「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第2部
緑綺星・嘘義譚 4
シュウの話、第51話。
軽蔑と訣別。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
エヴァは顔をぐしぐしとこすって涙をこそぎ取り、Rに怒鳴る。
「もう御免だ。これ以上、国の悪事に加担するわけには行かない! 私は抜けさせてもらうぞ、R!」
「抜けてどうする?」
Rはまだ顔を青くしてはいたが、どうやら回復してきたらしく、声には張りが戻ってきていた。
「君は国家機密を知ってしまった身だ。その上で離隊したとなれば、騎士団は君を抹殺しに来るだろう」
「国に帰るつもりは無い」
「どこへ逃げたって一緒だ! 騎士団は決して、君を逃さないぞ」
「じゃあ今すぐ私を殺すか? あの世までは追えまい」
そうすごんで、エヴァは拳銃をRに向けた。
「……やめてくれ」
Rはかぶりを振って、エヴァに懇願する。
「正義のために働いてきたと考えていた君が、この真実を知ったその時、きっと反発するだろうとは薄々思っていた。だからこの真実に気付く前に現場から、いや、騎士団そのものから離れ、俺たちの作った平和の中で過ごしていてほしかったんだ。だから、何度も求婚したんだ。……いや、それだけが理由じゃない。何より、君のことを大事に思っていたからだ。この真実を知った今、君は憤る以上に、大きく傷ついたはずだ。そんな思いを、君にはしてほしくなかったんだ。だから……頼む……これ以上、俺に君を傷つけさせないでくれ」
「どこまで上から目線なんだ、お前は」
パン、と発砲音が轟き、Rの足元が爆ぜる。
「私はお前の人形でも、ペットでもない。一人の人間だ。一人の人間として傷つくし、一人の人間として不正・不実・不義に憤り、抗い、そして戦う意思を持っている。私はもう、お前の命令も騎士団の指令も受けない。今日限りだ」
「おいおい待てよ、お嬢ちゃん」
2本目の煙草に火を点けながら、老人がまた口を挟む。
「その次はもしかして、俺たちに『同行してやろう』なんて言うんじゃねえだろうな?」
「え?」
薄々考えていた案を見透かされ、エヴァの声が上ずった。
「言っとくが、お断りだぜ? こいつらが欲しいのはあわれみじゃねえ。生きる場所なんだよ。ましてやお前さんが今がなったみてえに、誰かの道具にされるなんてのもまっぴらだ。『可哀想だから』だの『丁度いい足が見つかった』だのって考えでついてこられたって、ただただ迷惑なんだよ。
人にやるなっつったことをよ、その舌の根も乾かねえ内からやろうとしてんじゃねえよ」
「うぐ……それじゃ」「『じゃあ雇え。それなら公平だろう』ってか? 目ぇ付いてんのか、お前さん」
老人は煙草の先で、バスを指し示す。
「俺たちを雇うので精一杯の奴に、もっとカネを出せって言うつもりじゃねえよな? もちろん、折半なんて話もお断りだ。俺の取り分を減らすつもりは1コノンたりともねえぜ」
「ぐっ……」
提案しようとしたことをことごとく言い当てられた上に却下され、エヴァは一言も発せなくなる。黙り込むしかなくなったエヴァに、老人はニヤニヤと笑みを向けてきた。
「もっと素直になれや、お嬢ちゃん。『施してやろう』だの『交換条件を提示する』だの、上下関係作ろうとして変な勘定回してんじゃねえよ。こう言う時はな、素直に一言『助けてくれ』って言やあいいんだよ。そんならこのジジイだって、ちっとばかしは親身になってやろうって気にもならあな」
「……そ、そう……だな」
エヴァは老人に深々と頭を下げ、「助けてくれ」と願い出た。
「いいとも。お代についてはおいおい相談と行こうや」
そう返し、老人が手を差し出す。エヴァはそのまま握ろうとしたが――。
「待て、V! 考え直せ!」
いつの間にか小銃を構えていたRが、銃口をエヴァに向けている。
「……頼む……考え直してくれ……俺に撃たせるな……V」
エヴァは首を横に振り、老人の手を握った。
「よろしく」
「おうよ。そんじゃ乗りな」
エヴァは老人に手を引かれ、その場を後にする。
「……V……」
結局最後まで、Rは引き金を引こうとはしなかった。
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軽蔑と訣別。
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エヴァは顔をぐしぐしとこすって涙をこそぎ取り、Rに怒鳴る。
「もう御免だ。これ以上、国の悪事に加担するわけには行かない! 私は抜けさせてもらうぞ、R!」
「抜けてどうする?」
Rはまだ顔を青くしてはいたが、どうやら回復してきたらしく、声には張りが戻ってきていた。
「君は国家機密を知ってしまった身だ。その上で離隊したとなれば、騎士団は君を抹殺しに来るだろう」
「国に帰るつもりは無い」
「どこへ逃げたって一緒だ! 騎士団は決して、君を逃さないぞ」
「じゃあ今すぐ私を殺すか? あの世までは追えまい」
そうすごんで、エヴァは拳銃をRに向けた。
「……やめてくれ」
Rはかぶりを振って、エヴァに懇願する。
「正義のために働いてきたと考えていた君が、この真実を知ったその時、きっと反発するだろうとは薄々思っていた。だからこの真実に気付く前に現場から、いや、騎士団そのものから離れ、俺たちの作った平和の中で過ごしていてほしかったんだ。だから、何度も求婚したんだ。……いや、それだけが理由じゃない。何より、君のことを大事に思っていたからだ。この真実を知った今、君は憤る以上に、大きく傷ついたはずだ。そんな思いを、君にはしてほしくなかったんだ。だから……頼む……これ以上、俺に君を傷つけさせないでくれ」
「どこまで上から目線なんだ、お前は」
パン、と発砲音が轟き、Rの足元が爆ぜる。
「私はお前の人形でも、ペットでもない。一人の人間だ。一人の人間として傷つくし、一人の人間として不正・不実・不義に憤り、抗い、そして戦う意思を持っている。私はもう、お前の命令も騎士団の指令も受けない。今日限りだ」
「おいおい待てよ、お嬢ちゃん」
2本目の煙草に火を点けながら、老人がまた口を挟む。
「その次はもしかして、俺たちに『同行してやろう』なんて言うんじゃねえだろうな?」
「え?」
薄々考えていた案を見透かされ、エヴァの声が上ずった。
「言っとくが、お断りだぜ? こいつらが欲しいのはあわれみじゃねえ。生きる場所なんだよ。ましてやお前さんが今がなったみてえに、誰かの道具にされるなんてのもまっぴらだ。『可哀想だから』だの『丁度いい足が見つかった』だのって考えでついてこられたって、ただただ迷惑なんだよ。
人にやるなっつったことをよ、その舌の根も乾かねえ内からやろうとしてんじゃねえよ」
「うぐ……それじゃ」「『じゃあ雇え。それなら公平だろう』ってか? 目ぇ付いてんのか、お前さん」
老人は煙草の先で、バスを指し示す。
「俺たちを雇うので精一杯の奴に、もっとカネを出せって言うつもりじゃねえよな? もちろん、折半なんて話もお断りだ。俺の取り分を減らすつもりは1コノンたりともねえぜ」
「ぐっ……」
提案しようとしたことをことごとく言い当てられた上に却下され、エヴァは一言も発せなくなる。黙り込むしかなくなったエヴァに、老人はニヤニヤと笑みを向けてきた。
「もっと素直になれや、お嬢ちゃん。『施してやろう』だの『交換条件を提示する』だの、上下関係作ろうとして変な勘定回してんじゃねえよ。こう言う時はな、素直に一言『助けてくれ』って言やあいいんだよ。そんならこのジジイだって、ちっとばかしは親身になってやろうって気にもならあな」
「……そ、そう……だな」
エヴァは老人に深々と頭を下げ、「助けてくれ」と願い出た。
「いいとも。お代についてはおいおい相談と行こうや」
そう返し、老人が手を差し出す。エヴァはそのまま握ろうとしたが――。
「待て、V! 考え直せ!」
いつの間にか小銃を構えていたRが、銃口をエヴァに向けている。
「……頼む……考え直してくれ……俺に撃たせるな……V」
エヴァは首を横に振り、老人の手を握った。
「よろしく」
「おうよ。そんじゃ乗りな」
エヴァは老人に手を引かれ、その場を後にする。
「……V……」
結局最後まで、Rは引き金を引こうとはしなかった。
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