「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第1部
緑綺星・白闇譚 2
シュウの話、第32話。
「ネオクラウン」とは。
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2.
シュウに2杯目を注いでもらいながら、アルトは話を続ける。
「そんで、お二人さんよ。スチール・フォックスの宣伝動画でこう言ってたな? 『ネオクラウンが自分の最大の敵だ』『ネオクラウンを倒すことが最大の目的だ』って」
「まあ、うん」
「そう言う趣旨の内容ですねー」
そう答えた二人の顔を、アルトはニヤニヤ笑いながら眺めている。
「なんでしょうか?」
「おめでたい奴らだなと思ってな。この騒動の顛末が、ネオクラウンの親玉とっ捕まえてハイおしまい、で済むと思ってるってツラしてやがるからよ」
「どう言う意味や?」
「結論から言うとだな――そんなもん、どこにもいやしねえんだよ」
アルトの言葉の意味が理解できず、ジャンニはシュウの顔を見る。彼女もアルトの真意を図りかねているらしく、けげんな表情を浮かべていた。
「何がなんだかってツラしてんな。まあ、いきなりポンとこんなこと言われたって、そりゃワケ分かんねえだろうさ。
ま、仮に、だ。公安の捜査がサクサク首尾良く進んで、ネオクラウンの中核企業が軒並み摘発されたとしようや。公安の強面共はしょっぴいてきた社長ご一同に、こう怒鳴るだろう。『お前がネオクラウンのボスか!?』ってな。だがそこにいる誰もが、首を振るだろう。『自分はただの幹部に過ぎない』ってな。
しかしそれはウソじゃねえ。例え一人ひとり別個に取り調べて、『他の奴は洗いざらい吐いたぞ。今更ウソなんか付くんじゃねえぞ』なんて騙すの脅すのとやったところで、言うことは変わらねえ。『自分は幹部の一人だ』、『他の連中の中にボスがいるはずだ』って、みんな同じことを言うだけさ。
そこで捜査は迷宮入りだ。仮にその社長共を死ぬまで拷問したって、それ以上の真実は、何一つとしてそいつらからは出て来やしねえんだよ」
「わ……分からへん。あんたの言うてることが、よく……?」
戸惑うジャンニに、アルトは依然としてニヤついた顔のまま、こう続ける。
「すべてはウソなのさ。ネオクラウンなんて組織は、始めっから存在しねえんだ。『誰か』がとある計画のためにそれっぽい名前の、架空のマフィア組織をでっち上げ、地元企業と半グレ組織を手当り次第に舎弟にして、それっぽく『組織みたいなもん』を演出したってだけなんだよ。
だから公安の捜査は、いずれ行き詰まる。お前らの目標は、いつまで経っても達成されない。この大騒動が一段落したところでまた、『ネオ・ネオクラウン』が登場するだけさ」
「ちょ、ちょっと待って下さい」
流石のシュウも、そんな話になるとは予想していなかったらしく、珍しくあわてた顔をしていた。
「どうしてアルトさんが、そんなコトをご存知なんですか? 根拠は?」
「裏社会ってやつは狭い。だが、とんでもなく深いんだ。俺はその中でもかなり奥底の方で、長いこと暮らしてるからよ。『裏事情』ってやつには、誰よりも敏感なんだ。
動画を見てたらお前さん方、ドクター・オッドと戦ったって言うじゃねえか。確かにあいつは、俺が知ってるドクターだ」
「お知り合いなんですか?」
立て続けに面食らった様子ながらも、シュウは質問を重ねている。
「ちっと顔を二、三度合わせたってだけさ。裏社会でな。ところでこいつは、ある組織の仕事を良く請け負ってる奴なんだ。専属契約でもしてるみてえにな」
「ある組織?」
「ちょいと話は戻るがシュウさんよ、ネオクラウンが活動を始めたのは大体3年前、714年くらいからだが、この2年後、世界にデカいニュースが流れた。それが何か、言ってみな」
「つまり去年ですよね? パッと思いつくのはー……、『長い7世紀戦争』の終結宣言くらいでしょうか」
「それさ。100年以上も長々と決着の付かない戦いをしてたってのに、なんで急に終戦したんだろうな?」
話している間に、シュウの目が――これも珍しいことに――真剣な眼差しになる。
「つまりアルトさん、あなたは市国で不正・非正規的に製造されていた品が、軍事物資として供給されていた、と?」
「戦争ってやつは物量がモノを言うからな。ましてや100年戦争してるんだ、どっちもほとんどカネも物資も残ってなかったはずだ。そこに大量の物資が流れ込んできたとなりゃ、よっぽど下手打たない限りは決着するってもんさ」
「わたしが調べたところでは、ネオクラウン系のフロント企業は各種製造業と、製造のための用地・施設管理業および人材派遣業、そして輸送業で構成されていました。ソレを連携させることで、市国に大規模な製造ラインを築く。それが『彼ら』の狙いだった、と?」
「な、つながってきただろ?」
シュウとアルトは互いに言わんとすることを察しているようだったが、ジャンニにはまったく見当が付かない。
「えーと……あの……なにがなにでなんなん?」
「さっぱり分かんねえよってツラしてやがるな」
「端折りすぎちゃったかもですねー」
二人は肩をすくめ、揃って苦笑した。
「えーとですね、ジャンニくん。白猫党ってご存知です?」
「しろ……ねこ……? え、『白い猫ってかわいいよね』『わかるー』ってアレ?」「ちがいます」
シュウは呆れた目を向けながら、丁寧に説明してくれた。
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シュウに2杯目を注いでもらいながら、アルトは話を続ける。
「そんで、お二人さんよ。スチール・フォックスの宣伝動画でこう言ってたな? 『ネオクラウンが自分の最大の敵だ』『ネオクラウンを倒すことが最大の目的だ』って」
「まあ、うん」
「そう言う趣旨の内容ですねー」
そう答えた二人の顔を、アルトはニヤニヤ笑いながら眺めている。
「なんでしょうか?」
「おめでたい奴らだなと思ってな。この騒動の顛末が、ネオクラウンの親玉とっ捕まえてハイおしまい、で済むと思ってるってツラしてやがるからよ」
「どう言う意味や?」
「結論から言うとだな――そんなもん、どこにもいやしねえんだよ」
アルトの言葉の意味が理解できず、ジャンニはシュウの顔を見る。彼女もアルトの真意を図りかねているらしく、けげんな表情を浮かべていた。
「何がなんだかってツラしてんな。まあ、いきなりポンとこんなこと言われたって、そりゃワケ分かんねえだろうさ。
ま、仮に、だ。公安の捜査がサクサク首尾良く進んで、ネオクラウンの中核企業が軒並み摘発されたとしようや。公安の強面共はしょっぴいてきた社長ご一同に、こう怒鳴るだろう。『お前がネオクラウンのボスか!?』ってな。だがそこにいる誰もが、首を振るだろう。『自分はただの幹部に過ぎない』ってな。
しかしそれはウソじゃねえ。例え一人ひとり別個に取り調べて、『他の奴は洗いざらい吐いたぞ。今更ウソなんか付くんじゃねえぞ』なんて騙すの脅すのとやったところで、言うことは変わらねえ。『自分は幹部の一人だ』、『他の連中の中にボスがいるはずだ』って、みんな同じことを言うだけさ。
そこで捜査は迷宮入りだ。仮にその社長共を死ぬまで拷問したって、それ以上の真実は、何一つとしてそいつらからは出て来やしねえんだよ」
「わ……分からへん。あんたの言うてることが、よく……?」
戸惑うジャンニに、アルトは依然としてニヤついた顔のまま、こう続ける。
「すべてはウソなのさ。ネオクラウンなんて組織は、始めっから存在しねえんだ。『誰か』がとある計画のためにそれっぽい名前の、架空のマフィア組織をでっち上げ、地元企業と半グレ組織を手当り次第に舎弟にして、それっぽく『組織みたいなもん』を演出したってだけなんだよ。
だから公安の捜査は、いずれ行き詰まる。お前らの目標は、いつまで経っても達成されない。この大騒動が一段落したところでまた、『ネオ・ネオクラウン』が登場するだけさ」
「ちょ、ちょっと待って下さい」
流石のシュウも、そんな話になるとは予想していなかったらしく、珍しくあわてた顔をしていた。
「どうしてアルトさんが、そんなコトをご存知なんですか? 根拠は?」
「裏社会ってやつは狭い。だが、とんでもなく深いんだ。俺はその中でもかなり奥底の方で、長いこと暮らしてるからよ。『裏事情』ってやつには、誰よりも敏感なんだ。
動画を見てたらお前さん方、ドクター・オッドと戦ったって言うじゃねえか。確かにあいつは、俺が知ってるドクターだ」
「お知り合いなんですか?」
立て続けに面食らった様子ながらも、シュウは質問を重ねている。
「ちっと顔を二、三度合わせたってだけさ。裏社会でな。ところでこいつは、ある組織の仕事を良く請け負ってる奴なんだ。専属契約でもしてるみてえにな」
「ある組織?」
「ちょいと話は戻るがシュウさんよ、ネオクラウンが活動を始めたのは大体3年前、714年くらいからだが、この2年後、世界にデカいニュースが流れた。それが何か、言ってみな」
「つまり去年ですよね? パッと思いつくのはー……、『長い7世紀戦争』の終結宣言くらいでしょうか」
「それさ。100年以上も長々と決着の付かない戦いをしてたってのに、なんで急に終戦したんだろうな?」
話している間に、シュウの目が――これも珍しいことに――真剣な眼差しになる。
「つまりアルトさん、あなたは市国で不正・非正規的に製造されていた品が、軍事物資として供給されていた、と?」
「戦争ってやつは物量がモノを言うからな。ましてや100年戦争してるんだ、どっちもほとんどカネも物資も残ってなかったはずだ。そこに大量の物資が流れ込んできたとなりゃ、よっぽど下手打たない限りは決着するってもんさ」
「わたしが調べたところでは、ネオクラウン系のフロント企業は各種製造業と、製造のための用地・施設管理業および人材派遣業、そして輸送業で構成されていました。ソレを連携させることで、市国に大規模な製造ラインを築く。それが『彼ら』の狙いだった、と?」
「な、つながってきただろ?」
シュウとアルトは互いに言わんとすることを察しているようだったが、ジャンニにはまったく見当が付かない。
「えーと……あの……なにがなにでなんなん?」
「さっぱり分かんねえよってツラしてやがるな」
「端折りすぎちゃったかもですねー」
二人は肩をすくめ、揃って苦笑した。
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