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    「双月千年世界 5;緑綺星」
    緑綺星 第2部

    緑綺星・闇騎譚 3

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    シュウの話、第44話。
    静寂の戦場。

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    3.
     エヴァたち新入団員は2チーム、3名ずつに分けられ、それぞれにリーダーとして先輩団員が付けられた。ちなみにエヴァたちのリーダーは、やはりと言うべきか――。
    「R、まさか君は私を狙っているわけではないよな?」
     尋ねたエヴァに、Rは軍用トラックのハンドルを握りつつ、いつものように肩をすくめて返した。
    「チームメンバーの選出はくじ引きだった。君を引いたのは偶然だ。……とは言えこうしてあっちこっちで顔を合わせてると、流石の俺も運命と言うものを感じざるを得ないがね」
    「私は感じない。タイプじゃないし」
    「そりゃ良かった。気が合うね」
     軽口を一通り叩き合ったところで、Rがチーム全員に声をかけた。
    「じきに国境だ。この野戦服を着ている時点で既に察しているだろうが、我々の身分は国境を越えた時点で騎士団員ではなく、偽りのものとなる。C、我々は何だ? 言ってみろ」
    「白猫共和党軍です」
    「不正解だ」
     Rは淡々と、その回答を訂正する。
    「正式名称は白猫共和党東部陸軍前線方面部隊第16中隊だ。万が一『本物』と出くわした時にそう答えていなければ、お前は不審者と見なされ、即刻拿捕されるだろう。そしてそうなった場合、騎士団は絶対にお前を助けない。騎士団はお前の身柄を名簿から抹消し、何ら関係の無いものとして扱う。以後、一切関知することは無い。
     ではそれを踏まえて、H。我々の任務は何だ?」
    「敵性勢力のせんめ、……いえ、哨戒ですか?」
    「相手に尋ね返すような口調は、状況的に正解ではない。任務を与えられた兵士であるなら、断定形ではっきりと言い切れ。しかし内容は正解だ。そう、『我が部隊』の任務は、白猫共和党の陣地辺縁部の哨戒だ。
     故に不審な車輌を発見した場合、我々が執るべき行動は? 答えてくれ、V」
     尋ねられ、エヴァははっきりと言い切った。
    「判断の必要は無し。即攻撃、即殲滅すべし」
    「正解だ」
     Rが答えたところで、エヴァたちが乗っていたトラックは国境に到着する。隣国が戦時中と言うこともあり、連綿と続く高さ2メートル半もの鉄条網が行く手をさえぎっているように見えたが――。
    「騎士団の任務だ」
    「了解」
     国境手前に立っていた歩哨らしき2人にRが声をかけ、その2人が手早く鉄条網の一部を取り外す。幅4メートル半程度のすきまができたところで、トラックはそのまま国境を越え、鉄条網は元通りに張り直された。

     時刻は夜明け直前となっていたが、空はどんよりとした雲に覆われており、肉眼では地形が判別できない。しかしRは赤外線ゴーグルを装着しており、特に支障も無さげな様子で周囲を探っていた。
    「周囲に対象車輌無し。このまま北北東への進路を取る」
    「了解」
     時折班員たちと言葉を一言、二言、淡々と交わしつつ、Rは闇の中へトラックを進めて行った。
    (静かだ……)
     エヴァは狼耳をぴんと立て、トラックの車内から外の気配をうかがっていた。
    (白猫党は南北戦争の最中だったはずだが――トラックのエンジン音と、タイヤが砂利を踏む音以外、何の音も聞こえてこない。本当にここは、戦場なのだろうか)
     と、何かを踏み越えたらしく、がたん、とトラックが揺れる。
    「今のは!?」
     声を上げたCを、Rが淡々といさめる。
    「騒ぐな。大した問題は無い」
    「は、はい」
     そのまま全員口を閉ざし、トラックの中には再び静寂が訪れたが、エヴァは自分の心臓が、ばくばくと脈打つのを感じていた。
    (聞こえた。今、確かに……うめき声が……トラックの、下、から)
     エヴァはいつもと同様に平静を装い、今のは獣か何かだったのだ、いや、そもそも声自体が自分の空耳だったのだと、懸命に自分の記憶をごまかそうとしたが――どんな仮説や想像を以てしても、彼女の自慢の大きな耳にこびりついた声をかき消すことはできなかった。
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