「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第2部
緑綺星・嘘義譚 3
シュウの話、第50話。
騎士団の真実。
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3.
「おめでたい? おめでたいだとッ!?」
涙声で怒鳴ったエヴァに、老人は嘲った笑みを向ける。
「そうだろうがよ。今の今まで、自分がやってきたことが分かんなかったってんだからよ」
「知らされていなかったんだ。私たちはあれが敵だと言われて……」
「そりゃあウソだな」
老人はヒッヒッと薄気味悪く笑い、エヴァたちが乗ってきたトラックをあごで指し示した。
「少なくとも1人は、自分たちが襲ってたのは実は難民だったって話を把握してる奴がいるはずだぜ?」
「なに……!?」
「考えてもみろよ。そもそもチーム4人が4人とも全員、何一つ知りませんでやんす、上からのおつかいでやんすって無責任のバカ揃いだったとしたら、すんなりバスを見つけられたと思うか? どこそこを通ってるこれくらいの大きさだとか、細かく指示を受けてなきゃ、あのオンボロバスを敵性車輌だなんて認識なんかしやしねえだろうが」
「……それは……そんな奴がいるはず……」
と、老人はニヤニヤと笑いながら、エヴァの顔を覗き込む。
「会って5分か10分くらいだが、俺にゃお前さんの思考がどんなカタチしてるか、バッチリお見通しだ。きっとお前さんは今、そいつの顔が思い浮かんでたはずだ。だがそれを認めたくない。だもんで無意識に、そらとぼけようとした。だろう?」
「……」
言われてエヴァは、もう一度自分の心に問いかけた。
(そうだ……言われてみれば……いつもトラックを運転していたのも……いつも指令を受けていたのも)
エヴァはバスに背を向け、トラックの横に倒れたままの仲間たちの元に駆け寄った。
「起きろ! 起きろッ、R!」
Rの肩を何度か蹴り、無理やり起こす。
「知ってるんだろ!? お前、私たちが何をやってきたのか、全部知っているんだろう!? どうなんだ、R!?」
「う……うう……」
うめくRの胸ぐらをつかみ、エヴァはまくし立てる。
「教えろ、R! お前、全部知っていたのか!?」
「知って……何を……だ?」
「とぼけるなッ! 私たちが今まで襲ってきたのは敵なんかじゃない! そうだろッ!?」
「……それ……か」
Rは暗視ゴーグルを外し、エヴァに裸眼を向けた。
「知っていた。そうだ、騎士団からの本当の指令は、『難民を一人たりとも国内に入れるべからず』だった」
「何故だました!?」
「いずれ君には話すつもりだった。いや、時が来れば参加した全員に知らされる予定だった。誰だっていきなり『罪もない難民を殺せ』なんて指令を下されて、受けたがるはずがないからな」
「騎士団が命じたって言うのか!」
「そうだよ」
Rはエヴァの腕を払って、ふらふらと立ち上がる。
「西トラス王国の話を聞いたことはあるか?」
「30年ほど前に東トラス王国と統一された国だろう? それが何だ!?」
「まあ、聞けよ。これは国家運営上、非常に大事な話なんだ。西トラス王国は事実上、滅亡している。その理由は知ってるか?」
「……いや」
代わりに、いつの間にかトラックにもたれかかって煙草をふかしていた老人が答える。
「白猫党領からの難民がどーっと押し寄せたんだよ。西トラス国民の半分以上に相当する数がな。
考えてもみろよ。国民じゃない、つまり国のために働いて稼いでくれないタダ飯食らいがそんなに大勢押しかけたら、国家経済ってやつは破綻待ったなしだ。西トラスもそれでパンクしたのさ。
ここ最近、南北戦争は激化の一途をたどってる。南側が元気いっぱいに進撃してやがるからな。北側にとっちゃ、かつてない危機ってわけだ。当然そこに住んでた、非戦闘員にとってもな。このままこの国に留まってたら、いつ何時戦闘に巻き込まれて死ぬか分かんねえ。そんじゃ一か八か、別の国に逃げ込もうって話になるわな。例えば白猫党領のすぐ隣、……とかな」
「それが……我が国の安定の理由だったのか」
老人は吸口ギリギリまで燃えた煙草をぷっと吐き捨てつつ、話を続ける。
「騎士団とか言ってたな。じゃ、お前ら『ダークナイト』ってやつか。俺が知る限り、お前らんとこは他にも色々えげつないことやってるぜ。周辺国に忍び込んで情報かき集めてインサイダー取引仕掛けたり、各国要人を陰で脅して共和国有利の条約結ばせたり、やりたい放題さ。そんだけアコギにやってりゃ、そりゃ『央北の奇跡』にもなるわな。……とは言え俺に言わせりゃ、そんだけ裏で汚えことやってなきゃ、平和な国なんて作れやしねえのさ。『平和には犠牲が付き物』ってやつよ。
何度も言うがよ、お前さんはとことんおめでたいお嬢様なんだよ。なんで自分が平和な国で暮らせてたのか、その理屈が分からねえでいやがる。いや――分かってたはずなのに、分からねえフリしてやがるのさ」
「……~ッ」
エヴァは老人をにらみつけたが、何の反論もできなかった。
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騎士団の真実。
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3.
「おめでたい? おめでたいだとッ!?」
涙声で怒鳴ったエヴァに、老人は嘲った笑みを向ける。
「そうだろうがよ。今の今まで、自分がやってきたことが分かんなかったってんだからよ」
「知らされていなかったんだ。私たちはあれが敵だと言われて……」
「そりゃあウソだな」
老人はヒッヒッと薄気味悪く笑い、エヴァたちが乗ってきたトラックをあごで指し示した。
「少なくとも1人は、自分たちが襲ってたのは実は難民だったって話を把握してる奴がいるはずだぜ?」
「なに……!?」
「考えてもみろよ。そもそもチーム4人が4人とも全員、何一つ知りませんでやんす、上からのおつかいでやんすって無責任のバカ揃いだったとしたら、すんなりバスを見つけられたと思うか? どこそこを通ってるこれくらいの大きさだとか、細かく指示を受けてなきゃ、あのオンボロバスを敵性車輌だなんて認識なんかしやしねえだろうが」
「……それは……そんな奴がいるはず……」
と、老人はニヤニヤと笑いながら、エヴァの顔を覗き込む。
「会って5分か10分くらいだが、俺にゃお前さんの思考がどんなカタチしてるか、バッチリお見通しだ。きっとお前さんは今、そいつの顔が思い浮かんでたはずだ。だがそれを認めたくない。だもんで無意識に、そらとぼけようとした。だろう?」
「……」
言われてエヴァは、もう一度自分の心に問いかけた。
(そうだ……言われてみれば……いつもトラックを運転していたのも……いつも指令を受けていたのも)
エヴァはバスに背を向け、トラックの横に倒れたままの仲間たちの元に駆け寄った。
「起きろ! 起きろッ、R!」
Rの肩を何度か蹴り、無理やり起こす。
「知ってるんだろ!? お前、私たちが何をやってきたのか、全部知っているんだろう!? どうなんだ、R!?」
「う……うう……」
うめくRの胸ぐらをつかみ、エヴァはまくし立てる。
「教えろ、R! お前、全部知っていたのか!?」
「知って……何を……だ?」
「とぼけるなッ! 私たちが今まで襲ってきたのは敵なんかじゃない! そうだろッ!?」
「……それ……か」
Rは暗視ゴーグルを外し、エヴァに裸眼を向けた。
「知っていた。そうだ、騎士団からの本当の指令は、『難民を一人たりとも国内に入れるべからず』だった」
「何故だました!?」
「いずれ君には話すつもりだった。いや、時が来れば参加した全員に知らされる予定だった。誰だっていきなり『罪もない難民を殺せ』なんて指令を下されて、受けたがるはずがないからな」
「騎士団が命じたって言うのか!」
「そうだよ」
Rはエヴァの腕を払って、ふらふらと立ち上がる。
「西トラス王国の話を聞いたことはあるか?」
「30年ほど前に東トラス王国と統一された国だろう? それが何だ!?」
「まあ、聞けよ。これは国家運営上、非常に大事な話なんだ。西トラス王国は事実上、滅亡している。その理由は知ってるか?」
「……いや」
代わりに、いつの間にかトラックにもたれかかって煙草をふかしていた老人が答える。
「白猫党領からの難民がどーっと押し寄せたんだよ。西トラス国民の半分以上に相当する数がな。
考えてもみろよ。国民じゃない、つまり国のために働いて稼いでくれないタダ飯食らいがそんなに大勢押しかけたら、国家経済ってやつは破綻待ったなしだ。西トラスもそれでパンクしたのさ。
ここ最近、南北戦争は激化の一途をたどってる。南側が元気いっぱいに進撃してやがるからな。北側にとっちゃ、かつてない危機ってわけだ。当然そこに住んでた、非戦闘員にとってもな。このままこの国に留まってたら、いつ何時戦闘に巻き込まれて死ぬか分かんねえ。そんじゃ一か八か、別の国に逃げ込もうって話になるわな。例えば白猫党領のすぐ隣、……とかな」
「それが……我が国の安定の理由だったのか」
老人は吸口ギリギリまで燃えた煙草をぷっと吐き捨てつつ、話を続ける。
「騎士団とか言ってたな。じゃ、お前ら『ダークナイト』ってやつか。俺が知る限り、お前らんとこは他にも色々えげつないことやってるぜ。周辺国に忍び込んで情報かき集めてインサイダー取引仕掛けたり、各国要人を陰で脅して共和国有利の条約結ばせたり、やりたい放題さ。そんだけアコギにやってりゃ、そりゃ『央北の奇跡』にもなるわな。……とは言え俺に言わせりゃ、そんだけ裏で汚えことやってなきゃ、平和な国なんて作れやしねえのさ。『平和には犠牲が付き物』ってやつよ。
何度も言うがよ、お前さんはとことんおめでたいお嬢様なんだよ。なんで自分が平和な国で暮らせてたのか、その理屈が分からねえでいやがる。いや――分かってたはずなのに、分からねえフリしてやがるのさ」
「……~ッ」
エヴァは老人をにらみつけたが、何の反論もできなかった。
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50話到達。
今作はちょっと歩みが遅いです。
と言うのも、今作は今までにないことばかりしているため。
パワードスーツで空を飛んだり、銃火器で武装したりと、
今までの「双月千年世界」とは一線を画した内容になっており、
展開をどう組み立てていくか、常に悩んでいる状況です。
特に現代的な世界観となると、現実の社会情勢とリンクしかねませんし、
それを不謹慎だ、パクリだと言われたら、ストレス溜まりますからね……。
(連載開始直前に戦争なんてしないでほしい。
いや、時期にかかわらず、戦争なんてものは、現実で絶対にやらないでほしいことです)
50話到達。
今作はちょっと歩みが遅いです。
と言うのも、今作は今までにないことばかりしているため。
パワードスーツで空を飛んだり、銃火器で武装したりと、
今までの「双月千年世界」とは一線を画した内容になっており、
展開をどう組み立てていくか、常に悩んでいる状況です。
特に現代的な世界観となると、現実の社会情勢とリンクしかねませんし、
それを不謹慎だ、パクリだと言われたら、ストレス溜まりますからね……。
(連載開始直前に戦争なんてしないでほしい。
いや、時期にかかわらず、戦争なんてものは、現実で絶対にやらないでほしいことです)



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双月千年世界 3;白猫夢

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双月千年世界 2;火紅狐

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双月千年世界 1;蒼天剣

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