「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第2部
緑綺星・友逅譚 4
シュウの話、第58話。
シュウの成長。
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4.
と、部屋のドアがノックされ、全身泥だらけの、眼鏡の短耳が中に入って来た。
「ごめんなさい、すっかり遅くなっちゃ、……って?」
エヴァと目が合い、短耳は目を丸くする。
「あの、その人は? 警護の人……じゃないですよね」
「ええ。あ、紹介しますねー」
シュウが立ち上がり、まずはエヴァの方を示す。
「こちらはエヴァンジェリン・アドラーさん。わたしの友達ですー」
「どうも」
会釈しつつ、エヴァは短耳を観察する。
(随分泥だらけだが……軍人でもアスリートでもない。明らかに中年太りしてるし、筋肉の無い体だ。となるとフィールドワークしてきた学者と言ったところか)
続くシュウの紹介で、エヴァは自分の予想が当たっていたことを確認した。
「こちらは地質学者のタダシ・オーノ博士さんですー。あ、わたしたちの本来の取材目的なんですけどね、特区で農業できないかって考えてるNPOさんがいらっしゃいまして、で、何度か試してみたものの、なんかうまく行かないみたいでー」
「それで学者を呼んで、農業に適した土地かどうかを調査しに来たと言うわけか」
「はいー。わたしたちは今回その調査に同行して、実際にどんな活動をされてるのかを記事にする予定なんですー」
「なるほど……」
「ソレでオーノさん、今日の成果はどーでした?」
しれっとスマホを起動したシュウに対し、オーノ博士は頭をかきながら答える。
「まだ途中ですので断言はできないですが、……ってこれは昨日も同じことを言いましたね、はは……。えーとですね、まあ、つまりそのままですね、昨日と同じ答えです。かなり酸性の強い土壌で、現状でほぼ農業の振興は期待できそうにない、としか。あ、そう言えばちょっと気になることも……」
「気になるコト?」
「あ、えーと、前置きしておきますが、これはまだ可能性の段階で、そうだと断定はできません。もしかしたら別の要因もあるかも知れないので……生活排水とか不法投棄とか、色々。それでですね、今日のボーリングで成分調査した結果、全般的に硫黄・窒素が多く検出されたんです」
「全般的と言いますと?」
尋ねたシュウに、オーノ博士は首をかしげつつ答える。
「今日の調査では地下30~50メートルほどを採取したんですが、その採取した土のどこを調べても、自然硫黄とかアンモニア塩とかがゴロゴロと見つかるような状態でして……。どうも基本的、根本的に、この一帯の土壌は深さ数十メートル、あるいは百メートル以上にわたって、強い酸性を帯びてるんじゃないかな、と」
「では、現状で特区における農業振興は難しいと言うコトでしょうか?」
「繰り返しますが、まだ調査途中ですので断言はできかねます。とは言え現時点での判断としては、かなり厳しいであろう可能性は非常に高いものだと考えられます。無論、有機石灰などの土壌改善剤で中和させることは可能ではあるんですが、農業として成立させるには相当な量を必要としますし、初期費用を考えると、商業的に成功させ、一つの事業として軌道に乗せると言うようなことは、極めて困難と言えます、はい」
「へえ……」
やり取りを眺めていたエヴァは、素直に感心していた。
(2年前に会った時はあんなにオドオドしてたのに、すっかり記者って感じの顔になったな、シュウ)
と、オーノ博士が戸惑った様子でこちらを眺めているのに気付く。
「あの、アドラーさんでしたっけ。何か……?」
「あ、いえ」
エヴァはこほんと咳払いし、言い繕った。
「何と言うか、……陳腐な言い方になりますが、テレビのインタビューみたいだと思ってしまって」
「似たようなもんだよね、ふふ……」
エヴァの言葉を聞いて、シュウはいかにも仕事向けであった堅い表情を崩した。
「えーっと、ともかくお疲れさまです、博士。わたしたちコレからご飯食べに行きますが、どーしますか? 先にシャワー浴びますよね?」
「ええ、そうします。この格好じゃ、食堂に入れてもらえないでしょうから」
そう言って、オーノ博士はかばんから着替えとタオルを出し、そそくさと部屋を後にした。
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と、部屋のドアがノックされ、全身泥だらけの、眼鏡の短耳が中に入って来た。
「ごめんなさい、すっかり遅くなっちゃ、……って?」
エヴァと目が合い、短耳は目を丸くする。
「あの、その人は? 警護の人……じゃないですよね」
「ええ。あ、紹介しますねー」
シュウが立ち上がり、まずはエヴァの方を示す。
「こちらはエヴァンジェリン・アドラーさん。わたしの友達ですー」
「どうも」
会釈しつつ、エヴァは短耳を観察する。
(随分泥だらけだが……軍人でもアスリートでもない。明らかに中年太りしてるし、筋肉の無い体だ。となるとフィールドワークしてきた学者と言ったところか)
続くシュウの紹介で、エヴァは自分の予想が当たっていたことを確認した。
「こちらは地質学者のタダシ・オーノ博士さんですー。あ、わたしたちの本来の取材目的なんですけどね、特区で農業できないかって考えてるNPOさんがいらっしゃいまして、で、何度か試してみたものの、なんかうまく行かないみたいでー」
「それで学者を呼んで、農業に適した土地かどうかを調査しに来たと言うわけか」
「はいー。わたしたちは今回その調査に同行して、実際にどんな活動をされてるのかを記事にする予定なんですー」
「なるほど……」
「ソレでオーノさん、今日の成果はどーでした?」
しれっとスマホを起動したシュウに対し、オーノ博士は頭をかきながら答える。
「まだ途中ですので断言はできないですが、……ってこれは昨日も同じことを言いましたね、はは……。えーとですね、まあ、つまりそのままですね、昨日と同じ答えです。かなり酸性の強い土壌で、現状でほぼ農業の振興は期待できそうにない、としか。あ、そう言えばちょっと気になることも……」
「気になるコト?」
「あ、えーと、前置きしておきますが、これはまだ可能性の段階で、そうだと断定はできません。もしかしたら別の要因もあるかも知れないので……生活排水とか不法投棄とか、色々。それでですね、今日のボーリングで成分調査した結果、全般的に硫黄・窒素が多く検出されたんです」
「全般的と言いますと?」
尋ねたシュウに、オーノ博士は首をかしげつつ答える。
「今日の調査では地下30~50メートルほどを採取したんですが、その採取した土のどこを調べても、自然硫黄とかアンモニア塩とかがゴロゴロと見つかるような状態でして……。どうも基本的、根本的に、この一帯の土壌は深さ数十メートル、あるいは百メートル以上にわたって、強い酸性を帯びてるんじゃないかな、と」
「では、現状で特区における農業振興は難しいと言うコトでしょうか?」
「繰り返しますが、まだ調査途中ですので断言はできかねます。とは言え現時点での判断としては、かなり厳しいであろう可能性は非常に高いものだと考えられます。無論、有機石灰などの土壌改善剤で中和させることは可能ではあるんですが、農業として成立させるには相当な量を必要としますし、初期費用を考えると、商業的に成功させ、一つの事業として軌道に乗せると言うようなことは、極めて困難と言えます、はい」
「へえ……」
やり取りを眺めていたエヴァは、素直に感心していた。
(2年前に会った時はあんなにオドオドしてたのに、すっかり記者って感じの顔になったな、シュウ)
と、オーノ博士が戸惑った様子でこちらを眺めているのに気付く。
「あの、アドラーさんでしたっけ。何か……?」
「あ、いえ」
エヴァはこほんと咳払いし、言い繕った。
「何と言うか、……陳腐な言い方になりますが、テレビのインタビューみたいだと思ってしまって」
「似たようなもんだよね、ふふ……」
エヴァの言葉を聞いて、シュウはいかにも仕事向けであった堅い表情を崩した。
「えーっと、ともかくお疲れさまです、博士。わたしたちコレからご飯食べに行きますが、どーしますか? 先にシャワー浴びますよね?」
「ええ、そうします。この格好じゃ、食堂に入れてもらえないでしょうから」
そう言って、オーノ博士はかばんから着替えとタオルを出し、そそくさと部屋を後にした。
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