「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第1部
緑綺星・騙義譚 9
シュウの話、第30話。
夜明けは近い、……か?
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
9.
自警団が壊滅したことは、ネオクラウンにとっては結果的に、致命的な痛手となった。
これまで自身への追及が行われる直前に、彼らにゲリラ活動を行わせることにより、公安の行動を制止・制限させることができていた。これにより自警団員が公安に逮捕・拘束されたとしても、末端の人間は自警団とネオクラウンがつながっている事実すら知らないため、ネオクラウン側には何の影響も出ない。自警団がネオクラウンにとって都合のいい「壁」となることにより、彼らは追及を逃れ、好き放題に暴れ回ることができたのである。
この疎ましかった壁が崩れたことにより、公安はその優秀な捜査・機動能力を、ネオクラウンの系列企業・組織らに、存分に行使できるようになった。その結果、自警団壊滅から半月ほどで末端組織は軒並み摘発・壊滅し、さらにその一週間後には中核組織の一つを抑え、組長以下幹部全員の逮捕に至った。
2年以上に渡り市国の裏社会を牛耳っていたネオクラウンの牙城は、ついに崩れ始めたのである。
この頃にはジャンニのケガもすっかり癒え、外出も不自由なくできるようになっていた。
「ジャンニくん、ジャンニくん。『金火狐総帥 公安局に特別予算追加を指示』ですって」
「ホンマかいな」
この日、ジャンニはシュウと連れ立って食料品の買い出しに向かいがてら、彼女と世間話に興じていた。
「つまりシラクゾはネオクラウンと手ぇ切るつもり満々っちゅうことか」
「でしょうねー。このまま付き合い続けても、自分が逮捕されるリスクを背負うだけですもんね。ソレより正義の味方ヅラした方が、体面も保てるって腹積もりなんでしょうねー」
シュウは新聞をたたみ、自分のかばんにしまい込む。
「今日はフライにしましょ。油切りに丁度いい紙も手に入りましたし」
「ジャーナリストが言うてええ言葉か、それ……」
「非金火狐系の一流紙にしてはテーマの扱い方がコビ売りすぎですし、そもそも文章が下手っぴです。二度は読む気しませんねー」
「辛辣やな」
「フリーのジャーナリストは辛口なんですよ? うふふ……」
ニコニコ笑いながらも、シュウのやんわりとした毒舌は止まらない。
「でも総帥さんもなかなか、ツラの皮が厚い人みたいですねー。ネオクラウンの力借りて総帥になったのに、今更無関係を装おうとするなんて」
「そんなん許してたまるかっちゅうねん。……ちゅうても監査局もシラクゾの言いなりやもんなぁ」
「その蜜月関係も、時間の問題かもですよ? 監査局長の交代は前局長の殺害があって行われたコトですし、今後の捜査で、その事実はいずれ明らかになるはずです。
あるいはネオクラウンのトップが捕まったら、きっと司法取引を持ちかけて、総帥からの依頼内容をリークするでしょう。ましてや、こうして事実上手を切ったコトが大々的に報道された今、ネオクラウン側も総帥をかばうような行動は執らないでしょうし。
総帥による殺人依頼が発覚すれば、監査局長も市政局長も道連れです。ソレなら先手を打って自白した方が罪は軽くなる、と考えるでしょうね。どっちもそう遠くないうち、公安局に駆け込むでしょうね」
「裏切るヤツは裏切られる、っちゅうわけか」
ジャンニは往来で立ち止まり、街の中心――金火狐財団総帥の住まう、フォコ屋敷に目をやる。
「ほな、また代替わりやな。いや、下手したら幹部陣の半分すげ替えになるかも知れへんな」
「ジャンニくんは立候補したりしないんですか?」
尋ねたシュウに、ジャンニは苦笑いを返す。
「有資格者は21歳から40歳までやから、対象外や。もう2年後やったら良かったかも分からんけどな。そうでなくても大学中退の、何の取り柄もないアホがやります言うて通るわけないしな」
「かもですね。でもジャンニくん、学校はもう復学してもいいんじゃないですか?」
「ん? うーん……」
「迷う要素はないでしょ? もうネオクラウンは壊滅まで秒読みの段階ですし、他にこの街を揺るがす脅威もなさそうです。もうヒーロー、やめちゃっていいんじゃないですか?」
「いや、でも……ほら、ドクターとか、あの兎とかおるやん?」
ジャンニが言葉をにごし、適当な言い訳を返した、その時だった。
「兎ってのは、俺のことかい」
「……!」
いつの間にかジャンニの背中に、ごり……、と拳が当てられていた。
緑綺星・騙義譚 終
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夜明けは近い、……か?
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自警団が壊滅したことは、ネオクラウンにとっては結果的に、致命的な痛手となった。
これまで自身への追及が行われる直前に、彼らにゲリラ活動を行わせることにより、公安の行動を制止・制限させることができていた。これにより自警団員が公安に逮捕・拘束されたとしても、末端の人間は自警団とネオクラウンがつながっている事実すら知らないため、ネオクラウン側には何の影響も出ない。自警団がネオクラウンにとって都合のいい「壁」となることにより、彼らは追及を逃れ、好き放題に暴れ回ることができたのである。
この疎ましかった壁が崩れたことにより、公安はその優秀な捜査・機動能力を、ネオクラウンの系列企業・組織らに、存分に行使できるようになった。その結果、自警団壊滅から半月ほどで末端組織は軒並み摘発・壊滅し、さらにその一週間後には中核組織の一つを抑え、組長以下幹部全員の逮捕に至った。
2年以上に渡り市国の裏社会を牛耳っていたネオクラウンの牙城は、ついに崩れ始めたのである。
この頃にはジャンニのケガもすっかり癒え、外出も不自由なくできるようになっていた。
「ジャンニくん、ジャンニくん。『金火狐総帥 公安局に特別予算追加を指示』ですって」
「ホンマかいな」
この日、ジャンニはシュウと連れ立って食料品の買い出しに向かいがてら、彼女と世間話に興じていた。
「つまりシラクゾはネオクラウンと手ぇ切るつもり満々っちゅうことか」
「でしょうねー。このまま付き合い続けても、自分が逮捕されるリスクを背負うだけですもんね。ソレより正義の味方ヅラした方が、体面も保てるって腹積もりなんでしょうねー」
シュウは新聞をたたみ、自分のかばんにしまい込む。
「今日はフライにしましょ。油切りに丁度いい紙も手に入りましたし」
「ジャーナリストが言うてええ言葉か、それ……」
「非金火狐系の一流紙にしてはテーマの扱い方がコビ売りすぎですし、そもそも文章が下手っぴです。二度は読む気しませんねー」
「辛辣やな」
「フリーのジャーナリストは辛口なんですよ? うふふ……」
ニコニコ笑いながらも、シュウのやんわりとした毒舌は止まらない。
「でも総帥さんもなかなか、ツラの皮が厚い人みたいですねー。ネオクラウンの力借りて総帥になったのに、今更無関係を装おうとするなんて」
「そんなん許してたまるかっちゅうねん。……ちゅうても監査局もシラクゾの言いなりやもんなぁ」
「その蜜月関係も、時間の問題かもですよ? 監査局長の交代は前局長の殺害があって行われたコトですし、今後の捜査で、その事実はいずれ明らかになるはずです。
あるいはネオクラウンのトップが捕まったら、きっと司法取引を持ちかけて、総帥からの依頼内容をリークするでしょう。ましてや、こうして事実上手を切ったコトが大々的に報道された今、ネオクラウン側も総帥をかばうような行動は執らないでしょうし。
総帥による殺人依頼が発覚すれば、監査局長も市政局長も道連れです。ソレなら先手を打って自白した方が罪は軽くなる、と考えるでしょうね。どっちもそう遠くないうち、公安局に駆け込むでしょうね」
「裏切るヤツは裏切られる、っちゅうわけか」
ジャンニは往来で立ち止まり、街の中心――金火狐財団総帥の住まう、フォコ屋敷に目をやる。
「ほな、また代替わりやな。いや、下手したら幹部陣の半分すげ替えになるかも知れへんな」
「ジャンニくんは立候補したりしないんですか?」
尋ねたシュウに、ジャンニは苦笑いを返す。
「有資格者は21歳から40歳までやから、対象外や。もう2年後やったら良かったかも分からんけどな。そうでなくても大学中退の、何の取り柄もないアホがやります言うて通るわけないしな」
「かもですね。でもジャンニくん、学校はもう復学してもいいんじゃないですか?」
「ん? うーん……」
「迷う要素はないでしょ? もうネオクラウンは壊滅まで秒読みの段階ですし、他にこの街を揺るがす脅威もなさそうです。もうヒーロー、やめちゃっていいんじゃないですか?」
「いや、でも……ほら、ドクターとか、あの兎とかおるやん?」
ジャンニが言葉をにごし、適当な言い訳を返した、その時だった。
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「……!」
いつの間にかジャンニの背中に、ごり……、と拳が当てられていた。
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