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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 5;緑綺星」
    緑綺星 第1部

    緑綺星・騙義譚 6

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    シュウの話、第27話。
    覚悟の違い。

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    6.
     カズから「ダメージは絶対に受けない」と言われていたにもかかわらず、この時ジャンニは、胃か肺が破裂したかと思うほどの痛みを感じていた。
    「げほ……げほっ」
    《だ……ガガ……か!?》
     カズからの無線が聞こえて来たものの、ノイズ混じりで聞き取れない。
    「なん……や……こいつ……!?」
     どうにか立ち上がろうとするが、どうやら腕のパワーアシストが切れてしまっているらしく、持ち上がらない。四苦八苦している間に、老人がにじり寄って来る。
    「来ないのかい、お兄ちゃん? ぼんやり突っ立ってるだけってんなら、もうちょっと殴らせてもらうぜ?」
    「う……ぐ……」
     歯を食いしばり、無理矢理に腕を上げて、何とか構えを取るが、それ以上何もできない。
    「お? やる気か? いいぜ、来いよ。……来ねえのかい? まさかブルっちまったかい? そんなら仕方ねえやな」
     とん、と一足飛びに距離を詰め、老人が殴り掛かって来た。
    「恨むんならてめえ自身のバカさ加減を恨みな」
     が、その瞬間――。
    《ガガ……再起動したぜ!》
     急に腕が軽くなる。ジャンニは反射神経を精一杯働かせ、老人のパンチを横にいなした。
    「おん?」
    《悪いな、ジャンニ》
     カズが焦った声で、ジャンニに連絡する。
    《想定外の攻撃で、スーツのシステムが一部ダウンしてた。再起動したし、間に合わせだがチューニングもしたから、多少は耐えられるはずだ。で、分かったと思うが、そのジジイはただもんじゃねえ。いや、人間と思うな。
     覚悟決めて、本気で戦え》
    「わ、分かった」
     答えたところで、老人ががば、とヘルメットに手を伸ばす。
    「さっきからコソコソ、何をしゃべってんだ? 誰かとお話の最中か?」
    《……なめんな、クソジジイ!》
     カズの助言通り、ジャンニは左ストレートを老人の顔めがけて放つ。しかし老人はヘルメットに伸ばしていた手を90度外に回し、先ほどのジャンニと同様に打撃をいなす。
    「急に強気になりやがったな。まあいいさ、そんならそれで、やりがいも出るってもんだ」
     老人は右腕を垂直に上げたまま、左脚を振り上げる。ジャンニがそれを止めると同時に、老人がもう一方の脚を、ジャンニの胸に叩き付ける。
    「うぐ……っ」
     また弾き飛ばされるが、今度はスーツの飛行機能と姿勢制御が働き、空中で止まる。
    《肉弾戦じゃ勝ち目は無い。どう見てもソコら辺のゴロツキや用心棒なんかとモノが違う。間違いなく達人の域だ。下手したらオレでも手ぇ焼くかも知れねーってくらい強ええぞ、そのジジイ》
     カズの分析が聞こえてくるが、打開できるような要素はその中に含まれていない。
    「ほな、どうしたらええんや!?」
     尋ねたジャンニに、今度はシュウが、きっぱりと答えた。
    《逃げて下さい。客観的に見て、ジャンニくんは100%勝てません》
    「な、……なんでやな!? このスーツは……」
    《ジャンニくんは今、スーツの機能を十分に使えてるんですか? さっき武器庫や車輌を破壊したみたいに、その人に『銃火器を使って』対抗できるんですか? ソレができない以上、ジャンニくんが勝てる要素はゼロです。そもそもジャンニくんは人殺しなんかしたくないと考えてるってわたしは信じてますけど、相手は完全にジャンニくんを殺す気です。殺意アリとナシじゃ、どうやっても勝負になんかなりません。逃げて下さい。……早く!》
    「……分かった!」
     ジャンニは老人と距離を取り、離れようと試みる。だがきびすを返しかけた瞬間、正面に回り込まれてしまう。
    「なんなんだ、お前さん? やる気になったり逃げ腰になったりよお? もうちっとハラ据えたらどうだ?」
     がつっ、と硬い音を立て、老人の拳がスーツの胸を叩く。
    「うぐっ!?」
     胸部装甲がべっこり凹み、カズが戸惑った声を上げた。
    《な、何でだ!? シールドが働いてねえ!? ……いや、動いてるのは動いてるのか。じゃあこのジジイ、ソレを全部叩き割ってやがるってのか! まずいぜジャンニ、スーツがシールド展開する度にジジイが壊してっから、エネルギーがガンガン減ってってる。コレ以上食らったら、身動きできなくなるぜ》
    「もうなっとるわ!」
     ふらふらと立ち上がりながら怒鳴るジャンニに、カズが怒鳴り返す。
    《落ち着けって! ……コレはイチかバチかの最終手段になるから言ってなかった機能だが、もう出し惜しみしてらんねえ。一度しか使えないヤツだから、よく聞いとけよ》
    「な、なんや?」
    《オレが合図したら、残りのエネルギーを全部使い切って、スーツにブーストがかかる。その間はシールドも強化されるから、流石にダメージは通らないだろうし、計算上は飛行速度もいつもの3倍くらい出るはずだ。ソレで逃げ切れ》
    「どんくらいもつんや?」
    《残りエネルギーからすると、2分弱ってところだ。いいか、今だっつったらすぐブーストモードだ。ソコからの2分でソイツから逃げて、家まで戻って来い》
    「分かっ……」
     返事しかけた、その瞬間――。
    「俺と戦ってる最中だってのにいつまでもいつまでもぺっちゃくちゃぺっちゃくちゃおしゃべりしてんじゃあねえよ! いい加減にしやがれッ!」
     眼前まで迫って来ていた老人がジャンニのヘルメットをつかみ、地面に叩き付けた。
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