「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第2部
緑綺星・闇騎譚 2
シュウの話、第43話。
Make a KNIGHT。
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2.
入団してまもなく、エヴァは寮での生活を義務付けられ、外界との接触を一切禁止された。それに加え、エヴァが物心付いた時から伸ばしていた黒髪はばっさり落とされ、すっかり丸刈りにされた。
「まるで監獄ですわね」
寮長を務める先輩団員に――彼は先日の真最終試験で、エヴァに合格を言い渡した青年である――皮肉交じりの感想を述べたところ、彼はこう返した。
「1年過ごせば外に出られるし、スマホも許可される。髪型も自由だし、プライベートなら好きな服を着られる。1年持てばの話だがな」
「そんなに厳しいのですか?」
「軍隊だからな。……そうだ、アドラー。3つ言っておくことがある」
「なんでしょうか?」
男も皮肉げに微笑みつつ、エヴァの肩を叩いた。
「その1、ここは『外の話』が通用しない世界だ。だから一般的常識や人間関係を持ち込むことは認められていないし、わざわざ持ち込む必要もない。例えそれが名家の人間に対してであってもだ」
そう言われて、エヴァはニッと笑い返した。
「ではお嬢様言葉で応対し、作り笑いを浮かべる必要はないと言うことか?」
「そう言うことだ。その点においては気楽だぞ。そしてその2、名前は呼ばないこと」
「名前を呼ばない?」
「そのうち分かるが、隠密行動についての指導も受けるし、実地での訓練もある。それに備えて、今のうちからコードネームが付けられる。お前にも与えられるだろう。そしてその3だが」
男はこう続け、部屋を後にした。
「俺のコードネームはR32だ。呼ぶ時はRと呼べ。他にRがいたら番号付きで」
Rの言う通り、エヴァには入寮したその日のうちにコードネーム、「V68」が与えられた。訓練はまず、ごく一般的な兵士としての基礎を身に付けるところから始まり、3ヶ月の間、彼女は他の入団者と共に銃やナイフ、格闘術など、あらゆる戦闘技術を仕込まれた。
そして次の3ヶ月では、座学授業も加わった。だが単に教科書通りの知識を詰め込むだけではなく、中央大陸で一般的に話されている言語すべてを、現地人並みに流暢に話せるようになることを求められたり、その辺りのスーパーやコンビニで販売されている商品から毒物を抽出・生成する技術を学ばされたりと、確かに敵陣へ入り込み現地調達で任務を達成する諜報員に必要らしき、実践的かつ高度なものを、その3ヶ月で昼夜の区別なく叩き込まれた。
そして半年間の訓練を経たエヴァを含む入団者6名は、Rに招集された。
「騎士団執行部から任務が下った」
Rからそう告げられ、全員が息を呑むが、Rはいつものように淡々とした態度で、話を続ける。
「入団した以上、いつかはやって来る話だ。覚悟はできていただろう?」
「ああ」
エヴァは平静を装い、うなずいて見せた。
「では任務内容を伝える。敵性勢力が明日未明辺り、自国西側国境から侵入する可能性が高いことが判明した。諸君らは先んじて国境を越え、この敵性勢力を排除すること。敵性勢力の詳細だが、ツキノワ社マイクロバス、白の688年製『ランドトレインミニ』で接近すると見られている。諸君らは彼らが国境に接近する前に、これを破壊せよ。出発はまもなくだ。装備は出発直前に支給するものとする。質問はあるか?」
「敵性勢力と仰いましたが、我が国にそんなものが?」
尋ねた相手に、Rは目線を合わせず、淡々と答える。
「全員理解していることと思うが、我が国は小国だ。それも、今まさに戦争が行われている地域に隣接する、政治的に不安定な地帯に属している。である以上、いつ何時、その政情不安に乗じて好戦的な国家が侵攻してきてもおかしくない。となれば我が国に事前連絡なく接近する者は、原則として敵性勢力であると見なさねばならない」
「どうやってその、敵性勢力の捕捉が行われたんですか?」
別の者にも質問され、これにも淡々と答える。
「騎士団内の諜報班からの報告によるものだ。現在も我が騎士団は、近隣地域に対して諜報活動を続けている。繰り返すようだが我が国は、常に侵略の危険にさらされている。その兆候・予兆を見抜くことは、我が国の存亡に関わる重要任務だ。故にこの情報は信頼性が非常に高いものであると判断していい」
「もし敵性勢力でないと我々が判断したら?」
エヴァが尋ねたところで、ようやくRは顔を向けた。
「諸君らが仮にそう判断したとしても、その判断に従う権限は、諸君らには与えられていない。執行部命令には厳格に従うように。背けば厳罰だ」
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入団してまもなく、エヴァは寮での生活を義務付けられ、外界との接触を一切禁止された。それに加え、エヴァが物心付いた時から伸ばしていた黒髪はばっさり落とされ、すっかり丸刈りにされた。
「まるで監獄ですわね」
寮長を務める先輩団員に――彼は先日の真最終試験で、エヴァに合格を言い渡した青年である――皮肉交じりの感想を述べたところ、彼はこう返した。
「1年過ごせば外に出られるし、スマホも許可される。髪型も自由だし、プライベートなら好きな服を着られる。1年持てばの話だがな」
「そんなに厳しいのですか?」
「軍隊だからな。……そうだ、アドラー。3つ言っておくことがある」
「なんでしょうか?」
男も皮肉げに微笑みつつ、エヴァの肩を叩いた。
「その1、ここは『外の話』が通用しない世界だ。だから一般的常識や人間関係を持ち込むことは認められていないし、わざわざ持ち込む必要もない。例えそれが名家の人間に対してであってもだ」
そう言われて、エヴァはニッと笑い返した。
「ではお嬢様言葉で応対し、作り笑いを浮かべる必要はないと言うことか?」
「そう言うことだ。その点においては気楽だぞ。そしてその2、名前は呼ばないこと」
「名前を呼ばない?」
「そのうち分かるが、隠密行動についての指導も受けるし、実地での訓練もある。それに備えて、今のうちからコードネームが付けられる。お前にも与えられるだろう。そしてその3だが」
男はこう続け、部屋を後にした。
「俺のコードネームはR32だ。呼ぶ時はRと呼べ。他にRがいたら番号付きで」
Rの言う通り、エヴァには入寮したその日のうちにコードネーム、「V68」が与えられた。訓練はまず、ごく一般的な兵士としての基礎を身に付けるところから始まり、3ヶ月の間、彼女は他の入団者と共に銃やナイフ、格闘術など、あらゆる戦闘技術を仕込まれた。
そして次の3ヶ月では、座学授業も加わった。だが単に教科書通りの知識を詰め込むだけではなく、中央大陸で一般的に話されている言語すべてを、現地人並みに流暢に話せるようになることを求められたり、その辺りのスーパーやコンビニで販売されている商品から毒物を抽出・生成する技術を学ばされたりと、確かに敵陣へ入り込み現地調達で任務を達成する諜報員に必要らしき、実践的かつ高度なものを、その3ヶ月で昼夜の区別なく叩き込まれた。
そして半年間の訓練を経たエヴァを含む入団者6名は、Rに招集された。
「騎士団執行部から任務が下った」
Rからそう告げられ、全員が息を呑むが、Rはいつものように淡々とした態度で、話を続ける。
「入団した以上、いつかはやって来る話だ。覚悟はできていただろう?」
「ああ」
エヴァは平静を装い、うなずいて見せた。
「では任務内容を伝える。敵性勢力が明日未明辺り、自国西側国境から侵入する可能性が高いことが判明した。諸君らは先んじて国境を越え、この敵性勢力を排除すること。敵性勢力の詳細だが、ツキノワ社マイクロバス、白の688年製『ランドトレインミニ』で接近すると見られている。諸君らは彼らが国境に接近する前に、これを破壊せよ。出発はまもなくだ。装備は出発直前に支給するものとする。質問はあるか?」
「敵性勢力と仰いましたが、我が国にそんなものが?」
尋ねた相手に、Rは目線を合わせず、淡々と答える。
「全員理解していることと思うが、我が国は小国だ。それも、今まさに戦争が行われている地域に隣接する、政治的に不安定な地帯に属している。である以上、いつ何時、その政情不安に乗じて好戦的な国家が侵攻してきてもおかしくない。となれば我が国に事前連絡なく接近する者は、原則として敵性勢力であると見なさねばならない」
「どうやってその、敵性勢力の捕捉が行われたんですか?」
別の者にも質問され、これにも淡々と答える。
「騎士団内の諜報班からの報告によるものだ。現在も我が騎士団は、近隣地域に対して諜報活動を続けている。繰り返すようだが我が国は、常に侵略の危険にさらされている。その兆候・予兆を見抜くことは、我が国の存亡に関わる重要任務だ。故にこの情報は信頼性が非常に高いものであると判断していい」
「もし敵性勢力でないと我々が判断したら?」
エヴァが尋ねたところで、ようやくRは顔を向けた。
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