「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第1部
緑綺星・騙義譚 7
シュウの話、第28話。
限界空中戦。
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7.
「うわっ!」
「すっげえ、あのじーさん!」
一旦はスチール・フォックスに一暴れされ、呆然としていた自警団員たちだったが、途中で乱入してきた兎の老人が彼を真正面から止め、返り討ちにする様を眺めている間に、折れた心が持ち直し始めていた。
「やれ! いけーッ!」
「スチール・フォックスをスクラップにしてやれーッ!」
「殺せ! 殺せ! 殺せ!」
その声援で気を良くしたのか、老人は余裕を見せ始める。
「ひっひひ、まるで映画の大スターになった気分だぜ。……ま、映画と現実は違うってことがよ、これで身にしみてよーく分かったろ? ボチボチ終わらせてやるぜ。せいぜい、あの世でじっくり後悔しやがれや」
老人は右手をぎゅっと握りしめ、腕の筋肉をビキビキとみなぎらせて、頭上にゆっくり振り上げる。
「これで終わりだ」
そしてその腕を、勢い良く振り下ろした。だが、振り下ろされるその一瞬前、スチール・フォックスの全身あちこちから、紫色の光が放たれる。
「んん……!?」
発光に気付き、老人の拳が止まったその瞬間――スチール・フォックスはドン、と爆発じみた音を立て、その場から消えた。
《ブーストモードON! 残り時間1分50秒だ!》
「了解!」
老人の前から消えて3秒後、ジャンニは50メートルほど南東に飛翔していた。
《……チッ、まだ追ってきてやがる!》
「マジか!?」
ジャンニもヘルメット内のセンサーで、自分の後方から迫って来ることを確認する。
「逃がさねえぜッ!」
一体何をどうやっているのか――全速力で逃げるジャンニの前方に、老人が飛び上がって来た。
「……ッ」
その人間離れした挙動と、そしてどこまでも執拗に迫ってくる執念に恐怖と嫌悪を感じ、ジャンニの心の枷が緩んだ。
「く……来んなーッ!」
無意識に左手を伸ばし、掌に仕込まれていた魔法陣を起動させる。
「あっ……」
放たれた炎の槍が、老人に直撃した。
(や……やってしもた……!?)
ジャンニの背筋にぞわりと悪寒が走ったが、次の瞬間、それでもまだ、自分の認識が甘いことを悟った。
「ぅおらああッ!」
なんと老人は炎の槍を素手で弾き、四散させてしまったのである。とは言えジャンニのように実際に空を飛んでいるわけではなく、単に跳躍しただけであった老人の挙動を崩すには、十分な一手であったらしい。
「……やるじゃねえか……!」
結果として老人はジャンニを攻撃できず、そのまま地上の、がれきのど真ん中に落下した。
「……はーっ……はーっ」
怪物じみた老人を撃退できたことと、曲がりなりにも殺人を犯さずに済んだことによる安堵で呆然としていたジャンニの耳に、シュウの叱咤が響く。
《あと1分ちょいです! 急いで! ボーッとしちゃダメです!》
「あ……お、おう! 戻るわ!」
ジャンニは空中できびすを返し、アジトに向かって飛んで行った。
老人がスチール・フォックスを叩きのめし、沸き立ちかけていた自警団員たちだったが、二人が空中戦を始めた辺りで、何がどうなっているのか、ついて行けなくなっていた。
「な……え……?」
「あれって……どう……?」
「さあ……?」
揃って立ち尽くし、空をぽかんと眺めていることしかできなかったが、老人が地上のどこかに墜落したことだけは、誰の目にも明らかに理解できた。そしてそれが、自警団員たちの心を完全に折る決定打となった。
「あっ……!」
「お……落ちたぞ、あのじいさん!」
「……負けた!?」
向けていた視線を空から、周囲で同様にぼんやりしている同志に移し、やがてお互いの顔が真っ青になっていくのを確認する。
「に、逃げるぞ! あんなの相手にできねえよ!」
「あ、ああ! どうせ裏切り者がいるって話なんだしな」
「いても裏切られるんなら、今のうちに逃げた方がマシだよな、うん」
3分もしないうち、自警団の本拠地にはほとんど人がいなくなった。ただ一人残された団長は――。
「……こ、殺されるっ」
一目散に、公安局へと逃げ込んだ。
エネルギーをほとんど使い果たしたものの、どうにかジャンニは、アジトに戻ることができた。
「おわっ、……うぐっ、がっ」
しかし着陸寸前で完全にエネルギーが無くなってしまい、彼はアジトのテラスから部屋の中へ、ごろごろと転がり込む羽目になった。
「大丈夫ですか、ジャンニくん!?」
バタバタと足音を立て、シュウが部屋に入って来る。
「だ、だいじょぶ、だいじょぶ」
「ソレがか?」
と、シュウの後に部屋に入って来たカズが、呆れた声を挙げた。
「テラスも部屋ん中もグッチャグチャ。スーツも胸部装甲大破、頭部装甲破損、あと多分、シールド機能も全損してる。さらにブースト機能により各所に灼け付きが発生。
オマケにお前さんは右腕骨折、と」
「骨折? ……あ」
ジャンニはそこでようやく、自分の右腕が普段見慣れない方向に曲がっていることに気付いた。
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限界空中戦。
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「うわっ!」
「すっげえ、あのじーさん!」
一旦はスチール・フォックスに一暴れされ、呆然としていた自警団員たちだったが、途中で乱入してきた兎の老人が彼を真正面から止め、返り討ちにする様を眺めている間に、折れた心が持ち直し始めていた。
「やれ! いけーッ!」
「スチール・フォックスをスクラップにしてやれーッ!」
「殺せ! 殺せ! 殺せ!」
その声援で気を良くしたのか、老人は余裕を見せ始める。
「ひっひひ、まるで映画の大スターになった気分だぜ。……ま、映画と現実は違うってことがよ、これで身にしみてよーく分かったろ? ボチボチ終わらせてやるぜ。せいぜい、あの世でじっくり後悔しやがれや」
老人は右手をぎゅっと握りしめ、腕の筋肉をビキビキとみなぎらせて、頭上にゆっくり振り上げる。
「これで終わりだ」
そしてその腕を、勢い良く振り下ろした。だが、振り下ろされるその一瞬前、スチール・フォックスの全身あちこちから、紫色の光が放たれる。
「んん……!?」
発光に気付き、老人の拳が止まったその瞬間――スチール・フォックスはドン、と爆発じみた音を立て、その場から消えた。
《ブーストモードON! 残り時間1分50秒だ!》
「了解!」
老人の前から消えて3秒後、ジャンニは50メートルほど南東に飛翔していた。
《……チッ、まだ追ってきてやがる!》
「マジか!?」
ジャンニもヘルメット内のセンサーで、自分の後方から迫って来ることを確認する。
「逃がさねえぜッ!」
一体何をどうやっているのか――全速力で逃げるジャンニの前方に、老人が飛び上がって来た。
「……ッ」
その人間離れした挙動と、そしてどこまでも執拗に迫ってくる執念に恐怖と嫌悪を感じ、ジャンニの心の枷が緩んだ。
「く……来んなーッ!」
無意識に左手を伸ばし、掌に仕込まれていた魔法陣を起動させる。
「あっ……」
放たれた炎の槍が、老人に直撃した。
(や……やってしもた……!?)
ジャンニの背筋にぞわりと悪寒が走ったが、次の瞬間、それでもまだ、自分の認識が甘いことを悟った。
「ぅおらああッ!」
なんと老人は炎の槍を素手で弾き、四散させてしまったのである。とは言えジャンニのように実際に空を飛んでいるわけではなく、単に跳躍しただけであった老人の挙動を崩すには、十分な一手であったらしい。
「……やるじゃねえか……!」
結果として老人はジャンニを攻撃できず、そのまま地上の、がれきのど真ん中に落下した。
「……はーっ……はーっ」
怪物じみた老人を撃退できたことと、曲がりなりにも殺人を犯さずに済んだことによる安堵で呆然としていたジャンニの耳に、シュウの叱咤が響く。
《あと1分ちょいです! 急いで! ボーッとしちゃダメです!》
「あ……お、おう! 戻るわ!」
ジャンニは空中できびすを返し、アジトに向かって飛んで行った。
老人がスチール・フォックスを叩きのめし、沸き立ちかけていた自警団員たちだったが、二人が空中戦を始めた辺りで、何がどうなっているのか、ついて行けなくなっていた。
「な……え……?」
「あれって……どう……?」
「さあ……?」
揃って立ち尽くし、空をぽかんと眺めていることしかできなかったが、老人が地上のどこかに墜落したことだけは、誰の目にも明らかに理解できた。そしてそれが、自警団員たちの心を完全に折る決定打となった。
「あっ……!」
「お……落ちたぞ、あのじいさん!」
「……負けた!?」
向けていた視線を空から、周囲で同様にぼんやりしている同志に移し、やがてお互いの顔が真っ青になっていくのを確認する。
「に、逃げるぞ! あんなの相手にできねえよ!」
「あ、ああ! どうせ裏切り者がいるって話なんだしな」
「いても裏切られるんなら、今のうちに逃げた方がマシだよな、うん」
3分もしないうち、自警団の本拠地にはほとんど人がいなくなった。ただ一人残された団長は――。
「……こ、殺されるっ」
一目散に、公安局へと逃げ込んだ。
エネルギーをほとんど使い果たしたものの、どうにかジャンニは、アジトに戻ることができた。
「おわっ、……うぐっ、がっ」
しかし着陸寸前で完全にエネルギーが無くなってしまい、彼はアジトのテラスから部屋の中へ、ごろごろと転がり込む羽目になった。
「大丈夫ですか、ジャンニくん!?」
バタバタと足音を立て、シュウが部屋に入って来る。
「だ、だいじょぶ、だいじょぶ」
「ソレがか?」
と、シュウの後に部屋に入って来たカズが、呆れた声を挙げた。
「テラスも部屋ん中もグッチャグチャ。スーツも胸部装甲大破、頭部装甲破損、あと多分、シールド機能も全損してる。さらにブースト機能により各所に灼け付きが発生。
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