「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第1部
緑綺星・騙義譚 8
シュウの話、第29話。
自警団の正体。
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8.
スチール・フォックスが自警団を襲撃した翌日、市国の朝刊各紙は、その前日のクレメント事件を超える賑わいを見せていた。
「自警団団長 公安局に投降」
「自警団 ネオクラウンとの関与認める」
「司法取引要求か 公安局長『検討の余地あり』」
「……ってわけで、今も取り調べの最中だが、それでも結構な事実が明らかになった」
その2日後、ふたたびマドック警部がジャンニたちのアジトを訪ね、その後の経緯を明かしてくれた。
「俺たちの読み通り、やっぱり自警団はネオクラウンとつながっていた。それも単にカネをもらってたってだけじゃない。そもそも団長からして、奴らの手下だったのさ」
「つまりネオクラウンから指令を受けて、適当な理由を作って暴動や破壊工作を行ってたってコトですねー」
「そう言うこった」
手土産に持って来たドーナツをほおばりながら、警部は呆れた表情を浮かべる。
「だがお前さんたちの破壊工作で自警団が壊滅しちまったから、ネオクラウンからの指令に応えられなくなっちまった。そのまんまじゃ奴らから報復を受け、殺されちまう。そんなら公安と司法取引した方がまだ、命の保証だけはされるだろう。そう考えて、団長はウチに逃げ込んで来たってわけさ」
「ケッ、自分勝手な野郎だな」
ショコラツイストを飲み込み、カズが悪態をつく。
「散々自警団の邪魔しといて、いざ自分の身に危険が迫ったらみっともなく泣きつくのかよ? オレならぜってー助けねえよ、そんなクズ」
「まったく同感だな。公安上層部のお偉方も同意見だろう。無論、司法取引に応じたとなれば、ある程度の減刑は認めざるを得んだろうが、それでも無罪放免ってわけにゃ行かんだろうよ。せいぜい懲役100年の求刑が、50年に減免されるって程度だろう」
「どっちにしても事実上の終身刑ですねー。でも、そもそも減免されるだけの価値がある情報を持ってるんですかね?」
「何を知ってるかは知らんが、取引を持ちかけてくるくらいだ。相当、公安にとってありがたい情報を持ってるんだろうよ。
……で、ジャンニ。お前さん、大丈夫なのか?」
警部に尋ねられ、ジャンニは苦笑いする。
「医者に診てもろたんで、まあ、何とか。『部屋ん中で転んだ』って言うたら、大笑いされました」
「そんなマヌケな理由で骨折ったなんて言われちゃな。じゃ、お前さんがスチール・フォックスだってことは、まだバレてないってことか」
「多分大丈夫です。ただ、しばらくは出撃できそうにないです」
「そんなにひどいのか?」
警部はジャンニの腕を見たが、カズが手を振る。
「骨折も打撲も魔術治療してもらったから、そっちは1週間もありゃ治る。
ソレよりもスーツの方が問題だ。装甲はボッコボコにされてるし、シールドをはじめとする防御システムも軒並みブッ壊れてっから、オーバーホール中だ。ったくあのジジイ、ただもんじゃねえな」
「ふーん……? 相当厄介そうだな。映像みたいなのは残ってるか?」
「ああ、撮ってる」
カズはパソコンを操作し、ジャンニと老人が戦った際の動画を見せる。
「見た感じ……60代か70代かって感じだな。身長は150あるかないかくらいか。兎獣人ってのはここいらじゃなかなか珍しいから、探せば見つかるかも知れんな。……しかししょっぴくのはちょっと無理そうだ」
「スチール・フォックスを素手でボッコボコにした相手ですもんね。無理に拘束しようとしたら、犠牲者が出るかも知れません」
「だな。と言って、放っておくわけにもいかんからな。重要参考人として指名手配はしておく。画像もらえるか?」
「おう、データ送るわ」
「あー、と。紙でもらえるかい? 俺の携帯はスマホじゃなくってな」
「換えろよ……」
後日、警部からこの老人についての情報が届いた。裏社会では有名な「なんでも屋」で、「パスポーター」の名で知られていること、元々から国際的に指名手配されていることが明らかになった。そして、今回の事件の重要参考人として公安当局からも指名手配されたことも、併せて伝えられた。
そしてこの間にも市国に巣食う闇への追及は、着々と続けられていた。
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自警団の正体。
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スチール・フォックスが自警団を襲撃した翌日、市国の朝刊各紙は、その前日のクレメント事件を超える賑わいを見せていた。
「自警団団長 公安局に投降」
「自警団 ネオクラウンとの関与認める」
「司法取引要求か 公安局長『検討の余地あり』」
「……ってわけで、今も取り調べの最中だが、それでも結構な事実が明らかになった」
その2日後、ふたたびマドック警部がジャンニたちのアジトを訪ね、その後の経緯を明かしてくれた。
「俺たちの読み通り、やっぱり自警団はネオクラウンとつながっていた。それも単にカネをもらってたってだけじゃない。そもそも団長からして、奴らの手下だったのさ」
「つまりネオクラウンから指令を受けて、適当な理由を作って暴動や破壊工作を行ってたってコトですねー」
「そう言うこった」
手土産に持って来たドーナツをほおばりながら、警部は呆れた表情を浮かべる。
「だがお前さんたちの破壊工作で自警団が壊滅しちまったから、ネオクラウンからの指令に応えられなくなっちまった。そのまんまじゃ奴らから報復を受け、殺されちまう。そんなら公安と司法取引した方がまだ、命の保証だけはされるだろう。そう考えて、団長はウチに逃げ込んで来たってわけさ」
「ケッ、自分勝手な野郎だな」
ショコラツイストを飲み込み、カズが悪態をつく。
「散々自警団の邪魔しといて、いざ自分の身に危険が迫ったらみっともなく泣きつくのかよ? オレならぜってー助けねえよ、そんなクズ」
「まったく同感だな。公安上層部のお偉方も同意見だろう。無論、司法取引に応じたとなれば、ある程度の減刑は認めざるを得んだろうが、それでも無罪放免ってわけにゃ行かんだろうよ。せいぜい懲役100年の求刑が、50年に減免されるって程度だろう」
「どっちにしても事実上の終身刑ですねー。でも、そもそも減免されるだけの価値がある情報を持ってるんですかね?」
「何を知ってるかは知らんが、取引を持ちかけてくるくらいだ。相当、公安にとってありがたい情報を持ってるんだろうよ。
……で、ジャンニ。お前さん、大丈夫なのか?」
警部に尋ねられ、ジャンニは苦笑いする。
「医者に診てもろたんで、まあ、何とか。『部屋ん中で転んだ』って言うたら、大笑いされました」
「そんなマヌケな理由で骨折ったなんて言われちゃな。じゃ、お前さんがスチール・フォックスだってことは、まだバレてないってことか」
「多分大丈夫です。ただ、しばらくは出撃できそうにないです」
「そんなにひどいのか?」
警部はジャンニの腕を見たが、カズが手を振る。
「骨折も打撲も魔術治療してもらったから、そっちは1週間もありゃ治る。
ソレよりもスーツの方が問題だ。装甲はボッコボコにされてるし、シールドをはじめとする防御システムも軒並みブッ壊れてっから、オーバーホール中だ。ったくあのジジイ、ただもんじゃねえな」
「ふーん……? 相当厄介そうだな。映像みたいなのは残ってるか?」
「ああ、撮ってる」
カズはパソコンを操作し、ジャンニと老人が戦った際の動画を見せる。
「見た感じ……60代か70代かって感じだな。身長は150あるかないかくらいか。兎獣人ってのはここいらじゃなかなか珍しいから、探せば見つかるかも知れんな。……しかししょっぴくのはちょっと無理そうだ」
「スチール・フォックスを素手でボッコボコにした相手ですもんね。無理に拘束しようとしたら、犠牲者が出るかも知れません」
「だな。と言って、放っておくわけにもいかんからな。重要参考人として指名手配はしておく。画像もらえるか?」
「おう、データ送るわ」
「あー、と。紙でもらえるかい? 俺の携帯はスマホじゃなくってな」
「換えろよ……」
後日、警部からこの老人についての情報が届いた。裏社会では有名な「なんでも屋」で、「パスポーター」の名で知られていること、元々から国際的に指名手配されていることが明らかになった。そして、今回の事件の重要参考人として公安当局からも指名手配されたことも、併せて伝えられた。
そしてこの間にも市国に巣食う闇への追及は、着々と続けられていた。
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