「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第1部
緑綺星・騙義譚 4
シュウの話、第25話。
揺れる自警団。
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4.
自警団の告発動画をアップロードした翌日、シュウのメールアドレスには、何通ものメールが送られて来ていた。
「自警団の構成員らしき人たちからですね」
「中身は?」
「自警団の本拠地の現在位置です。よっぽどショックだったんでしょうね、自分たちの中に裏切り者がいたってコトが」
「全部一緒なのか?」
横からメール内容を覗くカズに、シュウはうなずいて返す。
「差出人は違いますが、内容は異口同音ってヤツです。信憑性は十分でしょう。コレによると、自警団の本拠地は現在、第3、第4工業区と第5工業区の中間の裏通りにあるそうです」
「……ほんでシュウさん、俺がココに行ってブッ潰せばええんやな?」
「そうですよ。まさか古巣を攻撃するのはヤだ、とか?」
尋ねたシュウに、ジャンニは首を振る。
「ちゃうちゃう、それはめっちゃやる気やねん。俺が言いたいんはクレメント製薬ん時、同じようにブッ潰したろうって飛び出しかけて、シュウさんがダメって言うたことあったやん? 今回はどないなんやろって」
「特に無いです。と言うより、すぐ行った方がいいです。明日には公安局の一斉捜査が始まる予定ですし、自警団もソレを察知してるでしょう。間違いなく、公安より先に動こうとするはずです。壊滅させるなら今夜がベストと考えていいでしょう」
「ってワケで、さっさと行って来い。どーせ敵らしい敵なんかいやしねーよ。あんなドクター・オッドみたいなのが2人も3人もいてたまるかってんだ。気楽に飛び込んでって、火薬庫みたいなの爆発させて、自警団を一人残らず震え上がらせりゃいいんだ」
「うーん、……ほな、まあ、行って来るわ」
「いってらっしゃーい」
シュウとカズの見送りを受けて、ジャンニはアジトのバルコニーから飛び出して行った。
一方、自警団アジト内では、これまでにない混乱が起こっていた。
「我々の中に裏切り者がいる、との情報が流されている! 出所不明の根も葉もないうわさでしかないが、もし万が一、本当に裏切り者がいるとなれば、これは由々しき事態である!」
シュウが流した怪情報をめぐり、自警団幹部陣で議論が繰り返されていたのである。
「のんきに演説している場合か!? 即刻裏切り者をあぶり出し、排除すべきだ!」
「しかし第117次破壊工作作戦が明朝に迫っている今、そんなことをしている暇は……」
「そんなこと!? 裏切り者がいるとなれば、いつ何時その作戦が妨害されるか分からんのだぞ!? 今排除しなくてどうする!?」
「裏切り者の一匹や二匹、放っておけばいい。そんなことで揺らぐ自警団ではない」
「ほんのわずかなほころびが、致命的事態を招くことだってある。どんな小さな問題も、決してないがしろにすべきではないはずだ」
「だがここで裏切り者探しなどすれば、確実に明日の計画は延期せざるを得なくなってしまう。それは結局のところ、憎きネオクラウンをのさばらせることにつながる」
「然り。そもそもさっきも言及されていたが、そのうわさ自体確実なものではない」
「ふむ……実を言えば私もあの動画を見たが、あの頭の軽そうな猫女が真実を語っているとは、私には到底思えない」
「それはあるかも知れんな。第一、うちの小隊長や中隊長にイリアーノ某などと言う人物がいたか? 俺には聞き覚えがないのだが」
「それにあの動画はスチール・フォックスを持ち上げていた節がある。我々を貶めて相対的に信用を稼ごうとする企みにも思える」
「なるほど……?」
本来計画されていた会議時間を倍以上使い、ようやく意見が一致する。
「では現状で裏切り者なる存在はいない可能性が高い、と判断すると言うことでいいな?」
「異議なし」
「これ以上論じても無意味でしょう」
「それでは――大分予定がずれ込んだが――皆、ただちに工作活動の準備に取り掛かってくれ。以上だ」
会議が終わり、幹部陣は会議の場から離れる。と――。
「お話は終わりましたかい、団長さんよ?」
ひょこひょことした足取りで、どこからか兎獣人の老人が現れた。
「ああ、どうも」
深々と頭を下げた自警団団長に対し、老人はくっくっと笑って返す。
「こんなジジイを待たせちゃいけやせんぜ。眠くなっちまいまさあ」
「大変すみませんです、はい」
「それで団長さん、俺を今夜呼びつけたのは何のためで?」
「それは……」
団長は外を一度確かめた後、老人の兎耳に耳打ちする。
「裏切り者の始末です」
「なるほどなるほど」
「我々の活動を妨害する輩が団内にいては、何かと面倒ですから」
「しかしそれが誰なのかはまだ分からん、何人いるかもさっぱり。そこから調べてくれ、と?」
「は、はい」
その回答を受けた老人は、また馬鹿にしたような笑みを浮かべる。
「こんなジジイに何でもかんでも押し付けすぎじゃねえですかい? そこからやるとなりゃ、ちっとばかし値は張りますぜ?」
「カネのことなら……まあ……何とでも」
「そうですかい、そうですかい。そんなら今から、仕事に……」
老人が手を揉みながらニヤついていた、その時――ドゴン、と何かが天井を突き破る音が、アジトに響き渡った。
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自警団の告発動画をアップロードした翌日、シュウのメールアドレスには、何通ものメールが送られて来ていた。
「自警団の構成員らしき人たちからですね」
「中身は?」
「自警団の本拠地の現在位置です。よっぽどショックだったんでしょうね、自分たちの中に裏切り者がいたってコトが」
「全部一緒なのか?」
横からメール内容を覗くカズに、シュウはうなずいて返す。
「差出人は違いますが、内容は異口同音ってヤツです。信憑性は十分でしょう。コレによると、自警団の本拠地は現在、第3、第4工業区と第5工業区の中間の裏通りにあるそうです」
「……ほんでシュウさん、俺がココに行ってブッ潰せばええんやな?」
「そうですよ。まさか古巣を攻撃するのはヤだ、とか?」
尋ねたシュウに、ジャンニは首を振る。
「ちゃうちゃう、それはめっちゃやる気やねん。俺が言いたいんはクレメント製薬ん時、同じようにブッ潰したろうって飛び出しかけて、シュウさんがダメって言うたことあったやん? 今回はどないなんやろって」
「特に無いです。と言うより、すぐ行った方がいいです。明日には公安局の一斉捜査が始まる予定ですし、自警団もソレを察知してるでしょう。間違いなく、公安より先に動こうとするはずです。壊滅させるなら今夜がベストと考えていいでしょう」
「ってワケで、さっさと行って来い。どーせ敵らしい敵なんかいやしねーよ。あんなドクター・オッドみたいなのが2人も3人もいてたまるかってんだ。気楽に飛び込んでって、火薬庫みたいなの爆発させて、自警団を一人残らず震え上がらせりゃいいんだ」
「うーん、……ほな、まあ、行って来るわ」
「いってらっしゃーい」
シュウとカズの見送りを受けて、ジャンニはアジトのバルコニーから飛び出して行った。
一方、自警団アジト内では、これまでにない混乱が起こっていた。
「我々の中に裏切り者がいる、との情報が流されている! 出所不明の根も葉もないうわさでしかないが、もし万が一、本当に裏切り者がいるとなれば、これは由々しき事態である!」
シュウが流した怪情報をめぐり、自警団幹部陣で議論が繰り返されていたのである。
「のんきに演説している場合か!? 即刻裏切り者をあぶり出し、排除すべきだ!」
「しかし第117次破壊工作作戦が明朝に迫っている今、そんなことをしている暇は……」
「そんなこと!? 裏切り者がいるとなれば、いつ何時その作戦が妨害されるか分からんのだぞ!? 今排除しなくてどうする!?」
「裏切り者の一匹や二匹、放っておけばいい。そんなことで揺らぐ自警団ではない」
「ほんのわずかなほころびが、致命的事態を招くことだってある。どんな小さな問題も、決してないがしろにすべきではないはずだ」
「だがここで裏切り者探しなどすれば、確実に明日の計画は延期せざるを得なくなってしまう。それは結局のところ、憎きネオクラウンをのさばらせることにつながる」
「然り。そもそもさっきも言及されていたが、そのうわさ自体確実なものではない」
「ふむ……実を言えば私もあの動画を見たが、あの頭の軽そうな猫女が真実を語っているとは、私には到底思えない」
「それはあるかも知れんな。第一、うちの小隊長や中隊長にイリアーノ某などと言う人物がいたか? 俺には聞き覚えがないのだが」
「それにあの動画はスチール・フォックスを持ち上げていた節がある。我々を貶めて相対的に信用を稼ごうとする企みにも思える」
「なるほど……?」
本来計画されていた会議時間を倍以上使い、ようやく意見が一致する。
「では現状で裏切り者なる存在はいない可能性が高い、と判断すると言うことでいいな?」
「異議なし」
「これ以上論じても無意味でしょう」
「それでは――大分予定がずれ込んだが――皆、ただちに工作活動の準備に取り掛かってくれ。以上だ」
会議が終わり、幹部陣は会議の場から離れる。と――。
「お話は終わりましたかい、団長さんよ?」
ひょこひょことした足取りで、どこからか兎獣人の老人が現れた。
「ああ、どうも」
深々と頭を下げた自警団団長に対し、老人はくっくっと笑って返す。
「こんなジジイを待たせちゃいけやせんぜ。眠くなっちまいまさあ」
「大変すみませんです、はい」
「それで団長さん、俺を今夜呼びつけたのは何のためで?」
「それは……」
団長は外を一度確かめた後、老人の兎耳に耳打ちする。
「裏切り者の始末です」
「なるほどなるほど」
「我々の活動を妨害する輩が団内にいては、何かと面倒ですから」
「しかしそれが誰なのかはまだ分からん、何人いるかもさっぱり。そこから調べてくれ、と?」
「は、はい」
その回答を受けた老人は、また馬鹿にしたような笑みを浮かべる。
「こんなジジイに何でもかんでも押し付けすぎじゃねえですかい? そこからやるとなりゃ、ちっとばかし値は張りますぜ?」
「カネのことなら……まあ……何とでも」
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