「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第2部
緑綺星・友逅譚 2
シュウの話、第56話。
友との再会。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
ほとんど無意識に、エヴァはスマホに上ずった声をぶつけていた。
《もしもーし? エヴァ、今だいじょ……》「シュウ! 君か!?」《ほぇ? う、うん、わたしがシュウだけど?》
シュウの戸惑った声に構わず、エヴァはまくし立てる。
「そのっ、あのさっ、今、私はその、……ああそうだ、君、確かトラス王国に住んでたんだよな? 無理かも、いや、きっと無理だろうけど、でも、頼みたいことがあって」
《ちょっ、ちょ、待って待って待って! ど、どしたの?》
「私は今、難民特区にいるんだ。どうにかして、来られないか? 助けてほしいんだ」
《えっ!? エヴァが?》
「そう、私がだ。だけど外に出る足がなくて、いや、そもそもこっちにツテもなくて、どうしようかって思ってて」
《……えーと、あのね、エヴァ》
シュウは困った声で、こう返した。
《いきなりでちょっと、ううん、かなりビックリしてるし、そのね、そんなお願いされるなんて思ってなくて、えーと、そもそもね、特区って入るのに申請とか審査とか色々やんないといけなくって、ソレにね、出る時もかなーり検査されなきゃいけなくってね》
「……分かった。無理を言ってすまない。迷惑を掛けるから、もう電話はしないでくれ。さよなら」
そう言って通話を切ろうとしたところで、シュウから《ちがうの!》と焦った声が返って来た。
《わたしが言いたいコト、そうじゃなくて、あの、あのねっ、そもそも電話、つながったのが変だなって話がしたくて! ね、今、電波届いてないでしょ!?》
「え?」
言われて、エヴァはスマホの画面を確認する。
「確かに立ってないな、アンテナ」
《でしょ? でさ、あの、今のスマホとか通信機器全般がね、通信障害とか地震とかの緊急事態で通信網がダウンした場合の対策で、LMLってシステムが入ってるの》
「なんだそれ?」
《ローカルマルチリンクって言って、簡単に言うとアンテナが無いトコ限定で、スマホ同士でお話できる機能。通信会社のアンテナ使わずに。でさ、あの、特区って今の通信に使えるアンテナって立ってないし、電話は普通、通じないはずなの。だから電話が通じるってコトはね、近くにいるのかなって》
「……え?」
それを聞いた途端、エヴァは廃ビルを飛び出していた。すると――。
「あっ」
分厚いベストを着込んだシュウと、彼女の先輩であるカニートに鉢合わせした。
「エヴァ? ……だよね?」
「……ああ」
たまらず、エヴァはシュウを抱きしめていた。
「ひぇ!? ちょ、ちょっと、エヴァ?」
「ごめん……でも……どうしても」
「あー、と。感動の再会を邪魔すんのは悪いけども」
と、カニートが声をかける。
「ここじゃ落ち着いて話ができない。一旦セーフエリアに戻ろう」
「セーフエリア? ……ああ、なるほど」
尋ねかけたが、特区の状況を良く知っているエヴァは、シュウたちがここでどう過ごしているのかを察した。
「そこなら襲われない、と」
「そう言うことだ。残念ながらここには、倫理観の欠けた人間が東部より幾分多いのが、厳然たる事実ってやつだからな。……が、その前にアドラーさん。いくつか質問させてもらって構わないか?」
「なんだ? ……あ、……えーと、なんでしょう?」
体裁を繕おうとするエヴァに、カニートはくっくっと笑って返した。
「無理に装わなくていいさ。2年間の軍隊生活でそうなったのか、元々の素地がそうなのかは知らないが、シュウに話してたのと同じ感じで構わないよ」
「助かる。それで、質問とは?」
「LML通信のおかげでシュウと出会えたみたいだが、そのスマホは自分で買ったのか?」
「そうだ」
「明らかに脱走兵って感じの格好してるが、そのスマホは本営……いや、君で言うところの騎士団か、そこに何らかの紐付けはしてるのか?」
「している。……もしかしてセーフエリアには通信アンテナがあるのか?」
「記者団の拠点だからな、無きゃ困るさ。だからもし、騎士団が君の行方を追っているとしたら、そのスマホが検知されるおそれがある。シギント(電子諜報)全盛の今じゃ、通信機器を持っていれば全世界どこでも、居場所が割れてしまうからな。電源を切っておいた方がいい」
「いや」
エヴァは首を振り、目一杯の力を込めて、スマホを廃ビルの壁に向かって投げ付けた。
「これでいいだろう」
当然、スマホは粉々に砕け、見守っていたシュウは目を丸くする。
「良かったの? 友達の連絡先とか入ってたんじゃ……」
とぼけた質問をしたシュウの手を、エヴァはぎゅっと握りしめた。
「君がいるさ」
「はぇ!? あっ、う、うん」
「さて……憂いも断ったことだし、早く行こう」
顔を真っ赤にするシュウの手を依然握ったまま、エヴァは二人に促した。
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ほとんど無意識に、エヴァはスマホに上ずった声をぶつけていた。
《もしもーし? エヴァ、今だいじょ……》「シュウ! 君か!?」《ほぇ? う、うん、わたしがシュウだけど?》
シュウの戸惑った声に構わず、エヴァはまくし立てる。
「そのっ、あのさっ、今、私はその、……ああそうだ、君、確かトラス王国に住んでたんだよな? 無理かも、いや、きっと無理だろうけど、でも、頼みたいことがあって」
《ちょっ、ちょ、待って待って待って! ど、どしたの?》
「私は今、難民特区にいるんだ。どうにかして、来られないか? 助けてほしいんだ」
《えっ!? エヴァが?》
「そう、私がだ。だけど外に出る足がなくて、いや、そもそもこっちにツテもなくて、どうしようかって思ってて」
《……えーと、あのね、エヴァ》
シュウは困った声で、こう返した。
《いきなりでちょっと、ううん、かなりビックリしてるし、そのね、そんなお願いされるなんて思ってなくて、えーと、そもそもね、特区って入るのに申請とか審査とか色々やんないといけなくって、ソレにね、出る時もかなーり検査されなきゃいけなくってね》
「……分かった。無理を言ってすまない。迷惑を掛けるから、もう電話はしないでくれ。さよなら」
そう言って通話を切ろうとしたところで、シュウから《ちがうの!》と焦った声が返って来た。
《わたしが言いたいコト、そうじゃなくて、あの、あのねっ、そもそも電話、つながったのが変だなって話がしたくて! ね、今、電波届いてないでしょ!?》
「え?」
言われて、エヴァはスマホの画面を確認する。
「確かに立ってないな、アンテナ」
《でしょ? でさ、あの、今のスマホとか通信機器全般がね、通信障害とか地震とかの緊急事態で通信網がダウンした場合の対策で、LMLってシステムが入ってるの》
「なんだそれ?」
《ローカルマルチリンクって言って、簡単に言うとアンテナが無いトコ限定で、スマホ同士でお話できる機能。通信会社のアンテナ使わずに。でさ、あの、特区って今の通信に使えるアンテナって立ってないし、電話は普通、通じないはずなの。だから電話が通じるってコトはね、近くにいるのかなって》
「……え?」
それを聞いた途端、エヴァは廃ビルを飛び出していた。すると――。
「あっ」
分厚いベストを着込んだシュウと、彼女の先輩であるカニートに鉢合わせした。
「エヴァ? ……だよね?」
「……ああ」
たまらず、エヴァはシュウを抱きしめていた。
「ひぇ!? ちょ、ちょっと、エヴァ?」
「ごめん……でも……どうしても」
「あー、と。感動の再会を邪魔すんのは悪いけども」
と、カニートが声をかける。
「ここじゃ落ち着いて話ができない。一旦セーフエリアに戻ろう」
「セーフエリア? ……ああ、なるほど」
尋ねかけたが、特区の状況を良く知っているエヴァは、シュウたちがここでどう過ごしているのかを察した。
「そこなら襲われない、と」
「そう言うことだ。残念ながらここには、倫理観の欠けた人間が東部より幾分多いのが、厳然たる事実ってやつだからな。……が、その前にアドラーさん。いくつか質問させてもらって構わないか?」
「なんだ? ……あ、……えーと、なんでしょう?」
体裁を繕おうとするエヴァに、カニートはくっくっと笑って返した。
「無理に装わなくていいさ。2年間の軍隊生活でそうなったのか、元々の素地がそうなのかは知らないが、シュウに話してたのと同じ感じで構わないよ」
「助かる。それで、質問とは?」
「LML通信のおかげでシュウと出会えたみたいだが、そのスマホは自分で買ったのか?」
「そうだ」
「明らかに脱走兵って感じの格好してるが、そのスマホは本営……いや、君で言うところの騎士団か、そこに何らかの紐付けはしてるのか?」
「している。……もしかしてセーフエリアには通信アンテナがあるのか?」
「記者団の拠点だからな、無きゃ困るさ。だからもし、騎士団が君の行方を追っているとしたら、そのスマホが検知されるおそれがある。シギント(電子諜報)全盛の今じゃ、通信機器を持っていれば全世界どこでも、居場所が割れてしまうからな。電源を切っておいた方がいい」
「いや」
エヴァは首を振り、目一杯の力を込めて、スマホを廃ビルの壁に向かって投げ付けた。
「これでいいだろう」
当然、スマホは粉々に砕け、見守っていたシュウは目を丸くする。
「良かったの? 友達の連絡先とか入ってたんじゃ……」
とぼけた質問をしたシュウの手を、エヴァはぎゅっと握りしめた。
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