑みを向ける。
    「そう言うこった。で、そのお嬢ちゃんがどこに出没してるかを突き止めて、ここを訪ねたってわけだ。
     だがさっきも言った通り、俺は今のところ、単なるお騒がせ者でしかないスチール・フォックスを逮捕しようなんてつもりはさらさら無い。他にやらなきゃならんことはいくらでもあるからな。もっともお前さんが罪もない一般市民にケガさせたとかって話にでもなってたら、即刻令状持って押しかける予定ではあったがね」
    「えっと……じゃあ、警部さんはなんでここに?」
     恐る恐る尋ねたジャンニに、警部はニッと笑って返す。
    「言ったろ? パーティに混ぜてくれって話さ。
     今日のことで、公安でもお前さんのことをヒーローだ、正義の味方だって思ってる奴が現れ始めてる。なんたって、いきなり機動隊に酸だの薬品だの投げ付けてくる異常者を撃退してくれたんだ。ちなみに機動隊の隊長が俺の元部下なんだが、『おかげで誰も死なずに済んだ』って感謝してたよ。俺からも礼を言わせてもらう。ありがとよ」
     そう言って警部は、右手を差し出す。
    「あ、……ど、ども」
     ジャンニはあたふたしつつも、握手を交わした。
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