「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第2部
緑綺星・友逅譚 5
シュウの話、第59話。
トラス王国産官学事情。
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5.
オーノ博士が部屋を出たところで、エヴァは二人に尋ねてみた。
「今の……オーノ博士、だったか。こっちの人間じゃないよな?」
「そーですね。央南の方です」
「どうしてわざわざ央南から人を呼んだんだ? 地質学者ならこっちにだって一杯いるだろう?」
エヴァがそう尋ねたところで、カニートの方が答えた。
「央南の焔紅王国ってところに『王立農林水産技術研究所』、通称紅農技研ってのがあるんだ。農学研究に関しては世界最高峰のところだ。それが理由の1つ目だな」
「1つ目? 他にもあるのか」
「君が言ったように、確かにトラス王国にも優秀な研究機関は存在する。その中でも中核とされているのが総合研究機関『フェニックス』だが、ここはトラス王室とのパイプが太い。言い換えれば王室の意向に左右される組織だ。そして王室政府は難民支援に消極的だ。となれば……分かるだろう?」
「つまりトラス王室から、難民特区に関わる要請には応じるなと指示を受けているわけか」
「無論、公式な発表は無いが、巷じゃ有名なうわささ。そして王国最大の研究機関がやらないって言ってることに、他のところがわざわざ首を突っ込むわけが無い。と言うわけで、国内で特区の調査依頼を受けてくれるような機関は、どこも無かったってわけさ」
「つくづく腐ってるな。負の遺産には一切目を向けたくないと言うわけか」
毒づくエヴァに、カニートは肩をすくめて返した。
「ま、王国側の考えも分からないではないんだ。仮に本腰入れて難民支援しようって王室政府で閣議決定したとしたら、その予算はどこから出すかって話になってくるからな。
結論から言えば、そんな予算が税金から出せるはずがない。500万と言われる難民全員を支援するとなると、食費だけで年間2000億コノンを優に超えるだろう。その上教育だの就労支援だのと加えたら、1兆、2兆と天井知らずに膨れ上がってしまう。かと言って一部だけを支援なんてしようとしたら、差別だ選民だって叩かれるだろう。
どう手を出したとしても、王国にとっては痛し痒しの結果が見えてる。となれば、ハナっから手を付けない方がいい。これまで通り『広大な土地を特区として貸与してやってる』って理由を楯に、見て見ぬ振りをし続けてた方が楽だ、……となるわけさ」
「『上』から考えればそうだろうが……」
「庶民感情からはかけ離れてますよねー。……っと、もういい加減わたしたちもご飯食べに行きましょ。先輩は先に行ってて下さい」
「ん? 何か野暮用か?」
尋ねたカニートに、シュウはエヴァの肩をぽんぽんと叩いて見せた。
「エヴァを着替えさせないと。このまんまじゃ、さっきのオーノ博士と同レベルですもん」
「なるほどな。じゃ、先行ってるわ」
「はーい」
カニートも部屋を出たところで、エヴァは自分の体を見下ろした。
「言われてみれば確かに、って感じか。泥だらけの上にほこりだらけだもんな」
「あと、率直に言うと臭うよ」
「本当か? ……まあ、そうだよな」
「わたしの着替え貸すねー。あ、あとコレ、ウエットシートも。後でシャワー浴びると思うけど、一応拭いといた方がいいかも。わたし先に行ってるから、着替えたら来てね。食堂はココ出て廊下を右に行ってそのまま進んだトコだから。洗濯物は食堂の左横の部屋にランドリーあるから、ご飯前にソコに突っ込んどいたら、ご飯食べたくらいで終わると思う。その後なら、シャワー入れるはず。オーノ博士、お風呂大好きって聞いてるけど、流石にそんなに長いコト浴びないと思うし」
「ああ、ありがとう」
シュウからTシャツとジャージを受け取り、エヴァは着ていた戦闘服を脱いだ。
(こいつを着る機会はもう無いだろうな。服を調達できたら、捨ててしまおう)
そう思いつつも――元々の育ちの良さ故か――戦闘服と下着を丁寧にたたみ、シュウに言われた通りに食堂横の洗濯室へと持って行き、まとめて洗濯した。
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トラス王国産官学事情。
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5.
オーノ博士が部屋を出たところで、エヴァは二人に尋ねてみた。
「今の……オーノ博士、だったか。こっちの人間じゃないよな?」
「そーですね。央南の方です」
「どうしてわざわざ央南から人を呼んだんだ? 地質学者ならこっちにだって一杯いるだろう?」
エヴァがそう尋ねたところで、カニートの方が答えた。
「央南の焔紅王国ってところに『王立農林水産技術研究所』、通称紅農技研ってのがあるんだ。農学研究に関しては世界最高峰のところだ。それが理由の1つ目だな」
「1つ目? 他にもあるのか」
「君が言ったように、確かにトラス王国にも優秀な研究機関は存在する。その中でも中核とされているのが総合研究機関『フェニックス』だが、ここはトラス王室とのパイプが太い。言い換えれば王室の意向に左右される組織だ。そして王室政府は難民支援に消極的だ。となれば……分かるだろう?」
「つまりトラス王室から、難民特区に関わる要請には応じるなと指示を受けているわけか」
「無論、公式な発表は無いが、巷じゃ有名なうわささ。そして王国最大の研究機関がやらないって言ってることに、他のところがわざわざ首を突っ込むわけが無い。と言うわけで、国内で特区の調査依頼を受けてくれるような機関は、どこも無かったってわけさ」
「つくづく腐ってるな。負の遺産には一切目を向けたくないと言うわけか」
毒づくエヴァに、カニートは肩をすくめて返した。
「ま、王国側の考えも分からないではないんだ。仮に本腰入れて難民支援しようって王室政府で閣議決定したとしたら、その予算はどこから出すかって話になってくるからな。
結論から言えば、そんな予算が税金から出せるはずがない。500万と言われる難民全員を支援するとなると、食費だけで年間2000億コノンを優に超えるだろう。その上教育だの就労支援だのと加えたら、1兆、2兆と天井知らずに膨れ上がってしまう。かと言って一部だけを支援なんてしようとしたら、差別だ選民だって叩かれるだろう。
どう手を出したとしても、王国にとっては痛し痒しの結果が見えてる。となれば、ハナっから手を付けない方がいい。これまで通り『広大な土地を特区として貸与してやってる』って理由を楯に、見て見ぬ振りをし続けてた方が楽だ、……となるわけさ」
「『上』から考えればそうだろうが……」
「庶民感情からはかけ離れてますよねー。……っと、もういい加減わたしたちもご飯食べに行きましょ。先輩は先に行ってて下さい」
「ん? 何か野暮用か?」
尋ねたカニートに、シュウはエヴァの肩をぽんぽんと叩いて見せた。
「エヴァを着替えさせないと。このまんまじゃ、さっきのオーノ博士と同レベルですもん」
「なるほどな。じゃ、先行ってるわ」
「はーい」
カニートも部屋を出たところで、エヴァは自分の体を見下ろした。
「言われてみれば確かに、って感じか。泥だらけの上にほこりだらけだもんな」
「あと、率直に言うと臭うよ」
「本当か? ……まあ、そうだよな」
「わたしの着替え貸すねー。あ、あとコレ、ウエットシートも。後でシャワー浴びると思うけど、一応拭いといた方がいいかも。わたし先に行ってるから、着替えたら来てね。食堂はココ出て廊下を右に行ってそのまま進んだトコだから。洗濯物は食堂の左横の部屋にランドリーあるから、ご飯前にソコに突っ込んどいたら、ご飯食べたくらいで終わると思う。その後なら、シャワー入れるはず。オーノ博士、お風呂大好きって聞いてるけど、流石にそんなに長いコト浴びないと思うし」
「ああ、ありがとう」
シュウからTシャツとジャージを受け取り、エヴァは着ていた戦闘服を脱いだ。
(こいつを着る機会はもう無いだろうな。服を調達できたら、捨ててしまおう)
そう思いつつも――元々の育ちの良さ故か――戦闘服と下着を丁寧にたたみ、シュウに言われた通りに食堂横の洗濯室へと持って行き、まとめて洗濯した。
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