「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第5部
蒼天剣・闘由録 5
晴奈の話、第278話。
晴奈とロウの全力勝負。
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5.
先程までにっこりと笑い、堅い握手を結んで相手を祝福していた晴奈がぱっと後ろに跳び、抜刀する。ロウも瞬時に三節棍を構え、両者はにらみ合う。
「……」「……」
にらみ合ったまま、グルグルと円を描くようににじり寄る。
「……でやああッ!」
先に仕掛けたのはロウだった。リーチの長い三節棍を伸ばし、晴奈へと打ち込む。
「はあッ!」
晴奈は飛んできた棍を弾き飛ばし、「火射」を使う。刀が火を噴き、炎が一直線にロウへ向かって飛んでいく。
「おお、っと!」
ロウは側転しつつ横にかわし、体勢を立て直したところでまた棍を飛ばす。
「それッ!」
晴奈はもう一度棍を弾き、今度は至近距離に近付いて刀を振り下ろした。
「ふんッ!」
ロウは棍を「コ」の字に構え、両端を握って振り下ろされた刀を受けた。そして瞬時に「又」の形に組み替え、晴奈の刀を封じようとする。
「甘いッ!」
だが、完全に絡め取られる前に晴奈が刀を引き、がら空きになった腹に蹴りを入れる。
「う、っぐ」
ロウも素早く反応し、蹴られる直前に後ろへ飛びのいて威力を半減させた。
「……ふー。やっぱお前相手に瞬殺なんてのは、無理ってもんだな」
「そのようだな。……一切、手加減はせぬ。全力で来い、ロウ!」
晴奈の声とともに、空では雷鳴が轟く。
稲光に照らされながら、ロウは晴奈の間合いへと飛び込んでいった。
「あっ、雨……」
洗濯物を取り込み終えたアズサは、慌てて教会の中に駆け込んだ。
「……」
教会の礼拝堂で、シルビアが懸命に祈りを捧げている。
「お母さん、洗濯物取り込んでおいたわよ」
「……」
真剣に祈っているせいか、シルビアの返事は無い。
アズサはそれ以上声をかけることはせず、静かに居間へと入っていった。
(お願いです、天帝様……。どうかロウを無事に、帰って来させてください)
礼拝堂に鎮座している天帝像の前に座り込み、無言で祈りを捧げ続ける。
すると――。
「お願いします」「おねがいしまーす」
いつの間にか子供たちもシルビアの周りに座り込み、シルビアと同じように祈りを捧げていた。
「あなたたち……」
シルビアがそれに気付き、声をかける。
「お父さんのこと、いのってたんだよね?」
「元気で帰ってくるといいね」
異口同音にロウの無事を願う子供たちを、シルビアは抱きしめた。
「……そうね」
闘技場にも雨が降り注ぎ、二人は去年天玄で戦った時のように、ずぶ濡れになっていた。
「オラッ!」
ロウの三節棍がまた、晴奈へ向かって飛んでくる。晴奈はそれを弾き、かわそうとした。
「甘いぜ、セイナ!」
だが、弾いたはずの棍がリングの硬い床に当たり、もう一度晴奈に飛んできた。
「何ッ!?」
予想外の棍の動きに対応しきれず、晴奈は避けきれない。
「が……ッ」
棍は晴奈の右肩に当たり、晴奈の肩に嫌な衝撃が走る。
(くそ、筋を痛めた……)
力を入れると、肩に気持ちの悪い痛みが生じる。
晴奈がその痛みに顔をしかめたところで、ロウが檄を飛ばしてきた。
「どうした、セイナ!? 肩や腕の一つや二つやったところで、倒れるようなヤツじゃねーだろ!?」
「……ああ、そうだとも! これしきの打撃、苦にもならぬ!」
晴奈は歯を食いしばり、刀を構え直す。
「まだまだこれからだ! 行くぞッ!」
晴奈は刀に火を灯し、舞うように駆け出した。
「ん……?」
ヒラヒラと動き回りながら、晴奈は「火閃」、「火射」を放つ。
雨で冷え切った空気が急激に暖まり、まるで間欠泉の真っ只中にいるように、辺りの空気が白んでいく。
「何だ、そりゃ……!?」
その尋常ならざる攻撃の気配に、ロウは棍を構えつつ、後ろに退いた。
「こちらも全身全霊を以って、攻めさせてもらうぞッ!
奥義、『炎剣舞』!」
最後に晴奈が放った「火刃」が煮えたぎった空気を集め、爆発した。
突然立ちのぼった真っ白な蒸気と爆発音で、観客たちはざわめいている。
「何だ、今の!?」
「爆弾か!?」
「い、いや、聞いたことがあるぞ。焔流の家元だか誰かが編み出した、一撃必殺の大技があるって。
まさか、コウ先生もそれを使えるのか……!?」
「だ、大丈夫なのかウィアードは?」
「いくらなんでも、やりすぎじゃ……」
雨の勢いが増してくる。立ちのぼった蒸気が冷やされ、次第にリングの様子が明らかになってくる。
「あ……っ!?」
「す、すげえ」
「ウソだろ!?」
リングは半分ほどひび割れ、砕けていたが――晴奈もロウも、リングの上に凛然と立っている。
晴奈は大量に魔力を消費したため、ゼェゼェと荒い息をしている。一方、ロウは髪や服、耳と尻尾の毛が多少焦げてはいるものの、まったく勢いが削がれた様子は無い。
晴奈の奥義「炎剣舞」を以ってしても、ロウを仕留めることはできなかった。
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晴奈とロウの全力勝負。
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先程までにっこりと笑い、堅い握手を結んで相手を祝福していた晴奈がぱっと後ろに跳び、抜刀する。ロウも瞬時に三節棍を構え、両者はにらみ合う。
「……」「……」
にらみ合ったまま、グルグルと円を描くようににじり寄る。
「……でやああッ!」
先に仕掛けたのはロウだった。リーチの長い三節棍を伸ばし、晴奈へと打ち込む。
「はあッ!」
晴奈は飛んできた棍を弾き飛ばし、「火射」を使う。刀が火を噴き、炎が一直線にロウへ向かって飛んでいく。
「おお、っと!」
ロウは側転しつつ横にかわし、体勢を立て直したところでまた棍を飛ばす。
「それッ!」
晴奈はもう一度棍を弾き、今度は至近距離に近付いて刀を振り下ろした。
「ふんッ!」
ロウは棍を「コ」の字に構え、両端を握って振り下ろされた刀を受けた。そして瞬時に「又」の形に組み替え、晴奈の刀を封じようとする。
「甘いッ!」
だが、完全に絡め取られる前に晴奈が刀を引き、がら空きになった腹に蹴りを入れる。
「う、っぐ」
ロウも素早く反応し、蹴られる直前に後ろへ飛びのいて威力を半減させた。
「……ふー。やっぱお前相手に瞬殺なんてのは、無理ってもんだな」
「そのようだな。……一切、手加減はせぬ。全力で来い、ロウ!」
晴奈の声とともに、空では雷鳴が轟く。
稲光に照らされながら、ロウは晴奈の間合いへと飛び込んでいった。
「あっ、雨……」
洗濯物を取り込み終えたアズサは、慌てて教会の中に駆け込んだ。
「……」
教会の礼拝堂で、シルビアが懸命に祈りを捧げている。
「お母さん、洗濯物取り込んでおいたわよ」
「……」
真剣に祈っているせいか、シルビアの返事は無い。
アズサはそれ以上声をかけることはせず、静かに居間へと入っていった。
(お願いです、天帝様……。どうかロウを無事に、帰って来させてください)
礼拝堂に鎮座している天帝像の前に座り込み、無言で祈りを捧げ続ける。
すると――。
「お願いします」「おねがいしまーす」
いつの間にか子供たちもシルビアの周りに座り込み、シルビアと同じように祈りを捧げていた。
「あなたたち……」
シルビアがそれに気付き、声をかける。
「お父さんのこと、いのってたんだよね?」
「元気で帰ってくるといいね」
異口同音にロウの無事を願う子供たちを、シルビアは抱きしめた。
「……そうね」
闘技場にも雨が降り注ぎ、二人は去年天玄で戦った時のように、ずぶ濡れになっていた。
「オラッ!」
ロウの三節棍がまた、晴奈へ向かって飛んでくる。晴奈はそれを弾き、かわそうとした。
「甘いぜ、セイナ!」
だが、弾いたはずの棍がリングの硬い床に当たり、もう一度晴奈に飛んできた。
「何ッ!?」
予想外の棍の動きに対応しきれず、晴奈は避けきれない。
「が……ッ」
棍は晴奈の右肩に当たり、晴奈の肩に嫌な衝撃が走る。
(くそ、筋を痛めた……)
力を入れると、肩に気持ちの悪い痛みが生じる。
晴奈がその痛みに顔をしかめたところで、ロウが檄を飛ばしてきた。
「どうした、セイナ!? 肩や腕の一つや二つやったところで、倒れるようなヤツじゃねーだろ!?」
「……ああ、そうだとも! これしきの打撃、苦にもならぬ!」
晴奈は歯を食いしばり、刀を構え直す。
「まだまだこれからだ! 行くぞッ!」
晴奈は刀に火を灯し、舞うように駆け出した。
「ん……?」
ヒラヒラと動き回りながら、晴奈は「火閃」、「火射」を放つ。
雨で冷え切った空気が急激に暖まり、まるで間欠泉の真っ只中にいるように、辺りの空気が白んでいく。
「何だ、そりゃ……!?」
その尋常ならざる攻撃の気配に、ロウは棍を構えつつ、後ろに退いた。
「こちらも全身全霊を以って、攻めさせてもらうぞッ!
奥義、『炎剣舞』!」
最後に晴奈が放った「火刃」が煮えたぎった空気を集め、爆発した。
突然立ちのぼった真っ白な蒸気と爆発音で、観客たちはざわめいている。
「何だ、今の!?」
「爆弾か!?」
「い、いや、聞いたことがあるぞ。焔流の家元だか誰かが編み出した、一撃必殺の大技があるって。
まさか、コウ先生もそれを使えるのか……!?」
「だ、大丈夫なのかウィアードは?」
「いくらなんでも、やりすぎじゃ……」
雨の勢いが増してくる。立ちのぼった蒸気が冷やされ、次第にリングの様子が明らかになってくる。
「あ……っ!?」
「す、すげえ」
「ウソだろ!?」
リングは半分ほどひび割れ、砕けていたが――晴奈もロウも、リングの上に凛然と立っている。
晴奈は大量に魔力を消費したため、ゼェゼェと荒い息をしている。一方、ロウは髪や服、耳と尻尾の毛が多少焦げてはいるものの、まったく勢いが削がれた様子は無い。
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