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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 5;緑綺星」
    緑綺星 第2部

    緑綺星・友逅譚 6

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    シュウの話、第60話。
    煩悶と悪夢。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    6.
     食事と入浴を済ませたところで、エヴァは強烈な眠気に襲われていた。
    (まさか……食事に何か盛られた? ……なわけないか)
    「どしたの?」
     様子を眺めていたシュウに尋ねられ、エヴァは素直に答えた。
    「疲れて眠い。そろそろ休みたい」
    「もう? だってまだ9時前、……ってそっか、ついさっきまでハードな生活してたんだもんね。ベッドどうしよっかなー……」
     ちなみにシュウたちには2部屋割り当てられており、男性2人(カニートとオーノ博士)と女性1人(シュウ)で分けて使っている。部屋の大きさはどちらも同じであるため、ベッドを持ち込めばエヴァも普通に休めるのだが――。
    「備品はココの管理課に言わないと出してくれないんだよね。でも5時で窓口閉まっちゃうからなー……」
    「私は床でも構わないが」
     そう提案したエヴァに、シュウは目を丸くする。
    「いやいやいや、わたしが困るってば。友達を床に寝かせて一人だけベッド寝とか、ひどいヤツじゃん」
    「そうか? まあ、君が気にするのなら、他の手を考えよう。……ふむ」
     部屋の中をざっと見回し、寝床にできそうなものを見繕ってはみたものの、ベッドの他にはスチール製のパイプ椅子くらいしか無い。
    「じゃあ、私はこの椅子で……」「じゃ、一緒に寝ちゃおっか?」
     エヴァの提案をさえぎり、シュウが腕を引いてきた。
    「なに?」
    「ちょっと狭いかもだけど、わたし小柄だから多分大丈夫」
    「いや、しかし」
    「遠慮しないでいーよー。あ、もしかしてわたしとじゃ嫌だったり……?」
    「い、いやいやいや! そんなことは! ……じゃあ、うん、……よろしく」
     流される形で、エヴァは同衾することになった。

     どうやらシュウも疲れていたのか、それとも元々寝つきがいいのか――横になってそう経たないうちに、シュウの寝息が聞こえてきた。
    (よく寝られるな……警戒心とか無いのか?)
     背を向けて眠っているシュウの猫耳を眺めながら、エヴァは悶々としていた。
    (いやこれは……悶々とかそう言うのじゃなくて……何と言うか……うう……)
     さっさと眠ってしまおうと目をつぶっても、聴覚と嗅覚から、すぐ隣にいるシュウの存在を感じてしまい、疲労しきっていたはずの頭がどんどん冴えてきてしまう。
    (お、落ち着け、私。これじゃまるで私がシュウのこと……いや……だって友達だし女同士だし……そんなわけ……)
     自分の心に浮かび上がった感情をどう処理していいか分からず、エヴァはベッドの中で四苦八苦していた。



     それでもどうにかまどろみだし、ぼんやりと夢を見始める。
    「遅え、遅え。眠っちまうくらい遅いぜ」
     夢の中に現れたのは、あのアルト老人だった。
    「うっ!?」
     手にしていた小銃をつかまれ、夢の中のエヴァは狼狽しかける。
    (……馬鹿者! 慌てるな!)
     現実で犯してしまった失敗を取り返すべく、エヴァは小銃を引き寄せることはせず、ぱっと手を離した。
    「おん?」
     アルトは小銃を持ったまま、棒立ちの体勢になる。
    「もらったッ!」
     空手になったエヴァは腰をひねり、左肘をアルトに当てようとする。
    「ほらよ」
     だがアルトは持っていた小銃で、その打撃を受け止める。
    「痛……っ」
     硬いプラスチック製のグリップに肘が当たり、エヴァは短くうめく。その一瞬の隙に、アルトは銃床をエヴァの頭に振り下ろしていた。
    (しまった……!)
     銃床が頭に叩きつけられ、エヴァは自分の意識が遠のいていく感覚に襲われた。

     夢の中で目を覚まし、エヴァは立ち上がる。と同時にまた小銃を構え、アルトに向けてバースト連射を放っていた。
    「遅え、遅え。眠っちまうくらい遅いぜ」
     アルトは事も無げにバースト連射をかわし、エヴァの小銃をつかむ。
    「うっ!?」
     狼狽しかけたものの、先程と同様に小銃を離し、今度は腰に収めていた拳銃を抜こうとする。
    「マヌケかよ」
     だが拳銃を抜くべく一歩引いた瞬間、アルトも一歩詰め寄り、銃床をエヴァの肩にめり込ませた。
    (しまった……!)
     再び意識が遠のいていく。

     また目を覚ます。
    「遅え、遅え。眠っちまうくらい遅いぜ」
    「うっ!?」
     またも小銃をつかまれ、それに対応すれば即座にカウンターを放って、エヴァの意識を飛ばしてくる。
    (しまった……!)
     そして遠のいて数瞬後、気づけばエヴァは小銃を構え、そしてまた――。
    「遅え、遅え。眠っちまうくらい遅いぜ」

     結局――エヴァは夢の中で何度もアルトに挑み続けたが、その全てで無様に負け続けた。

    緑綺星・友逅譚 終
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