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    「双月千年世界 5;緑綺星」
    緑綺星 第2部

    緑綺星・闇騎譚 1

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    シュウの話、第42話。
    最終入団試験。

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    1.
     双月暦715年2月、エヴァはアドラー騎士団に入団するべく、試験に臨んでいた。
     軍人一家で代々士官・将軍を輩出する名家といえど、それだけでやすやすと通されるほど試験は甘くなく、彼女も規定通りに一次試験から参加していた。とは言え元より英才、文武両道のご令嬢として、外国の雑誌にも取り上げられるほどの実力の持ち主である。一次試験の筆記、二次試験の体力測定ともに最高成績で通過し、最終試験の面接でも最も高い評価を受けて、総合一位で試験に合格した。



     そして最終試験を突破した者たちは、講堂に集められた。
    「おめでとう。諸君らは優秀な成績で入団試験を突破した、選ばれた者たちだ」
     祝辞らしきものを述べてはいたが、講堂の壇上に立った騎士団長、エヴァの祖父でもあるジョゼ・アドラーは、冷徹な眼差しでエヴァたちを見下ろしていた。
    「だが諸君らが真に、我が騎士団にふさわしい者であるか、そしてこの国の未来を担うにふさわしい者であるか、最後にもう一度試させてもらう」
     講堂にしゅう……、とガスが流れ込んで来る。
    「これが本当の最終試験だ」
    「ほん……とうの……?」
     まもなく、エヴァは意識を失う。いつの間にか現れたアクリル板の向こうにいたジョゼは、最後まで冷徹な表情を崩さなかった。

     目を覚ますと、エヴァは真っ暗な部屋の中にいた。
    「……!?」
     がばっと飛び起き、構えるが、辺りの様子はまったくつかめない。
    (何故? 確認しよう……ここはどこ……何のために……何をすればいい?)
     それでもどうにか自分が今できること、できそうなことを考え、部屋の中を歩き回る。
    (部屋は縦5メートル、横3メートルくらい。ドアも窓も無い。机や椅子、家具の類も無い。壁と床は多分コンクリート。……叩いても響かない。相当分厚いらしい)
     部屋の中を調べてみたが、脱出できそうな要素は無い。
    (でも私が息をしているのなら、どこかから空気が入り込んでいると言うことだ。後、調べていないのは……)
     エヴァは壁のわずかな突起を手探りでつかみ、壁をよじ登る。ほどなく天井に手が届き、そこだけ材質が違うことに気付いた。
    (木製みたいだ。べこべこした音だ……これなら破れる)
     彼女は一旦床に降り、壁から離れる。
    (天井までおよそ2メートル半。壁を蹴れば届く)
     そして助走をつけ、部屋の隅めがけて跳び上がる。
    「りゃあッ!」
     バン、バンと隣接する壁を三角跳びで駆け上がり、天井を殴りつける。予想通り天井は脆く、簡単に拳が突き抜けた。
    「よし!」
     もう一度壁を登り、エヴァは天井裏に入る。
    (わずかだが……灯りがある。どこかの通路……?)
     と――比較的強い灯りがぽつ、ぽつと2つ灯り、驚いた顔の、短耳の男と目が合った。
    「運び込まれてたったの37分でここに登って来たのは、君が始めてだ。普通なら目を覚ますだけでも2時間かかると言うのに。ましてや目覚めてすぐ、壁を登ろうと言う発想に至るとは。驚くほかない」
    「え?」
    「流石はアドラー家のご令嬢、……いや、君自身が素晴らしいのだろう。お兄さんとは比べるべくもないからな。ではエヴァンジェリン・アドラー。こちらへ」
     男に促されたが、エヴァはその場から微動だにしない。しばらく見つめ合っていたが、やがて男がやれやれと言いたげな表情を浮かべ、懐からリモコンを取り出した。
    「警戒心も一流だな」
     リモコンのボタンを押し、男の方から歩み寄ったところでようやく、エヴァは相手に近付いた。
    「この後は?」
    「しばらく待機だ。あと23時間22分以内に全員が突破すれば、そこで入団試験は終了だ」
    「それを超えた方はどうなるのかしら?」
    「もちろん失格だ。この真最終試験は何ら一切の情報が無い状態から、己の身一つで状況を打開できるかを測るものだからな。それができない人間は、騎士団には必要ない」

     そして24時間後、エヴァを含む受験者8名のうち、6名が入団試験に合格した。
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