「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第1部
緑綺星・騙義譚 2
シュウの話、第23話。
非正規依頼。
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2.
警部が持って来てくれたフライドチキンとシュウが作ったピザ、そして近所のコンビニで買って来たコーラをテーブルに並べ、一同は豪勢な夕食を楽しんだ。
「そんでジャンニ……、だったっけ、お前さん、あのドクターなんとかを追ってったが、結局捕まえられたのか?」
「いや、あっちこっち追いかけてんけど、見失ってしもてん」
「そうか。ま、仕方ないわな。あの場から追い払ってくれただけでも、十分ありがたい」
「ソレでマドック警部さん」
と、シュウがメモとスマホを持って、警部の隣に椅子を移す。
「なんだかお願いしたいコトがあるみたいですけども、そろそろお話いただいてもよろしいでしょうか?」
「おっ? ……んぐ」
口に運んでいたピザを一息に飲み込み、警部はシュウに向き直る。
「なんでそう思う?」
「パーティしようって言うのは半分本当でしょうけど、放っておいてもいいよーなお騒がせ者くんを、騒ぎがあったその日の晩にわざわざ訪ねてくるなんて、何かの意図があるってコトですよねー?」
「その質問に答える前に、俺からも聞いていいかい? あんたの動画ってやつを見たが、あんたのあの話し方と今の話し方も、そりゃ演技なのか?」
「楽しむために皆さん動画見て下さるんですから、楽しく振る舞わなきゃ楽しくならないでしょ?」
「……はっはは、なるほどな」
警部は口をナプキンで拭き、シュウの質問に答えた。
「依頼の話をする前に、まず、こっちの状況について説明しとく。あのバンを乗ってたチンピラごと押収して徹底的に調査し、クレメント製薬で行われてた悪事、即ちネオクラウン傘下の犯罪組織による工場の違法操業および違法薬物の製造が行われていた事実は、ほぼ明らかになった」
「案外動きが早ええな。もっとモタつくもんかと思ってたが、……げふ」
コーラを飲みながら茶々を入れて来たカズに、警部は肩をすくめる。
「いや、お嬢ちゃんの言う通りだな。今日一日頑張って挙げられた成果は、せいぜい社長と幹部陣何名かの逮捕だけだ。本当の悪者、即ちネオクラウン系の奴らの検挙には、まだ至ってない。
それでも奴らがのさばり出してから約2年、ようやく尻尾をつかめるって状況になってきたことは確かだ。だもんで俺たちは大急ぎでクレメント製薬、そして実際にクスリを造ってたリンドン社の徹底捜査を行うべく、大急ぎであっちこっちに手続きを取ってる最中だ」
「その真っ最中にアンタ、こんなトコに来ていいのかよ?」
もう一度カズに茶々を入れられ、警部は苦笑して返す。
「手続きは他の連中がやってくれてる。何しろ俺は夕べから寝てないからな、気を利かしてくれたんだ。ま、実際はここにいるわけだが。
……前置きが長くなっちまったな。あんた方に依頼したい件は一つだ。自警団をブッ潰してくれ」
これを聞いて、ジャンニとカズは目を丸くする。
「なんだって!?」
一方、シュウは平然とした様子で、フライドチキンと一緒に入っていたサラダをつついている。
「……やっぱりメイスンは驚いてないか。予想済みってわけだな」
警部がのその言葉に、シュウは顔を上げてにこっと笑う。
「でしょうねーって感じですねー。非正規手段を頼む相手としては、一番都合いいですもん」
「まあ、そう言うこった。実際問題、これまでの2年間、俺たちがなんでネオクラウンに大したダメージを与えられずにいたか? 何も怠けてたわけじゃないし、奴らから賄賂をもらってたわけでもない。……多分な。
じゃあ何故、成果を挙げられないでいたのか? 答えは自警団と名乗る愚連隊共のせいさ。なーんでか毎度毎度、俺たちがネオクラウン系の一斉捜査に出張ろうとする直前になって、奴らが暴れ出すのさ。ものすごく間の悪いことにな。実際暴れられたら、強制捜査よりそいつらの取り締まりの方が優先される。悪いかどうかまだ未確定の奴より、はっきり悪事を働いてる奴の方をどうにかしなきゃならんってわけだ」
「公安は大人数の組織だろ? ソイツら構いつつ、強制捜査に向かうくらいの人員もねーのかよ?」
カズがそう突っ込んだが、警部は首を横に振る。
「あいつら、ゲリラみたいなもんだからな。あっちで爆発、こっちで乱射って多方面で暴れられちゃ、こっちも人海戦術で総動員かけなきゃ抑えられねえ。結局自警団が騒ぎを起こす度に、俺たちゃ全員体制で市国中を走り回らなきゃならんってわけだ。
そんなわけでこの2年、ネオクラウンに対しては捜査らしい捜査が、一向にできずにいた。つい2日前にも、十数回目の一斉捜査がおじゃんになったところだ。そして今回のクレメント製薬とリンドン社への一斉捜査も、間違いなく自警団が邪魔しに来るだろう。
こんな調子じゃ、いつまで経ってもあいつらを止めることなんざできやしねえ。だから自警団潰しを、お前らに依頼するってわけだ」
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非正規依頼。
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警部が持って来てくれたフライドチキンとシュウが作ったピザ、そして近所のコンビニで買って来たコーラをテーブルに並べ、一同は豪勢な夕食を楽しんだ。
「そんでジャンニ……、だったっけ、お前さん、あのドクターなんとかを追ってったが、結局捕まえられたのか?」
「いや、あっちこっち追いかけてんけど、見失ってしもてん」
「そうか。ま、仕方ないわな。あの場から追い払ってくれただけでも、十分ありがたい」
「ソレでマドック警部さん」
と、シュウがメモとスマホを持って、警部の隣に椅子を移す。
「なんだかお願いしたいコトがあるみたいですけども、そろそろお話いただいてもよろしいでしょうか?」
「おっ? ……んぐ」
口に運んでいたピザを一息に飲み込み、警部はシュウに向き直る。
「なんでそう思う?」
「パーティしようって言うのは半分本当でしょうけど、放っておいてもいいよーなお騒がせ者くんを、騒ぎがあったその日の晩にわざわざ訪ねてくるなんて、何かの意図があるってコトですよねー?」
「その質問に答える前に、俺からも聞いていいかい? あんたの動画ってやつを見たが、あんたのあの話し方と今の話し方も、そりゃ演技なのか?」
「楽しむために皆さん動画見て下さるんですから、楽しく振る舞わなきゃ楽しくならないでしょ?」
「……はっはは、なるほどな」
警部は口をナプキンで拭き、シュウの質問に答えた。
「依頼の話をする前に、まず、こっちの状況について説明しとく。あのバンを乗ってたチンピラごと押収して徹底的に調査し、クレメント製薬で行われてた悪事、即ちネオクラウン傘下の犯罪組織による工場の違法操業および違法薬物の製造が行われていた事実は、ほぼ明らかになった」
「案外動きが早ええな。もっとモタつくもんかと思ってたが、……げふ」
コーラを飲みながら茶々を入れて来たカズに、警部は肩をすくめる。
「いや、お嬢ちゃんの言う通りだな。今日一日頑張って挙げられた成果は、せいぜい社長と幹部陣何名かの逮捕だけだ。本当の悪者、即ちネオクラウン系の奴らの検挙には、まだ至ってない。
それでも奴らがのさばり出してから約2年、ようやく尻尾をつかめるって状況になってきたことは確かだ。だもんで俺たちは大急ぎでクレメント製薬、そして実際にクスリを造ってたリンドン社の徹底捜査を行うべく、大急ぎであっちこっちに手続きを取ってる最中だ」
「その真っ最中にアンタ、こんなトコに来ていいのかよ?」
もう一度カズに茶々を入れられ、警部は苦笑して返す。
「手続きは他の連中がやってくれてる。何しろ俺は夕べから寝てないからな、気を利かしてくれたんだ。ま、実際はここにいるわけだが。
……前置きが長くなっちまったな。あんた方に依頼したい件は一つだ。自警団をブッ潰してくれ」
これを聞いて、ジャンニとカズは目を丸くする。
「なんだって!?」
一方、シュウは平然とした様子で、フライドチキンと一緒に入っていたサラダをつついている。
「……やっぱりメイスンは驚いてないか。予想済みってわけだな」
警部がのその言葉に、シュウは顔を上げてにこっと笑う。
「でしょうねーって感じですねー。非正規手段を頼む相手としては、一番都合いいですもん」
「まあ、そう言うこった。実際問題、これまでの2年間、俺たちがなんでネオクラウンに大したダメージを与えられずにいたか? 何も怠けてたわけじゃないし、奴らから賄賂をもらってたわけでもない。……多分な。
じゃあ何故、成果を挙げられないでいたのか? 答えは自警団と名乗る愚連隊共のせいさ。なーんでか毎度毎度、俺たちがネオクラウン系の一斉捜査に出張ろうとする直前になって、奴らが暴れ出すのさ。ものすごく間の悪いことにな。実際暴れられたら、強制捜査よりそいつらの取り締まりの方が優先される。悪いかどうかまだ未確定の奴より、はっきり悪事を働いてる奴の方をどうにかしなきゃならんってわけだ」
「公安は大人数の組織だろ? ソイツら構いつつ、強制捜査に向かうくらいの人員もねーのかよ?」
カズがそう突っ込んだが、警部は首を横に振る。
「あいつら、ゲリラみたいなもんだからな。あっちで爆発、こっちで乱射って多方面で暴れられちゃ、こっちも人海戦術で総動員かけなきゃ抑えられねえ。結局自警団が騒ぎを起こす度に、俺たちゃ全員体制で市国中を走り回らなきゃならんってわけだ。
そんなわけでこの2年、ネオクラウンに対しては捜査らしい捜査が、一向にできずにいた。つい2日前にも、十数回目の一斉捜査がおじゃんになったところだ。そして今回のクレメント製薬とリンドン社への一斉捜査も、間違いなく自警団が邪魔しに来るだろう。
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