「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第2部
緑綺星・奇襲譚 3
シュウの話、第63話。
メイスンリポート#1;エヴァンジェリン・アドラー嬢の告発!
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3.
「積極的な? ……どーゆーコト?」
きょとんとするシュウに、エヴァはこう返した。
「襲う理由は一つしか無い。私に共和国の内情を語られてはまずいからだ。なら、先んじて公表してしまえばいい。その後で襲ってきたところで、もう手遅れだからな」
「つまり今すぐ報道しろってことか。確かに効果はあるかもな」
カニートはそう返しつつも、依然として渋い表情を崩さない。
「だが何度も言うが、俺たちは政治面担当でもなければ、三流ゴシップ誌の記者でもない。確定できてない、裏も取れてない不確かな情報を、エクスプローラ社の名前で安易に広めるわけには行かないんだ。そもそも強襲の件にしたって、本当に君を狙ってのことかは定かじゃない。君が目的だと言うのは君の先入観、主観上での話でしかない。そんなあやふやな根拠で報じようったって、社の上層部は絶対に許可しないだろう」
「明らかだろう!? それともただの偶然だと言うのか!?」
「落ち着いてくれ」
猛るエヴァに、カニートは堅い態度を示す。
「現段階で確定している情報は、ここが正体不明の人間に襲われたと言う事実だけだ。それに関する君の意見も、そして君の持って来た情報も、結局は君一人の主張でしかない。客観的に確かな情報であると断定できない限り、俺たちはそれを世に広めることはできない。それがまともな会社、社会の公器ってやつだ。この回答で納得できないなら、他の出版社に掛け合ってみてくれ」
「ぐっ……」
整然としたことばではっきりと却下されてしまい、エヴァはうめくしかなかった。
それ以上何もできず、エヴァとシュウはすごすごと部屋に戻った。
「くそっ……! このまま座して襲われるのを待てって言うのか!?」
エヴァががつん、と苛立たしげにテーブルを叩き、猛っている一方で、シュウは一旦ドアを開け、廊下の様子を確かめて、しっかり施錠して戻って来た。
「ねえ、エヴァ」
「何だ!?」
「落ち着いて落ち着いて。あのね、先輩はああ言ってたけど、わたし、やっぱりエヴァに賛成だなって」
「え?」
「だからさ、『今すぐ』みんなに伝えてみたらどうかなって」
シュウの言っていることが分からず、エヴァは首をかしげる。
「今……すぐ?」
「うん。今すぐ、コレで」
そう返し、シュウはスマホをエヴァに向けた。
こんばんは。えっと、初投稿です。ので。あの、聞きづらいトコがあるかも知れませんが、あの、よろしくお願いします。えーとですね、わたし、えーと、わたしの友達のエヴァンジェリン・アドラーさんが、今すぐに、全世界にお伝えしたいコトがあるってコトなので、いま、大急ぎで撮ってます。……じゃあ、エヴァ、えーと、……どうぞっ!
《私はエヴァンジェリン・アドラー。4日前まで央北リモード共和国のアドラー近衛騎士団、『ダークナイト』の一員だった。これまでシュウの取材を……》ちょっ、あの、名前! コレ生配信! わたしの名前出しちゃ……《ん? ……あっ》……いいか、もう。はい、今この動画を撮ってるわたしがシュウです。じゃあ、はい、続きどうぞ。《あ、ああ。すまない。……コホン。これまで彼女の取材を受け、一般には私が単なるお嬢様でしかないと認識されていると思う。そして実家のアドラー家も、なんてことのない地方の名家であるとも。
しかし実態はそうではない。アドラー家も、そしてダークナイトも、およそまともな、良識ある国家としてやってはならない悪事に手を染めているのだ。アドラー家はダークナイトを諜報機関として指揮しており、近隣諸国の裏事情を探り、闇取引を繰り返している。のみならず、ダークナイトを使って白猫党領からの難民を排除している。具体的に言えば、無断で白猫党領へ侵犯し、自国に渡ろうとしている難民を射殺しているのだ。そして私も、それに加担させられていた。事実を知らされないままに、だ。
無論、今更私に罪はないなどとごまかすつもりは無い。私が犯してしまった罪は消えない。私はこの手で多くの人々を、……殺してしまったのだ。それが事実だ。その罪滅ぼしなどと言ってはおこがましいことだが、それでも、この非道を見て見ぬ振りなどできはしない!
この放送を観ているすべての人へ、私ははっきりと伝える。リモード共和国は奇跡の国なんかじゃない。薄汚い悪事に手を染める、ならず者国家だ!》
……えーと、とのコトです。彼女は本日、トラス王国に身柄を保護されましたが、同じ日に、何者かからの襲撃を受けました。幸い彼女の身に危害が及ぶコトはありませんでしたが、コレは彼女の話が真実であるコトを示す、何よりの証拠です。
どうか彼女がさらなる危険にさらされるコトが無いよう、いえ、さらなる悪事に加担させられるコトが無いよう、真実を広めて下さい。わたしからは、以上です。ありがとうございました。
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「積極的な? ……どーゆーコト?」
きょとんとするシュウに、エヴァはこう返した。
「襲う理由は一つしか無い。私に共和国の内情を語られてはまずいからだ。なら、先んじて公表してしまえばいい。その後で襲ってきたところで、もう手遅れだからな」
「つまり今すぐ報道しろってことか。確かに効果はあるかもな」
カニートはそう返しつつも、依然として渋い表情を崩さない。
「だが何度も言うが、俺たちは政治面担当でもなければ、三流ゴシップ誌の記者でもない。確定できてない、裏も取れてない不確かな情報を、エクスプローラ社の名前で安易に広めるわけには行かないんだ。そもそも強襲の件にしたって、本当に君を狙ってのことかは定かじゃない。君が目的だと言うのは君の先入観、主観上での話でしかない。そんなあやふやな根拠で報じようったって、社の上層部は絶対に許可しないだろう」
「明らかだろう!? それともただの偶然だと言うのか!?」
「落ち着いてくれ」
猛るエヴァに、カニートは堅い態度を示す。
「現段階で確定している情報は、ここが正体不明の人間に襲われたと言う事実だけだ。それに関する君の意見も、そして君の持って来た情報も、結局は君一人の主張でしかない。客観的に確かな情報であると断定できない限り、俺たちはそれを世に広めることはできない。それがまともな会社、社会の公器ってやつだ。この回答で納得できないなら、他の出版社に掛け合ってみてくれ」
「ぐっ……」
整然としたことばではっきりと却下されてしまい、エヴァはうめくしかなかった。
それ以上何もできず、エヴァとシュウはすごすごと部屋に戻った。
「くそっ……! このまま座して襲われるのを待てって言うのか!?」
エヴァががつん、と苛立たしげにテーブルを叩き、猛っている一方で、シュウは一旦ドアを開け、廊下の様子を確かめて、しっかり施錠して戻って来た。
「ねえ、エヴァ」
「何だ!?」
「落ち着いて落ち着いて。あのね、先輩はああ言ってたけど、わたし、やっぱりエヴァに賛成だなって」
「え?」
「だからさ、『今すぐ』みんなに伝えてみたらどうかなって」
シュウの言っていることが分からず、エヴァは首をかしげる。
「今……すぐ?」
「うん。今すぐ、コレで」
そう返し、シュウはスマホをエヴァに向けた。
こんばんは。えっと、初投稿です。ので。あの、聞きづらいトコがあるかも知れませんが、あの、よろしくお願いします。えーとですね、わたし、えーと、わたしの友達のエヴァンジェリン・アドラーさんが、今すぐに、全世界にお伝えしたいコトがあるってコトなので、いま、大急ぎで撮ってます。……じゃあ、エヴァ、えーと、……どうぞっ!
《私はエヴァンジェリン・アドラー。4日前まで央北リモード共和国のアドラー近衛騎士団、『ダークナイト』の一員だった。これまでシュウの取材を……》ちょっ、あの、名前! コレ生配信! わたしの名前出しちゃ……《ん? ……あっ》……いいか、もう。はい、今この動画を撮ってるわたしがシュウです。じゃあ、はい、続きどうぞ。《あ、ああ。すまない。……コホン。これまで彼女の取材を受け、一般には私が単なるお嬢様でしかないと認識されていると思う。そして実家のアドラー家も、なんてことのない地方の名家であるとも。
しかし実態はそうではない。アドラー家も、そしてダークナイトも、およそまともな、良識ある国家としてやってはならない悪事に手を染めているのだ。アドラー家はダークナイトを諜報機関として指揮しており、近隣諸国の裏事情を探り、闇取引を繰り返している。のみならず、ダークナイトを使って白猫党領からの難民を排除している。具体的に言えば、無断で白猫党領へ侵犯し、自国に渡ろうとしている難民を射殺しているのだ。そして私も、それに加担させられていた。事実を知らされないままに、だ。
無論、今更私に罪はないなどとごまかすつもりは無い。私が犯してしまった罪は消えない。私はこの手で多くの人々を、……殺してしまったのだ。それが事実だ。その罪滅ぼしなどと言ってはおこがましいことだが、それでも、この非道を見て見ぬ振りなどできはしない!
この放送を観ているすべての人へ、私ははっきりと伝える。リモード共和国は奇跡の国なんかじゃない。薄汚い悪事に手を染める、ならず者国家だ!》
……えーと、とのコトです。彼女は本日、トラス王国に身柄を保護されましたが、同じ日に、何者かからの襲撃を受けました。幸い彼女の身に危害が及ぶコトはありませんでしたが、コレは彼女の話が真実であるコトを示す、何よりの証拠です。
どうか彼女がさらなる危険にさらされるコトが無いよう、いえ、さらなる悪事に加担させられるコトが無いよう、真実を広めて下さい。わたしからは、以上です。ありがとうございました。
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