「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第2部
緑綺星・奇襲譚 1
シュウの話、第61話。
真夜中の襲撃。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
眠っていたはずなのにすっかりくたびれ切ってしまい、エヴァはもそもそとベッドから這い出した。
(なんて悪夢だ……)
ブラインドが下りた窓に目をやるが、一筋の光も差していない。
(9時前に寝てしまったが、……どれくらい寝られただろう? 3時か、4時か……)
そう思って部屋の中にあったデジタル時計を見ると、3時どころか、まだ日をまたいでさえいない。
(たった2時間だと言うのに、この疲労感か。……いや、睡眠時間として考えたら、たった2時間で疲れが取れるものか)
「う~ん……?」
と、シュウも上半身を起こし、あくび混じりに尋ねてくる。
「ふあぁ……どしたの~……?」
「あ、ごめん。いや、変な夢を見てしまって」
「そっか~……大変だったんだもんね~……でも……うにゅ~……寝ないと辛いよ~……?」
「うん、そうだな。……ごめん、起こしちゃって」
「……むにゅ……むにゃ……」
話している間に、シュウはまた眠ってしまったらしい。
(本当に寝つきがいいな。私もいい加減、しっかり寝よう。今度はトッドレールが出ても、相手なんか絶対しないぞ。……と言うかどうせ見るならシュウの夢の方が百倍いい)
ふう、とため息を一つつき、エヴァはもう一度ベッドに入り直そうとした。
と――エヴァの狼耳が、ばばばば……、と風切り音が遠くから迫ってきているのを聞きつける。
(ヘリ……? 特区の上を飛んでるのか)
そのまま聞き流しかけたが、違和感が襲ってくる。
(……こんな夜中に? 撮影目的じゃないだろう。特区の上じゃ、灯りもほとんど見えないし。医療用や災害救助用でもないだろう。特区を見放してる王国が、こんなところまで飛ばすはずが無い。もしこのセーフエリア内で急病人が出て、その搬送が目的だと言うなら、外で兵士やスタッフが待機しているはずだが、それらしい気配は無い。……だとすると、あれは一体?)
考えを巡らせている間に、ヘリの音は段々と近付き、真上で止まる。
(上にいる……。じゃあやはり病人の搬送か?)
が、そうでないらしいことはこの直後に判明した。カン、カンと硬いものがコンクリートに当たる音が、立て続けに天井から聞こえてきたからだ。
(なんだ? ……まさか!?)
察知した瞬間、エヴァは反射的に狼耳を押さえ、がばっとしゃがみ込む。と同時に窓の外からけたたましい爆発音と、おびただしい量の光が差し込んで来る。
「うわあああ……っ!?」
「ぐ、ぐれっ、グレネード! グレネード!」
「き、緊急っ……!」
外から兵士のものらしい声が聞こえてくるが、先程大量に降り注いだスタングレネード(閃光手榴弾)のためか、いずれも朦朧(もうろう)とした様子である。
(……敵襲!?)
一方エヴァは、屋内にいたこともあり、加えて襲撃直前に防御姿勢を取っていたこともあって、まったくダメージを受けずに済む。
(一体何者だ!? 何の目的で!? ……いや、もう答えは出ているようなものだ)
まだ悲鳴が続く外の様子を伺いながら、エヴァは――結局洗濯した後、きちっと畳んで机の上に置いていた――戦闘服を着込む。
(私がここに来たその日の晩に襲撃してきたんだ。私以外が標的であるわけが無い。となれば敵は明白。騎士団の追手に違いない)
部屋を見回し、武器になりそうなものを探すが、やはりパイプ椅子くらいしか無い。
(流石に取り回しがしづらい。素手の方がマシだ。……ん?)
と、机にシュウのカメラが置いてあるのを見付ける。
(……これは使えそうだな。ちょっと借りるぞ、シュウ)
そっとドアを開け、廊下の様子を伺う。
(まだ屋内には侵入されてないようだ。……いや)
耳をすませば、遠くの方で人が倒れる音がしている。
(だが銃声は無い。堂々と攻め込んで来る奴らがサプレッサー(減音器)付きの銃を使う理由も無いし、恐らくスタンガンかテーザー銃辺りで気絶させているらしい)
相手の出方を予想しつつ、廊下を進む。と、曲がり角から人が近付いて来るのを察知し、エヴァは手にしていたカメラを構える。
(間に合わせの閃光弾だ)
自分の方からさっと角を曲がり、鉢合わせた相手にカメラのフラッシュを浴びせる。
「ぎゃあっ!?」
暗視ゴーグルを付けていた敵は武器を落とし、顔を抑えてのたうち回る。
(暗視ゴーグル付きでフラッシュなんか浴びたら、そりゃそうなるな)
エヴァはすかさず落ちた武器を拾い、ためらいなく相手に向けて撃つ。
「あぎぎぎぎ……」
バチバチと電撃音がし、相手はあっさり気絶してしまった。
(やっぱりテーザー銃だったか)
片付けた相手を調べるが、携行している武器はいずれも非致死性のものばかりだった。
(殺しに来たわけじゃ無さそうだ。拘束用らしい結束バンドも持って来てるし。……当然と言うか、身分が分かるものは無いな。とりあえず放っておこう)
一応相手の手を縛っておき、エヴァはその場から立ち去った。
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真夜中の襲撃。
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眠っていたはずなのにすっかりくたびれ切ってしまい、エヴァはもそもそとベッドから這い出した。
(なんて悪夢だ……)
ブラインドが下りた窓に目をやるが、一筋の光も差していない。
(9時前に寝てしまったが、……どれくらい寝られただろう? 3時か、4時か……)
そう思って部屋の中にあったデジタル時計を見ると、3時どころか、まだ日をまたいでさえいない。
(たった2時間だと言うのに、この疲労感か。……いや、睡眠時間として考えたら、たった2時間で疲れが取れるものか)
「う~ん……?」
と、シュウも上半身を起こし、あくび混じりに尋ねてくる。
「ふあぁ……どしたの~……?」
「あ、ごめん。いや、変な夢を見てしまって」
「そっか~……大変だったんだもんね~……でも……うにゅ~……寝ないと辛いよ~……?」
「うん、そうだな。……ごめん、起こしちゃって」
「……むにゅ……むにゃ……」
話している間に、シュウはまた眠ってしまったらしい。
(本当に寝つきがいいな。私もいい加減、しっかり寝よう。今度はトッドレールが出ても、相手なんか絶対しないぞ。……と言うかどうせ見るならシュウの夢の方が百倍いい)
ふう、とため息を一つつき、エヴァはもう一度ベッドに入り直そうとした。
と――エヴァの狼耳が、ばばばば……、と風切り音が遠くから迫ってきているのを聞きつける。
(ヘリ……? 特区の上を飛んでるのか)
そのまま聞き流しかけたが、違和感が襲ってくる。
(……こんな夜中に? 撮影目的じゃないだろう。特区の上じゃ、灯りもほとんど見えないし。医療用や災害救助用でもないだろう。特区を見放してる王国が、こんなところまで飛ばすはずが無い。もしこのセーフエリア内で急病人が出て、その搬送が目的だと言うなら、外で兵士やスタッフが待機しているはずだが、それらしい気配は無い。……だとすると、あれは一体?)
考えを巡らせている間に、ヘリの音は段々と近付き、真上で止まる。
(上にいる……。じゃあやはり病人の搬送か?)
が、そうでないらしいことはこの直後に判明した。カン、カンと硬いものがコンクリートに当たる音が、立て続けに天井から聞こえてきたからだ。
(なんだ? ……まさか!?)
察知した瞬間、エヴァは反射的に狼耳を押さえ、がばっとしゃがみ込む。と同時に窓の外からけたたましい爆発音と、おびただしい量の光が差し込んで来る。
「うわあああ……っ!?」
「ぐ、ぐれっ、グレネード! グレネード!」
「き、緊急っ……!」
外から兵士のものらしい声が聞こえてくるが、先程大量に降り注いだスタングレネード(閃光手榴弾)のためか、いずれも朦朧(もうろう)とした様子である。
(……敵襲!?)
一方エヴァは、屋内にいたこともあり、加えて襲撃直前に防御姿勢を取っていたこともあって、まったくダメージを受けずに済む。
(一体何者だ!? 何の目的で!? ……いや、もう答えは出ているようなものだ)
まだ悲鳴が続く外の様子を伺いながら、エヴァは――結局洗濯した後、きちっと畳んで机の上に置いていた――戦闘服を着込む。
(私がここに来たその日の晩に襲撃してきたんだ。私以外が標的であるわけが無い。となれば敵は明白。騎士団の追手に違いない)
部屋を見回し、武器になりそうなものを探すが、やはりパイプ椅子くらいしか無い。
(流石に取り回しがしづらい。素手の方がマシだ。……ん?)
と、机にシュウのカメラが置いてあるのを見付ける。
(……これは使えそうだな。ちょっと借りるぞ、シュウ)
そっとドアを開け、廊下の様子を伺う。
(まだ屋内には侵入されてないようだ。……いや)
耳をすませば、遠くの方で人が倒れる音がしている。
(だが銃声は無い。堂々と攻め込んで来る奴らがサプレッサー(減音器)付きの銃を使う理由も無いし、恐らくスタンガンかテーザー銃辺りで気絶させているらしい)
相手の出方を予想しつつ、廊下を進む。と、曲がり角から人が近付いて来るのを察知し、エヴァは手にしていたカメラを構える。
(間に合わせの閃光弾だ)
自分の方からさっと角を曲がり、鉢合わせた相手にカメラのフラッシュを浴びせる。
「ぎゃあっ!?」
暗視ゴーグルを付けていた敵は武器を落とし、顔を抑えてのたうち回る。
(暗視ゴーグル付きでフラッシュなんか浴びたら、そりゃそうなるな)
エヴァはすかさず落ちた武器を拾い、ためらいなく相手に向けて撃つ。
「あぎぎぎぎ……」
バチバチと電撃音がし、相手はあっさり気絶してしまった。
(やっぱりテーザー銃だったか)
片付けた相手を調べるが、携行している武器はいずれも非致死性のものばかりだった。
(殺しに来たわけじゃ無さそうだ。拘束用らしい結束バンドも持って来てるし。……当然と言うか、身分が分かるものは無いな。とりあえず放っておこう)
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