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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 5;緑綺星」
    緑綺星 第1部

    緑綺星・白闇譚 3

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    シュウの話、第33話。
    白くて深い闇の向こうから。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
    「6世紀後半にですねー、白猫党って言う政治結社が侵略と戦争を繰り返して、央北の西半分を手に入れたんです。ソレだけに留まらず、央中とか央南とかにも攻め込んだりして、一時期は世界の3分の1を手中に収めるくらいに勢力を拡大したんです。だけどなんか途中から内輪もめしちゃって、党は南北に分裂したんですよ。
     で、再統一しようとはしたみたいなんですけど、その話し合いも決裂しちゃって、結局、南北の白猫党で戦争始めちゃったんです。ただ、お互いほとんど同規模の勢力ですし、装備も同レベルとなると、決定打が無いワケで。決着が付かなくなって休戦して、勢力回復してまた戦争して、休戦して、……を何度も繰り返して、ソレが6世紀終わりから8世紀始めまでずーっと続いてたんです。で、今はこの戦争のコトを、『長い7世紀戦争』と呼んでるワケなんですけども、ソレが去年終わったんですよ。南側の白猫党が北側の本拠地を陥落させて、南側の党首が勝利演説したんです」
    「その白猫党がドクター・オッドの依頼人で、つまりネオクラウンの黒幕やっちゅうこと?」
    「アルトさんの説によれば、ですけどね。でもなんでそんなコトを、わたしたちに?」
    「おいおい、勘違いすんなよシュウさんよ。そもそも最初から、俺はジャンニに話すつもりだったんだよ。……もっとも話したところで、ぽかんとされるのがオチだったろうが。
     まあ、話を戻すとだな、俺がなんでこんな話をお前さんたちに言ったかだが――お前さんたちの本当の敵は、裏社会のとんでもなく深くて暗いところに潜んでる、最凶にヤバい奴らだってことを、ちゃんと理解させたかったからだ。お前さんたちはケンカを売っちゃならねえ相手にケンカを売ってんだよ。近い内にお前さんたちは報復されるぜ。いや、下手すりゃ今日かも知れねえな。放っときゃ皆殺しにされかねねえし、ジャンニ、お前さんは――いつか依頼されりゃ――俺がブッ殺すって決めてんだよ。こんなところで他の奴に横取りされてたまるかってんだ。だからこうして、懇切丁寧に教えてやったんだ。
     で、一つ聞くがよ」
     アルトは3杯目の酒を飲み干し、二人をにらんだ。
    「あのパワードスーツは今、どこにあるんだ? まさかそこいらのコインロッカーの中ってわけじゃねえよな? それにスーツを管理・保守してる奴がいるはずだ。あんな精密機器の塊、しょっちゅうメンテナンスしなきゃ運用できるはずがないからな。
     まさかスーツも管理者も、今、一緒のとこにいたりしないよな?」
    「……!」
     シュウは血相を変え、スマホの録音を止めて電話をかけた。



     シュウたちがアルトから話を聞く、その10分前――。
    「こんなもんか、な」
     パワードスーツのメンテナンスを数日がかりで終え、カズはごろん、と床に寝転んだ。
    「うへぇー……、疲れた。ったく、下手すりゃあと一歩でスクラップだったぜ、マジで。……もう昼か。シュウのヤツ、作り置きしてくれてっかなー」
     上半身を起こしかけ、またごろんと横になる。
    「……食い気より眠気が勝ちそうだぜ。いいや、寝ちまおうっと」
     そのまま腕を枕にしてうたたねしたところで、カズのスマホが――正確にはジャンニ名義だが――鳴った。
    (……チッ、……うっせえなぁ。……つって9割シュウからだろーなー……1割はクソみたいな勧誘かなんかだし……1割に賭けるか……いや多分シュウだよなー……出るかー……)
     仕方なく、カズはキーボードの横に置いていたスマホを手に取り、応答する。
    「うぃーす」
    《あなたは誰?》
     聞こえてきた声は、カズの知る人間のものではなかった。反射的に切ろうとしたが、相手がこう続けてきた。
    《誰でもいい。あなたがスチール・フォックスであることは把握している》
    「……誰だ」
     尋ねたカズには応じず、声は淡々と話し続ける。
    《あなたの横にスチール・フォックスのスーツがあることも把握している》
    「あぁん?」
    《あなたは私の敵であると断定する》
    「誰だって聞いてんだけど、答える気ねーのかよ?」
     話しながら、カズはパソコンを操作し、スマホの逆探知を試みる。だが3秒もしないうちに画面には、エラーの文字が表示された。
    「んっ……!?」
    《あなたはもう何もできない。何の対抗手段も無い。命もまもなく無くす。さようなら》
     そこで電話が切れ――家の外から、きいいい……、と何かが風を切る音が聞こえてきた。
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