「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第2部
緑綺星・狼嬢譚 2
シュウの話、第39話。
不思議の国。
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2.
「ソレじゃ、あの、コレで取材終わりで、はい」
初めてのインタビューを終えたシュウは、カチコチとした仕草でスマホをしまった。と、彼女を取材に連れてきた出版社の先輩、カニートがシュウの腕を小突く。
「シュウちゃん、言ったろ? はじまりとおわりに必要なことは?」
「……あっ、挨拶! ごめんなさい! ありがとうございました!」
慌ててシュウは、勢い良くがばっと頭を下げ――ゴン、と痛々しげな音を立てて、テーブルに頭突きしてしまった。
「いったあ……」
「すんませんねー、こいつ粗相してばっかりで」
「うふふ……いえ、お構いなく。ねえ、メイスンさん」
インタビューの相手である、リモード共和国の名家アドラー家の令嬢、狼獣人のエヴァンジェリン・アドラーは、赤くなったシュウの額をさすってやりながら、こうささやいた。
「よろしければ今夜、二人でお話いたしませんこと?」
「え? わ、わたしとですか?」
「ええ。わたくし、あなたに興味がございますの。それにわたくし、他の国の方でお歳の近い方との交流があまりなくて。ご都合はよろしいかしら?」
尋ねられ、シュウはカニートと自分の手帳を交互に見る。
「えっ、えーと、今夜って何かありましたっけ?」
「今夜はこのインタビューの文字起こしする予定だったが、1時間や2時間遅らせたって問題ない。明日の予定は昼からになってるからな。むしろ話が面白ければ、お前の独占取材って形でワク取ってやってもいいぞ。ま、アドラーさんが許可してくれればだが」
「ええ、込み入った内容でなければ構いませんわ。でも」
エヴァは、今度はシュウの手を握り、にっこり微笑んだ。
「あまり大した内容にはならないかと。あくまで年頃の娘二人のお話ですから」
と、徹頭徹尾に渡って「立派なご令嬢」の姿を見せつけられ、シュウはすっかり気後れしてしまっていた。
「あーもー……わたしホントどうしましょう? お話って一体何すればいいんでしょーか。ホンモノのお嬢様になんて、一度も会ったコトないのに」
シュウとカニートは一旦、取材中の拠点であるホテルに戻り、午後の写真撮影の準備を進めつつ、エヴァとの約束について話していた。
「そんなに心配しなくてもいいだろ。これが国家元首との会食とかだったら俺だってそりゃ怖ええしどうすりゃいいんだってなるけど、アドラー嬢の言った通り、歳の近い娘二人がただご飯食べておしゃべりして親交深めるってだけだろうし。服もそのまんまでいいと思うぜ」
「で、でもぉ~……」
「それより午後の話だ。分かってると思うが、観光気分で回ったりするなよ。俺たちの仕事は旅行案内ジャーナル作りじゃなく、文化誌の製作なんだからな」
「は、はーい、分かってまーす」
答えたものの、シュウは準備が手に付かない。それを見かねたか、カニートが彼女の猫耳をぐにっとつかんだ。
「ひぅ!?」
「アドラー嬢はああ言ってたが、お前にとって取材のチャンスってのは間違いないんだからな。お前の場合、『遊び』より『仕事』って思った方が、むしろやりやすいんだろ?」
「……見抜かれてますねぇ」
「観察力と洞察力はジャーナリストの武器だぜ、シュウちゃん」
二人はカメラを手に共和国首都、ニューペルシェ市街地へ繰り出した。
「トラス王国と負けず劣らずの発展具合、って感じですよね」
「そうだな。経済規模こそ央北じゃ中の下くらいだし、戦争真っ最中の西側圏のすぐ隣にある国だ。本来なら旧西トラスみたいに難民が押し寄せ、経済破綻してもおかしくないはずなんだが、どう言うわけか激動の6世紀と7世紀を、うまい具合に渡って来た。『央北の奇跡』なんて呼ぶ政治家もいるくらいだ。
不思議の国、リモード共和国。だもんでいつ取り扱っても手堅く読者が付く、俺たちみたいなのにとっては美味しい仕事場だ」
大通りからターミナル駅、議事堂と、中心街のランドマークを一通り周り、二人は大通りの端、アドラー邸に差し掛かる。
「さっきも来たから、何か不思議な感じですね」
「かもな。……ところでシュウちゃん、知ってるか? どうして通りの端に、共和国の名門アドラー家の邸宅があるのか」
「言われてみれば……? 名家なんだから、もっといい立地でもいいですよね」
「アドラー家は代々軍人の一家だ。そこに秘密がある。……ま、答えを言うとだ、元々アドラー家の開祖、ミューズが騎士団を結成したわけだが、このミューズ率いる騎士団が実は、いわゆる『隠密部隊』でもあったんだ。正規戦闘だけじゃなく、裏で諜報やら破壊工作やらを行う、共和国にとっての闇のヒーローってわけだ。その隠密部隊の司令官が本営すぐそばに陣取ってちゃ意味ないだろ、ってことでここに構えてるってわけだ」
「えぇ!? ほ、本当ですか!?」
「……くっく」
カニートは肩を震わせ、噴き出した。
「ま、ありがちなうわさだよ。嘘か真か、ってやつさ」
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不思議の国。
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「ソレじゃ、あの、コレで取材終わりで、はい」
初めてのインタビューを終えたシュウは、カチコチとした仕草でスマホをしまった。と、彼女を取材に連れてきた出版社の先輩、カニートがシュウの腕を小突く。
「シュウちゃん、言ったろ? はじまりとおわりに必要なことは?」
「……あっ、挨拶! ごめんなさい! ありがとうございました!」
慌ててシュウは、勢い良くがばっと頭を下げ――ゴン、と痛々しげな音を立てて、テーブルに頭突きしてしまった。
「いったあ……」
「すんませんねー、こいつ粗相してばっかりで」
「うふふ……いえ、お構いなく。ねえ、メイスンさん」
インタビューの相手である、リモード共和国の名家アドラー家の令嬢、狼獣人のエヴァンジェリン・アドラーは、赤くなったシュウの額をさすってやりながら、こうささやいた。
「よろしければ今夜、二人でお話いたしませんこと?」
「え? わ、わたしとですか?」
「ええ。わたくし、あなたに興味がございますの。それにわたくし、他の国の方でお歳の近い方との交流があまりなくて。ご都合はよろしいかしら?」
尋ねられ、シュウはカニートと自分の手帳を交互に見る。
「えっ、えーと、今夜って何かありましたっけ?」
「今夜はこのインタビューの文字起こしする予定だったが、1時間や2時間遅らせたって問題ない。明日の予定は昼からになってるからな。むしろ話が面白ければ、お前の独占取材って形でワク取ってやってもいいぞ。ま、アドラーさんが許可してくれればだが」
「ええ、込み入った内容でなければ構いませんわ。でも」
エヴァは、今度はシュウの手を握り、にっこり微笑んだ。
「あまり大した内容にはならないかと。あくまで年頃の娘二人のお話ですから」
と、徹頭徹尾に渡って「立派なご令嬢」の姿を見せつけられ、シュウはすっかり気後れしてしまっていた。
「あーもー……わたしホントどうしましょう? お話って一体何すればいいんでしょーか。ホンモノのお嬢様になんて、一度も会ったコトないのに」
シュウとカニートは一旦、取材中の拠点であるホテルに戻り、午後の写真撮影の準備を進めつつ、エヴァとの約束について話していた。
「そんなに心配しなくてもいいだろ。これが国家元首との会食とかだったら俺だってそりゃ怖ええしどうすりゃいいんだってなるけど、アドラー嬢の言った通り、歳の近い娘二人がただご飯食べておしゃべりして親交深めるってだけだろうし。服もそのまんまでいいと思うぜ」
「で、でもぉ~……」
「それより午後の話だ。分かってると思うが、観光気分で回ったりするなよ。俺たちの仕事は旅行案内ジャーナル作りじゃなく、文化誌の製作なんだからな」
「は、はーい、分かってまーす」
答えたものの、シュウは準備が手に付かない。それを見かねたか、カニートが彼女の猫耳をぐにっとつかんだ。
「ひぅ!?」
「アドラー嬢はああ言ってたが、お前にとって取材のチャンスってのは間違いないんだからな。お前の場合、『遊び』より『仕事』って思った方が、むしろやりやすいんだろ?」
「……見抜かれてますねぇ」
「観察力と洞察力はジャーナリストの武器だぜ、シュウちゃん」
二人はカメラを手に共和国首都、ニューペルシェ市街地へ繰り出した。
「トラス王国と負けず劣らずの発展具合、って感じですよね」
「そうだな。経済規模こそ央北じゃ中の下くらいだし、戦争真っ最中の西側圏のすぐ隣にある国だ。本来なら旧西トラスみたいに難民が押し寄せ、経済破綻してもおかしくないはずなんだが、どう言うわけか激動の6世紀と7世紀を、うまい具合に渡って来た。『央北の奇跡』なんて呼ぶ政治家もいるくらいだ。
不思議の国、リモード共和国。だもんでいつ取り扱っても手堅く読者が付く、俺たちみたいなのにとっては美味しい仕事場だ」
大通りからターミナル駅、議事堂と、中心街のランドマークを一通り周り、二人は大通りの端、アドラー邸に差し掛かる。
「さっきも来たから、何か不思議な感じですね」
「かもな。……ところでシュウちゃん、知ってるか? どうして通りの端に、共和国の名門アドラー家の邸宅があるのか」
「言われてみれば……? 名家なんだから、もっといい立地でもいいですよね」
「アドラー家は代々軍人の一家だ。そこに秘密がある。……ま、答えを言うとだ、元々アドラー家の開祖、ミューズが騎士団を結成したわけだが、このミューズ率いる騎士団が実は、いわゆる『隠密部隊』でもあったんだ。正規戦闘だけじゃなく、裏で諜報やら破壊工作やらを行う、共和国にとっての闇のヒーローってわけだ。その隠密部隊の司令官が本営すぐそばに陣取ってちゃ意味ないだろ、ってことでここに構えてるってわけだ」
「えぇ!? ほ、本当ですか!?」
「……くっく」
カニートは肩を震わせ、噴き出した。
「ま、ありがちなうわさだよ。嘘か真か、ってやつさ」
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