「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第2部
緑綺星・闇騎譚 4
シュウの話、第45話。
エヴァの初陣。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
国境を越えて20分ほどしたところで、Rがやはり淡々とした声色で全員に声をかけた。
「10時方向、不審車輌を発見。大きさからしてマイクロバスだ。ツキノワ社のエンブレムを確認」
「……!」
それを聞いて、エヴァたち3人の顔色が変わる。
「そう……」
Cが何かを言いかけたが、すぐにコホンと咳払いし、言い換える。
「……そう、ですか」
様子をうかがいながら、エヴァはまだ動揺したままの心を落ち着かせるため、二人のやり取りを頭の中で咀嚼(そしゃく)する。
(Cはきっと、『捜索対象』と言いかけたのだろう。だが今、我々は白猫共和党軍として、哨戒任務に就いている。そう、哨戒だ。共和党軍は自軍陣地内で捜索などしない。自分たちの陣地を荒らす者を排除しているのだ。
……そう、冷静に分析できる。分析できてる。私は冷静だ。大丈夫。問題無い。問題無く、任務に当たれる。問題無く、任務を遂行できる)
何度も今組み立てた思考をなぞり、エヴァは懐に抱えていた自動小銃のグリップを握りしめ、立ち上がる。
「R、どのように『排除』する?」
「車輪を撃て。できれば後輪だ。上のルーフを使え」
珍しく、どこか嬉しそうな口ぶりで命じたRに従い、エヴァはトラックの屋根に付けられた窓を開ける。
(……あれだな)
エヴァも赤外線ゴーグルを装備し、ぼんやり緑色に照らされた視界の左から、古ぼけたバスがこちらに向かってくるのを確認する。
(対象までの距離、約200メートル……射程圏内だ。バースト1回で十分)
小銃の安全装置を解除し、エヴァは引き金を絞った。ぱぱぱ、と火薬の弾ける音が3回響き渡った次の瞬間、バスはがくんと左に傾き、そのまま横倒しになった。
「動きを止めた。次は?」
「Cは左、Hは右からそれぞれフルオート掃射。Vはグレネードを撃ち込め」
「了解!」
意気揚々と、CとHはトラックを飛び出す。ほどなくして、ぱぱぱぱ……、と立て続けに銃声が響き渡り、バスがみるみる穴だらけになっていく。
(これで……とどめだッ!)
エヴァは小銃の下部に取り付けていたグレネード砲を発射する。砲口からポンと音が鳴って、一瞬後――バスは爆発、炎上した。
「やった!」
「うおおおっ!」
弾倉2本ずつを撃ち込み終え、すっかり高揚していたらしいCとHが、歓喜の声を上げる。が、やはりRは終始淡々としており、二人にインカムで指示を送った。
「撤収だ。速やかに戻れ」
「は、はい!」
二人が慌ててきびすを返し、大股で戻って来る間に、Rが窓越しに声をかける。
「初陣の味はどうだ?」
「……悪くない」
素直な感想を述べて、エヴァもトラックの中に戻った。
任務を終え、騎士団本営に戻って来た4人を、エヴァの祖父、ジョゼ騎士団長が出迎えた。
「初の任務を成功し、無事に戻って来たことを祝そう。よくやった」
この半年にわたる訓練の間、決してほめもせず、笑顔を見せることも無かった彼から直に評価を受け、エヴァを含む新団員3人は顔をほころばせた。
「半年の訓練に耐え、与えられた任務を見事に全うして見せた。これで諸君らは、正式に騎士団員となったのだ。改めて歓迎しよう。ようこそ、闇の騎士団(ダークナイツ)へ」
そう続け、ジョゼは一人ずつ、がっしりとその身を抱きしめた。もちろんエヴァも例外ではなく、物心付いて以来初めて、祖父の腕の中に収まった。
その時――。
「V68。いや、エヴァンジェリン。お前が我がアドラー家の、黒き宿命を背負うのだ」
「えっ……?」
自分の狼耳にささやかれたその言葉の本意を問う前に祖父はエヴァから離れ、もう自分たちから背を向けてしまっていた。
「次の任務は追って知らせる。それまでは待機を命ずる。以上だ」
これ以降、その年の終わりまでに、エヴァは10回出撃したが――そのすべてで文句の無い結果を出し、彼女は騎士団有数の精鋭となっていった。
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エヴァの初陣。
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4.
国境を越えて20分ほどしたところで、Rがやはり淡々とした声色で全員に声をかけた。
「10時方向、不審車輌を発見。大きさからしてマイクロバスだ。ツキノワ社のエンブレムを確認」
「……!」
それを聞いて、エヴァたち3人の顔色が変わる。
「そう……」
Cが何かを言いかけたが、すぐにコホンと咳払いし、言い換える。
「……そう、ですか」
様子をうかがいながら、エヴァはまだ動揺したままの心を落ち着かせるため、二人のやり取りを頭の中で咀嚼(そしゃく)する。
(Cはきっと、『捜索対象』と言いかけたのだろう。だが今、我々は白猫共和党軍として、哨戒任務に就いている。そう、哨戒だ。共和党軍は自軍陣地内で捜索などしない。自分たちの陣地を荒らす者を排除しているのだ。
……そう、冷静に分析できる。分析できてる。私は冷静だ。大丈夫。問題無い。問題無く、任務に当たれる。問題無く、任務を遂行できる)
何度も今組み立てた思考をなぞり、エヴァは懐に抱えていた自動小銃のグリップを握りしめ、立ち上がる。
「R、どのように『排除』する?」
「車輪を撃て。できれば後輪だ。上のルーフを使え」
珍しく、どこか嬉しそうな口ぶりで命じたRに従い、エヴァはトラックの屋根に付けられた窓を開ける。
(……あれだな)
エヴァも赤外線ゴーグルを装備し、ぼんやり緑色に照らされた視界の左から、古ぼけたバスがこちらに向かってくるのを確認する。
(対象までの距離、約200メートル……射程圏内だ。バースト1回で十分)
小銃の安全装置を解除し、エヴァは引き金を絞った。ぱぱぱ、と火薬の弾ける音が3回響き渡った次の瞬間、バスはがくんと左に傾き、そのまま横倒しになった。
「動きを止めた。次は?」
「Cは左、Hは右からそれぞれフルオート掃射。Vはグレネードを撃ち込め」
「了解!」
意気揚々と、CとHはトラックを飛び出す。ほどなくして、ぱぱぱぱ……、と立て続けに銃声が響き渡り、バスがみるみる穴だらけになっていく。
(これで……とどめだッ!)
エヴァは小銃の下部に取り付けていたグレネード砲を発射する。砲口からポンと音が鳴って、一瞬後――バスは爆発、炎上した。
「やった!」
「うおおおっ!」
弾倉2本ずつを撃ち込み終え、すっかり高揚していたらしいCとHが、歓喜の声を上げる。が、やはりRは終始淡々としており、二人にインカムで指示を送った。
「撤収だ。速やかに戻れ」
「は、はい!」
二人が慌ててきびすを返し、大股で戻って来る間に、Rが窓越しに声をかける。
「初陣の味はどうだ?」
「……悪くない」
素直な感想を述べて、エヴァもトラックの中に戻った。
任務を終え、騎士団本営に戻って来た4人を、エヴァの祖父、ジョゼ騎士団長が出迎えた。
「初の任務を成功し、無事に戻って来たことを祝そう。よくやった」
この半年にわたる訓練の間、決してほめもせず、笑顔を見せることも無かった彼から直に評価を受け、エヴァを含む新団員3人は顔をほころばせた。
「半年の訓練に耐え、与えられた任務を見事に全うして見せた。これで諸君らは、正式に騎士団員となったのだ。改めて歓迎しよう。ようこそ、闇の騎士団(ダークナイツ)へ」
そう続け、ジョゼは一人ずつ、がっしりとその身を抱きしめた。もちろんエヴァも例外ではなく、物心付いて以来初めて、祖父の腕の中に収まった。
その時――。
「V68。いや、エヴァンジェリン。お前が我がアドラー家の、黒き宿命を背負うのだ」
「えっ……?」
自分の狼耳にささやかれたその言葉の本意を問う前に祖父はエヴァから離れ、もう自分たちから背を向けてしまっていた。
「次の任務は追って知らせる。それまでは待機を命ずる。以上だ」
これ以降、その年の終わりまでに、エヴァは10回出撃したが――そのすべてで文句の無い結果を出し、彼女は騎士団有数の精鋭となっていった。
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