「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第2部
緑綺星・嘘義譚 7
シュウの話、第54話。
夜は明けても、なお薄暗く。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
7.
バスは国境を越えて2時間ほど後、テントや土塊を積み上げた小屋が連なる集落の手前で停車した。
「ほれ、着いたぜ。これでバスの旅はおしまいだ。おっと、慌てなさんなよおチビさん方。慌てず騒がず一人ずつ、ゆっくりだ。ゆーっくり降りるんだぜ」
アルトに促され、奥から子供たちがぞろぞろとバスを降りていく。
「なあ、ミリアンさん」
その間に、エヴァはラモンに質問をぶつけた。
「この後はどうするんだ?」
「僕たちですか? ……うーん、これ言っていいのかなぁ。……アルトさんに聞かれても僕が言ったって言わないで下さいよ。今日、明日はここでバスのメンテナンスして、その翌日から仕事探しするつもりです。見つかり次第、すぐ発つ予定ですよ」
「仕事があるのか?」
「そりゃ500万人都市なんですから、無いわけないでしょ。……あ、でも多分、エヴァンジェリンさんが来るって言っても、アルトさんは多分、突っぱねるんじゃないですかね。あの調子だし」
「私の方で請けるさ」
「だから突っぱねんじゃねえか。分かってねえな」
子供たちを送り終えたらしく、アルトがバスの中に戻って来る。
「基本的に、俺は一人で仕事するタイプなんだよ。次の仕事が送迎や荷運びじゃなきゃ、ラモンともここでお別れさ。ましてや四半日前に会ったばかりのお前さんと組むわきゃねえだろ? 俺が請ける仕事をお前さんに取られるってのも勘弁だ。邪魔すんなよ。協力もナシだ」
「じゃあせめて、……いや、……いいか」
仕事の紹介元を紹介してくれ、と言おうと思ったが、それも恐らくアルトには断られるであろうことは容易に想像できたため、エヴァはその質問を飲み込んだ。
「ああ……と、そうだ、トッドレールさん。気になっていたんだが」
「何だよ?」
「あの子供たちはどこに行ったんだ? まさか特区に送るだけ送って、後は自由に行動しろなんて話じゃないだろう?」
「ああ、……まあな」
ここまで明け透けに語ってきたアルトが、珍しく言葉を濁す。その態度でエヴァは、子供たちがこれからたどるであろう運命を察してしまった。
「……一体どこに預けた?」
「お前さんのご想像の通りさ」
「なんてことを……! じゃああんたたちは何のために、子供たちを白猫党領からここまで逃したんだ!?」
「生きるためさ。これ以上の最適解はねえよ。この特区じゃまったくの善意で子供の面倒見てくれるようなとこなんて、どこにもねえからな。子供だけで暮らすなんてことも無理な話さ。それくらい、考えりゃ分かんだろ?」
「……~ッ」
エヴァは座席から立ち上がり、アルトと、そしてラモンをにらみつけて、そのまま出口まで進む。
「やっぱりあんたたちとは……仲良くはできないな」
「ようやく分かったかい、お嬢ちゃん。俺たちゃ正義の味方じゃねえってことをよ」
「ああ、良く、分かった」
それだけ返し、そのまま降りようとしたところで――。
「待ちな、お嬢ちゃん」
「なんだ?」
「なんだじゃねえよ。運賃払ってねえだろ」
ぷしゅ、と音を立て、バスのドアが閉まる。
「……そうだったな。いくらだ?」
「そうさな、150万コノンってところか」
「150万!?」
エヴァが面食らったのも無理はない。彼女が今乗っているバスが新車で買えてしまうような、無法な額だったからだ。
「子供にもそんな額を払わせたのか!?」
「なわけねえだろ、ひっひひ……。予約席で団体割引込みの子供料金だ。オマケにここで受け取れるカネもあるからな。だがお前さんは途中乗車で一人で乗ってきた大人だ。それくらいは払ってもらって当然だろ? とは言え任務中だったお前さんが、そんなカネ持ってるわけねえよな。ツケにしとくぜ」
アルトがラモンに目配せし、ドアを再度開けさせる。
「今度会ったら、何が何でも払ってもらうからな。忘れんなよ、エヴァンジェリン」
「……承知した。……もしも次に会うことがあれば、必ず払う」
エヴァはバスを降り、そのまま二人と別れた。
緑綺星・嘘義譚 終
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夜は明けても、なお薄暗く。
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バスは国境を越えて2時間ほど後、テントや土塊を積み上げた小屋が連なる集落の手前で停車した。
「ほれ、着いたぜ。これでバスの旅はおしまいだ。おっと、慌てなさんなよおチビさん方。慌てず騒がず一人ずつ、ゆっくりだ。ゆーっくり降りるんだぜ」
アルトに促され、奥から子供たちがぞろぞろとバスを降りていく。
「なあ、ミリアンさん」
その間に、エヴァはラモンに質問をぶつけた。
「この後はどうするんだ?」
「僕たちですか? ……うーん、これ言っていいのかなぁ。……アルトさんに聞かれても僕が言ったって言わないで下さいよ。今日、明日はここでバスのメンテナンスして、その翌日から仕事探しするつもりです。見つかり次第、すぐ発つ予定ですよ」
「仕事があるのか?」
「そりゃ500万人都市なんですから、無いわけないでしょ。……あ、でも多分、エヴァンジェリンさんが来るって言っても、アルトさんは多分、突っぱねるんじゃないですかね。あの調子だし」
「私の方で請けるさ」
「だから突っぱねんじゃねえか。分かってねえな」
子供たちを送り終えたらしく、アルトがバスの中に戻って来る。
「基本的に、俺は一人で仕事するタイプなんだよ。次の仕事が送迎や荷運びじゃなきゃ、ラモンともここでお別れさ。ましてや四半日前に会ったばかりのお前さんと組むわきゃねえだろ? 俺が請ける仕事をお前さんに取られるってのも勘弁だ。邪魔すんなよ。協力もナシだ」
「じゃあせめて、……いや、……いいか」
仕事の紹介元を紹介してくれ、と言おうと思ったが、それも恐らくアルトには断られるであろうことは容易に想像できたため、エヴァはその質問を飲み込んだ。
「ああ……と、そうだ、トッドレールさん。気になっていたんだが」
「何だよ?」
「あの子供たちはどこに行ったんだ? まさか特区に送るだけ送って、後は自由に行動しろなんて話じゃないだろう?」
「ああ、……まあな」
ここまで明け透けに語ってきたアルトが、珍しく言葉を濁す。その態度でエヴァは、子供たちがこれからたどるであろう運命を察してしまった。
「……一体どこに預けた?」
「お前さんのご想像の通りさ」
「なんてことを……! じゃああんたたちは何のために、子供たちを白猫党領からここまで逃したんだ!?」
「生きるためさ。これ以上の最適解はねえよ。この特区じゃまったくの善意で子供の面倒見てくれるようなとこなんて、どこにもねえからな。子供だけで暮らすなんてことも無理な話さ。それくらい、考えりゃ分かんだろ?」
「……~ッ」
エヴァは座席から立ち上がり、アルトと、そしてラモンをにらみつけて、そのまま出口まで進む。
「やっぱりあんたたちとは……仲良くはできないな」
「ようやく分かったかい、お嬢ちゃん。俺たちゃ正義の味方じゃねえってことをよ」
「ああ、良く、分かった」
それだけ返し、そのまま降りようとしたところで――。
「待ちな、お嬢ちゃん」
「なんだ?」
「なんだじゃねえよ。運賃払ってねえだろ」
ぷしゅ、と音を立て、バスのドアが閉まる。
「……そうだったな。いくらだ?」
「そうさな、150万コノンってところか」
「150万!?」
エヴァが面食らったのも無理はない。彼女が今乗っているバスが新車で買えてしまうような、無法な額だったからだ。
「子供にもそんな額を払わせたのか!?」
「なわけねえだろ、ひっひひ……。予約席で団体割引込みの子供料金だ。オマケにここで受け取れるカネもあるからな。だがお前さんは途中乗車で一人で乗ってきた大人だ。それくらいは払ってもらって当然だろ? とは言え任務中だったお前さんが、そんなカネ持ってるわけねえよな。ツケにしとくぜ」
アルトがラモンに目配せし、ドアを再度開けさせる。
「今度会ったら、何が何でも払ってもらうからな。忘れんなよ、エヴァンジェリン」
「……承知した。……もしも次に会うことがあれば、必ず払う」
エヴァはバスを降り、そのまま二人と別れた。
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