「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第2部
緑綺星・狼嬢譚 1
シュウの話、第38話。
はじめてのおしごと。
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1.
え? わたしのお話ですか? いやー、えーと、ソレはちょっと。取材中ですし……あ、そうですね、止めればいいんですよね。……コレで止まったかな。コホン、わたしの名前はシュウ・メイスンで、……ってコレ、最初に言ってましたね。ごめんなさい、まだ慣れてなくって、……ああそうそう、続きですね。今は大学生なんですけど、夏休みにインターン活動として、こうして取材のお手伝いしてるんです。……もー、茶化さないで下さいって、先輩。……いやー、あはは、まあ、そうなんです。インターンやると単位が2つもらえちゃうんですよね、ウチの大学。今年の冬季休暇と、あと来年と再来年もやるつもりなので、12稼げちゃうんですよ。ソレでうまいコトやって3年で大学卒業するって人が結構、……あ、話がそれちゃいましたね。あとはー、わたし4人兄弟で、上に兄が1人、下に弟と妹が1人ずつ……
「オイオイオイ待て待て待て待て」
一時停止アイコンを押し、一聖が音声ファイルの再生を止める。
「お前、質問より自分の話の方がなげーじゃねーか。しかも録音、切ったつもりで切ってねーしよ」
「仕方無いじゃないですかぁ。コレ、いっちばん最初の取材なんですもん。アガっちゃってたんです。で、見かねたエヴァと先輩が自分の話してみろって言うからー……」
シュウからリモード共和国についての情報を聞くため、まずは彼女が3年前、その国で取材した記録を再生してみたが――。
「相手がしゃべってるトコにかぶせんなよ。あと、早口で聞き取れねートコがちょくちょくあるし」
「最初の最初なんですからそんなのばっかりなんですってばー。……あーもー、だから聞かせたくなかったんですよぉー。正直言って、このファイルも最初の動画も個人的には削除しちゃいたいくらいなんですよ? でもコレ初めての取材のヤツですし、動画も色々事情があるしで……」
「分かった、分かった。じゃあまあ、コレにケチ付けんのはナシで」
「お願いしますよー」
……ってところですかねー。……あ、録音しっぱなしでした! うわー、ごめんなさーい! ……あ、はい、じゃあこのまま、はい。
ソレでアドラーさんは、来年からミューズ近衛騎士団に入団される、とのコトでしたね。
「ええ。ただ、騎士団とは申しましても、実際はお二人のご想像されているものとは、大きく異なることと存じます。建国当初こそ共和国最大の防衛戦力として扱われておりましたけれど、時代が下るにつれて儀礼的側面が強まりまして。現在は共和国軍の士官養成学校と申した方が適切でしょうね」
と言うコトはアドラーさんもいずれは共和国軍の指揮官や、政府直属の武官になるご予定なんですか?
「さあ……どうでしょうか。それは軍上層部や共和国政府の方々が、わたくしを重用して下さるかどうかによりますから」
しかしコレまで、アドラー家の方々はいずれも共和国軍本営や軍部大臣など、軍関係の要職に就いていらっしゃいますから、可能性は高いのでは?
「おっしゃる通り、わたくしたちアドラー家は建国当初より国防の要、護国の一族として共和国に仕えている身ですので、他の方よりもそうした要職へ登用される機会には恵まれていることと存じますわ。
ただ、だからと申しましてその境遇に甘んじ、努力と精進を怠るようなことは、決してございません。軍に籍を置く他の皆様が日々努力をおこたらず、切磋琢磨されていらっしゃることは、十分に存じております。そんな中、ただ一人わたくしだけが怠けていれば、その方たちが重用されるのは道理。それは我がアドラー家の恥となってしまいますし、何よりそんな怠惰な者がアドラー家にいるとなれば、家祖である『黒騎士(ダークナイト)』ミューズの怒りを買ってしまいますもの。
ですからわたくしも、いついかなる時であっても己を磨き、不断の努力を続けております。ただし、それは軍人として生きるためにだけではなく、世界に誇れる一人の人間であるために、ですわ」
……なんか……すごい……感動しちゃいました。……すごいです、アドラーさん。……わたしと1コしか違わないのに、すごい……大人って言うか……あ……ごめんなさい、取材になってませんよね、すみません、ホント、すみません……。
「……もう止めて下さい。わたしの羞恥心が爆発しないうちに。マジでお願いします」
シュウは耳まで真っ赤にし、床にうずくまってしまった。
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はじめてのおしごと。
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え? わたしのお話ですか? いやー、えーと、ソレはちょっと。取材中ですし……あ、そうですね、止めればいいんですよね。……コレで止まったかな。コホン、わたしの名前はシュウ・メイスンで、……ってコレ、最初に言ってましたね。ごめんなさい、まだ慣れてなくって、……ああそうそう、続きですね。今は大学生なんですけど、夏休みにインターン活動として、こうして取材のお手伝いしてるんです。……もー、茶化さないで下さいって、先輩。……いやー、あはは、まあ、そうなんです。インターンやると単位が2つもらえちゃうんですよね、ウチの大学。今年の冬季休暇と、あと来年と再来年もやるつもりなので、12稼げちゃうんですよ。ソレでうまいコトやって3年で大学卒業するって人が結構、……あ、話がそれちゃいましたね。あとはー、わたし4人兄弟で、上に兄が1人、下に弟と妹が1人ずつ……
「オイオイオイ待て待て待て待て」
一時停止アイコンを押し、一聖が音声ファイルの再生を止める。
「お前、質問より自分の話の方がなげーじゃねーか。しかも録音、切ったつもりで切ってねーしよ」
「仕方無いじゃないですかぁ。コレ、いっちばん最初の取材なんですもん。アガっちゃってたんです。で、見かねたエヴァと先輩が自分の話してみろって言うからー……」
シュウからリモード共和国についての情報を聞くため、まずは彼女が3年前、その国で取材した記録を再生してみたが――。
「相手がしゃべってるトコにかぶせんなよ。あと、早口で聞き取れねートコがちょくちょくあるし」
「最初の最初なんですからそんなのばっかりなんですってばー。……あーもー、だから聞かせたくなかったんですよぉー。正直言って、このファイルも最初の動画も個人的には削除しちゃいたいくらいなんですよ? でもコレ初めての取材のヤツですし、動画も色々事情があるしで……」
「分かった、分かった。じゃあまあ、コレにケチ付けんのはナシで」
「お願いしますよー」
……ってところですかねー。……あ、録音しっぱなしでした! うわー、ごめんなさーい! ……あ、はい、じゃあこのまま、はい。
ソレでアドラーさんは、来年からミューズ近衛騎士団に入団される、とのコトでしたね。
「ええ。ただ、騎士団とは申しましても、実際はお二人のご想像されているものとは、大きく異なることと存じます。建国当初こそ共和国最大の防衛戦力として扱われておりましたけれど、時代が下るにつれて儀礼的側面が強まりまして。現在は共和国軍の士官養成学校と申した方が適切でしょうね」
と言うコトはアドラーさんもいずれは共和国軍の指揮官や、政府直属の武官になるご予定なんですか?
「さあ……どうでしょうか。それは軍上層部や共和国政府の方々が、わたくしを重用して下さるかどうかによりますから」
しかしコレまで、アドラー家の方々はいずれも共和国軍本営や軍部大臣など、軍関係の要職に就いていらっしゃいますから、可能性は高いのでは?
「おっしゃる通り、わたくしたちアドラー家は建国当初より国防の要、護国の一族として共和国に仕えている身ですので、他の方よりもそうした要職へ登用される機会には恵まれていることと存じますわ。
ただ、だからと申しましてその境遇に甘んじ、努力と精進を怠るようなことは、決してございません。軍に籍を置く他の皆様が日々努力をおこたらず、切磋琢磨されていらっしゃることは、十分に存じております。そんな中、ただ一人わたくしだけが怠けていれば、その方たちが重用されるのは道理。それは我がアドラー家の恥となってしまいますし、何よりそんな怠惰な者がアドラー家にいるとなれば、家祖である『黒騎士(ダークナイト)』ミューズの怒りを買ってしまいますもの。
ですからわたくしも、いついかなる時であっても己を磨き、不断の努力を続けております。ただし、それは軍人として生きるためにだけではなく、世界に誇れる一人の人間であるために、ですわ」
……なんか……すごい……感動しちゃいました。……すごいです、アドラーさん。……わたしと1コしか違わないのに、すごい……大人って言うか……あ……ごめんなさい、取材になってませんよね、すみません、ホント、すみません……。
「……もう止めて下さい。わたしの羞恥心が爆発しないうちに。マジでお願いします」
シュウは耳まで真っ赤にし、床にうずくまってしまった。
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