「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第2部
緑綺星・奇襲譚 2
シュウの話、第62話。
偶然の撮影記録。
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2.
セーフエリア内を周り、他の敵を探している間に、どうやらトラス側の態勢も整ってきたらしく、廊下の電気が一斉に点く。
「止まれ!」
兵士たちが4人一組で現れ、エヴァに声をかける。
「怪しい者じゃない。本日、ここに護送されたエヴァンジェリン・アドラーだ」
素直にテーザー銃を床に捨て、両手と尻尾を挙げたエヴァに、兵士たちはほっとした様子を見せる。
「そう……だな。確かに夕方くらいに見た顔だ」
「ここで何をしてるんだ? その武器は?」
「強襲されている気配を察知し、安全を確保すべく付近を探っていた。その際に接敵し、相手を無力化した。このテーザー銃はその際に相手から鹵獲(ろかく:敵の武器・物資を奪うこと)したものだ」
「勝手に動かれては困る」
そう前置きしつつも、班のリーダーらしき猫獣人が敬礼する。
「しかし緊急事態に手助けしてくれるのは多少なりとも助かる。で、その倒した相手は? 死んでるのか?」
「いや、気絶に留めた。こっちだ」
来た道を引き返し、敵が倒れていた場所まで戻るが――。
「どこだ?」
「いない。……逃げられたらしい」
「気絶させたのにか?」
「させたはずだったんだが……仲間に助けられたか」
「本当に敵だったのか? 我々を誤認して攻撃した可能性は無いのか?」
猫獣人に尋ねられ、エヴァは首にかけていたカメラを起動した。
「閃光弾のつもりでフラッシュを浴びせたが、その際に撮っていたはずだ。確認してくれ」
「ふむ」
カメラの映像を確認し、猫獣人は小さくうなずいた。
「確かに我々の仲間じゃなさそうだ。装備が違うし、そもそも警戒態勢時は4人で行動するのが原則だ。1人でうろうろするようなことはしないよう、徹底している」
「殺傷能力のある武器は装備していなかったが、一方でテーザー銃と結束バンドを所持していた。ただ騒ぎを起こすだけなら侵入までする理由は無いし、装備の内容からしても、ここにいる誰かを連れ去るのが目的だろう」
「今判断するのは性急な気もするが、……まあ、そんなところだろう」
猫獣人はエヴァに顔を向け、続いて尋ねる。
「現在このセーフエリアにいるのは――我々トラス王国軍の兵士を除けば――取材目的の民間人2名。そして地質調査に来た央南人。それから君だ。この中で狙われる可能性が最も高いのは……」
「恐らく私だろう」
そう答えたところで、猫獣人はふう、とため息をついた。
「それが分かっているなら、うかつな行動は控えてほしいものだが」
「部屋の中じゃ逃げ場が無いだろう? それより打って出た方が打開の可能性がある」
「道理と言うべきか、屁理屈と言うべきか。まあいい。ここからは我々と同行して……」
と――頭上でずっと聞こえていたヘリの音が動き出すのを感じ、エヴァも兵士たちも、上を見上げた。
「遠ざかっていく……」
「……逃げた?」
その後セーフエリア内がくまなく捜査され、人的・物的被害が0であったことはすぐに判明したものの、襲ってきた者たちの正体も、そしてその目的も、究明することはできなかった。
「その時撮った相手がこいつか」
安全が確保された後、まだ寝ぼけ眼のシュウと、そしてまだ起きていたカニートを交え、エヴァが撮った写真を確認することになったが――。
「はっきり撮れちゃいるが、顔は暗視ゴーグルで覆われてるからさっぱり分からん。前からの写真だから尻尾は写ってないが、穴の無い帽子被ってるから多分裸耳系だろう。徽章やワッペンみたいなのも無いし、戦闘服の感じ……なんて言っても、俺は軍事ジャーナリストでもミリオタでもないから、どこの誰だなんてことも分からん。装備に関しても同様だ。つまり結論としては、この写真からは何も分からないってことだ」
「……ですねー」
渋い顔で固まっている二人に、エヴァは自分の考えを話す。
「私がここに来たその日の晩に強襲してきたことを考えると、恐らく私を拘束し、連れ戻そうとしているんだろう。だがもちろん、私は戻るつもりは無い」
「明日、明後日には護送されるとは思うが……」
「また強襲される危険もある。いや、そもそも王国内に入った後でも、襲われるかも知れない。もっと積極的な対策を講じたい」
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セーフエリア内を周り、他の敵を探している間に、どうやらトラス側の態勢も整ってきたらしく、廊下の電気が一斉に点く。
「止まれ!」
兵士たちが4人一組で現れ、エヴァに声をかける。
「怪しい者じゃない。本日、ここに護送されたエヴァンジェリン・アドラーだ」
素直にテーザー銃を床に捨て、両手と尻尾を挙げたエヴァに、兵士たちはほっとした様子を見せる。
「そう……だな。確かに夕方くらいに見た顔だ」
「ここで何をしてるんだ? その武器は?」
「強襲されている気配を察知し、安全を確保すべく付近を探っていた。その際に接敵し、相手を無力化した。このテーザー銃はその際に相手から鹵獲(ろかく:敵の武器・物資を奪うこと)したものだ」
「勝手に動かれては困る」
そう前置きしつつも、班のリーダーらしき猫獣人が敬礼する。
「しかし緊急事態に手助けしてくれるのは多少なりとも助かる。で、その倒した相手は? 死んでるのか?」
「いや、気絶に留めた。こっちだ」
来た道を引き返し、敵が倒れていた場所まで戻るが――。
「どこだ?」
「いない。……逃げられたらしい」
「気絶させたのにか?」
「させたはずだったんだが……仲間に助けられたか」
「本当に敵だったのか? 我々を誤認して攻撃した可能性は無いのか?」
猫獣人に尋ねられ、エヴァは首にかけていたカメラを起動した。
「閃光弾のつもりでフラッシュを浴びせたが、その際に撮っていたはずだ。確認してくれ」
「ふむ」
カメラの映像を確認し、猫獣人は小さくうなずいた。
「確かに我々の仲間じゃなさそうだ。装備が違うし、そもそも警戒態勢時は4人で行動するのが原則だ。1人でうろうろするようなことはしないよう、徹底している」
「殺傷能力のある武器は装備していなかったが、一方でテーザー銃と結束バンドを所持していた。ただ騒ぎを起こすだけなら侵入までする理由は無いし、装備の内容からしても、ここにいる誰かを連れ去るのが目的だろう」
「今判断するのは性急な気もするが、……まあ、そんなところだろう」
猫獣人はエヴァに顔を向け、続いて尋ねる。
「現在このセーフエリアにいるのは――我々トラス王国軍の兵士を除けば――取材目的の民間人2名。そして地質調査に来た央南人。それから君だ。この中で狙われる可能性が最も高いのは……」
「恐らく私だろう」
そう答えたところで、猫獣人はふう、とため息をついた。
「それが分かっているなら、うかつな行動は控えてほしいものだが」
「部屋の中じゃ逃げ場が無いだろう? それより打って出た方が打開の可能性がある」
「道理と言うべきか、屁理屈と言うべきか。まあいい。ここからは我々と同行して……」
と――頭上でずっと聞こえていたヘリの音が動き出すのを感じ、エヴァも兵士たちも、上を見上げた。
「遠ざかっていく……」
「……逃げた?」
その後セーフエリア内がくまなく捜査され、人的・物的被害が0であったことはすぐに判明したものの、襲ってきた者たちの正体も、そしてその目的も、究明することはできなかった。
「その時撮った相手がこいつか」
安全が確保された後、まだ寝ぼけ眼のシュウと、そしてまだ起きていたカニートを交え、エヴァが撮った写真を確認することになったが――。
「はっきり撮れちゃいるが、顔は暗視ゴーグルで覆われてるからさっぱり分からん。前からの写真だから尻尾は写ってないが、穴の無い帽子被ってるから多分裸耳系だろう。徽章やワッペンみたいなのも無いし、戦闘服の感じ……なんて言っても、俺は軍事ジャーナリストでもミリオタでもないから、どこの誰だなんてことも分からん。装備に関しても同様だ。つまり結論としては、この写真からは何も分からないってことだ」
「……ですねー」
渋い顔で固まっている二人に、エヴァは自分の考えを話す。
「私がここに来たその日の晩に強襲してきたことを考えると、恐らく私を拘束し、連れ戻そうとしているんだろう。だがもちろん、私は戻るつもりは無い」
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