fc2ブログ

黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 5;緑綺星」
    緑綺星 第2部

    緑綺星・狼嬢譚 4

     ←緑綺星・狼嬢譚 3 →緑綺星・闇騎譚 1
    シュウの話、第41話。
    微笑ましさの裏に。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    4.
     リモード共和国での取材を終え、故郷に帰ってからも、シュウとエヴァの友情は続いていた。

    シュウ「今度の夏季インターンは 別の国に取材に行く予定だよ」
    エヴァ「また来てくれると思ったけど 残念だな」
    シュウ「行きたいんだけどね」
    シュウ「あ でもインターン終わって秋期始まるまでちょっとあるから」
    シュウ「2日か3日くらいなら行けるかも」
    エヴァ「本当? 是非来て 色々話したい」
    シュウ「行く行く 計画しっかり立てとくね」
    エヴァ「日にち決まったらすぐ教えて」
    シュウ「りょ」


     こまめにTtT――チャットアプリ「テイル・トゥ・テイル」――でエヴァとやり取りしていたシュウの背後から、声がかけられる。
    「ぺこんぺこん音立ててるから、ToDoリストの確認とかじゃないよな」
    「あっ」
     慌ててスマホを机に置き、シュウは振り返って頭を下げる。
    「ごめんなさい、うるさかったですか?」
    「いや、音は気にしてない。気になったのは、時刻だな」
    「時刻?」
     カニートに言われて、シュウはもう一度スマホを手に取り、時刻を確かめる。
    「16時ちょい前くらいですね」
    「夕べもその時間にポチポチやってたなって」
    「あれ、そうでしたっけ? ……そうでした」
     TtTの履歴を確かめ、カニートに言われた通りであることに気付く。
    「よく覚えてますね、そんなコト」
    「細かいことにこそ、重大なネタの尻尾が付いてるもんさ。……ふむ」
     カニートは席を立ち、あごに手を当て思案する様子を見せる。
    「どしたんですか?」
    「相手はいつもの『お嬢さま』か? 昨日のも、今日のも」
    「ええ、まあ、はい」
    「リモード共和国との時差はマイナス1時間だから……、向こうは3時前か。もう騎士団に入ったんだよな、アドラー嬢」
    「そうらしいですね」
    「ちょっと妙だよな」
     そう言われ、シュウはきょとんとする。
    「何がですか?」
    「ウチの部署はゆるい方だし、なんならTtTどころかゲームやってるアホもいる。流石に引き出しの中にスマホ隠して、こっそりやってるみたいだがな」
     どこかでガタッと、引き出しに手をぶつけたような音がしたが、カニートは構わず話を続ける。
    「だが騎士団ってのは、お嬢曰く士官養成学校なんだろう? そう聞くと俺には厳格なイメージが浮かぶんだが、昼の休憩が3時まであるのか? それとも何かの訓練か授業かの合間に、こっそりスマホをいじってられる程度には規則が緩いのか? いや、そもそもお嬢の説明が、実態と大きく異なるのか? ……なんてことを考えてみたくなる」
    「……言われてみれば気になりますね。なるほど、『細かいコトにこそ』ですね。勉強になりますー」
     そう言うなりメモに取り始めたシュウを見て、カニートは苦笑いした。
    「お前は案外、大物になるかもな」
    「えへへ、よく言われます」
     と、話している間にぺこん、とTtTの着信音が鳴る。
    「そう言やお嬢とは、何の話してたんだ?」
    「あ、このインターン終わったら遊びに行くよって」
    「そっか。じゃあその辺り、試しに突っ込んでみたらどうだ? 何かいいネタがつかめるかも知れないぞ」
     その言葉に、シュウは口を尖らせる。
    「ちょっとー……。友情と仕事は一緒にしたらダメだって言ったの、先輩じゃないですかー」
    「そりゃま、友情を壊さない範囲でな」



     スマホを懐にしまい込んだエヴァは、ふっとため息をついた。
    「どうした、V?」
    「なんでもない」
     そう返したが、すぐ訂正する。
    「……いや、……そうだな、言うなれば自嘲だな。明日にはまた血なまぐさい『任務』だと言うのに、私は呑気に友人をだましているのだから」
    「騙してるって?」
     作業していた隣の青年に尋ねられ、エヴァは肩をすくめて返す。
    「彼女は今でも私が、世間知らずのお嬢様だと思っているのだろう。今の私のことは、何も知らせていない。騙しているようなものだ」
    「人間関係なんて、そんなのばかりだろ」
     と、書類を眺めていた男が口を挟む。
    「こうして任務に就く俺たちのプライベートを、皆が皆、知ってるわけじゃない。こうして共に死地をくぐり抜けてきた戦友であっても、だ。ましてやうわべの付き合いをしてる相手の『本当の姿』なんて、知ってる方が気味悪いってもんだ。
     俺たちみたいに、無理やり探ろうとでもしない限りはな」
    「……そうだな。……そんなものか」
     エヴァはもう一度ため息をつき――武器の手入れを再開した。

    緑綺星・狼嬢譚 終
    関連記事




    ブログランキング・にほんブログ村へ





    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 5;緑綺星
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    総もくじ 3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 5;緑綺星
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    もくじ  3kaku_s_L.png DETECTIVE WESTERN
    もくじ  3kaku_s_L.png 短編・掌編
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
    もくじ  3kaku_s_L.png 携帯待受
    もくじ  3kaku_s_L.png 今日の旅岡さん
    総もくじ  3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    • 【緑綺星・狼嬢譚 3】へ
    • 【緑綺星・闇騎譚 1】へ

    ~ Comment ~

    管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    トラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【緑綺星・狼嬢譚 3】へ
    • 【緑綺星・闇騎譚 1】へ