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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 5;緑綺星」
    緑綺星 第2部

    緑綺星・狼嬢譚 3

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    シュウの話、第40話。
    おともだち。

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    3.
     夕方になり、シュウは持って来た服と市街地で買ったアクセサリでできる限りのおめかしをして、エヴァとの夕食に臨んだ。
    (ちょっと早く来ちゃったかな。……コレでいいよね? うん、かわいいし、多分ドレスコードも満たしてるはず)
     レストランの入口のガラスで、失礼のない服装であるかを何度も確認する。と――。
    「すまない。待たせたな、シュウ」
     エヴァの声がしたので、シュウはガラスに映っている自分の背後を見る。だが、朝に見た貴族令嬢の姿はなく、長い髪をざっくりとポニーテールでまとめた、スポーティな格好の女の子が映っていた。
    「えっ!?」
    「どうした?」
    「あの、あなた、えっと、……もしかして、エヴァさん?」
    「そうだ。私がエヴァだ」
     振り返って確認しても、そこにいたのはやはり、どちらかと言えば運動部が似合いそうな雰囲気の娘だった。

    「済まなかった。もっと楽な格好でいいと言っておけば良かったな」
    「い、いえ」
     朝に会った瀟洒で優雅な淑女と同一人物だとは全く思えず、シュウは同じことをもう一度聞いてしまう。
    「あの、確認なんですけど、あなた、エヴァンジェリン・アドラーさん18歳でお間違いないですか?」
    「ああ。朝のあれは、正直に言えば広報用と言うか、公式向けの顔と言うか。公にはああして構えているのだが、こうして歳の近い娘と二人で会うのだから、私本来の格好の方が望ましいだろうと思ってな。失望させてしまったか?」
    「いえ、……何て言うか、逆にほっとしました。そっちの方が身構えなくて済みます」
    「それなら良かった」
     ともかく席に付き、二人は食事を頼む。
    「わたしはミートパイとポタージュで」
    「私は白身魚とポテトのフライを頼む。……さてと」
     エヴァは狼耳を揺らし、嬉しそうな笑顔をシュウに向ける。
    「聞かせてくれないか? どうして私の取材を?」
    「え? あの、お伝えしたかと思いますが……」
    「ああ。『来年度より騎士団に入団することが決定したアドラー家の令嬢に、その心境を伺いに来た』だったかな? しかし素人意見で恐縮だが、こんな時代に片田舎のいち名家令嬢の進学如きを取り上げたところで、読者数はそう稼げまい?」
    「そうでもないらしいですよ。『エヴァ嬢は下手なアイドルより可愛いから、表紙を飾るだけで売れ行きが変わる』って先輩が言ってましたから」
    「褒め言葉と取っておくが、正直、嬉しくは感じないな」
     エヴァはふう、と憂鬱そうなため息を漏らした。
    「この格好を見て多少は理解してくれたと思うが、私はどちらかと言うと無骨な性質なんだ。一応『お嬢様』だから外向けには着飾って対応するが、あれはあまり好きではないんだ」
    「だからわたしにはこっそり……、ってコトですか?」
     尋ねたシュウに、エヴァは苦笑いする。
    「誰かには伝えておきたくてね。家や学校の外でこの振る舞いをすると、家の人間から『品格を損なう』だの何だのと小言を言われてしまうんだ。だから運動する時以外はいつもあのフリフリを着させられる」
    「エヴァさんもなんですねー」
     そう返したシュウに、エヴァは首をかしげる。
    「『も』? 君も似たような経験が?」
    「自慢じゃないですが、わたしの家もそこそこおっきな家なんです。だからマナーとか言葉遣いとか、色々細かく言われるんですよね」
    「そうなのか。……へぇ」
     エヴァはまた、嬉しそうな笑顔になる。
    「思っていたより君とは仲良くなれそうな気がする。似ているんだな」
    「えへへ、そうですねー」

     実際、共通点を見出してからは、親密になるのは早く――。
    「お前、またアドラー嬢のとこ行くのか?」
     1週間の取材旅行の後半はほとんど、シュウはエヴァと共に過ごしていた。
    「仕事はちゃんとやってくれてるから文句は無いけどな、入れ込みすぎじゃないのか?」
    「そうですか? わたしはただ、友達と一緒に過ごしてるだけと思ってるんですが……」
     そう答えたシュウに、カニートが苦い顔を向けた。
    「2つ言っとくことがある。1つ――これは俺がとある鉄道会社の社長にインタビューした時に聞いた話なんだが――友情とビジネスはごっちゃにするな、だ。友情ってのは自分と相手の、2人の話だが、ビジネスはそうじゃない。多くの人間が関わることだし、時には社会全体に影響することもある。
     だから『友達の話』を新聞とか、雑誌とか、いわゆる『社会の公器』に載せたりするんじゃないぞ。もしそんなことをしたら、その友達が2人だけの話にしておきたかったことまで世間が知ることになるし、知ろうとしたがるだろう。そうなれば友達は間違いなく、お前から離れることになる。
     そしてお前には、二度と友達ができなくなるだろう。どんな人間からも、『あいつは友情をカネに換える奴だ』と思われるからだ」
    「……そうですね。肝に命じます。ソレで2つ目は?」
     尋ねたシュウに、カニートは肩をすくめて返した。
    「のんびりしてるみたいだが、明日帰りだぞ? 朝9時にチェックアウトだからな」
    「……あっ」
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