「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第2部
緑綺星・奇襲譚 4
シュウの話、第64話。
臨時ニュース。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
4.
セーフエリア強襲と、そしてエヴァの訴えが配信されたその翌日、午前8時少し前――。
「ふあ~ぁ……全然伸びてないね、再生数。37回だって」
「……そうか」
意を決して執った行動が功を奏しておらず、エヴァはがっかりしていた。
「だが一応の牽制にはなっただろう。この動画が世に出回った今、奴らが襲ってきたら、わたしの主張を認めたも同然に……」「あ、8時になったよ。食堂開くから、一緒にご飯食べに行こ」「……ああ」
あまり頓着していない様子で、スマホを手にベッドから立ち上がるシュウを見て、エヴァは憤りかけたが――。
(……落ち着け、エヴァンジェリン。そんなの、ただの八つ当たりだろう? シュウはやれることをやってくれたんだ)
自分に何度も言い聞かせ、エヴァも部屋を後にする。そのままシュウに付いて行く形で廊下を進んでいたが、一向に自分の心の整理は付かない。
「あれから眠れたのか?」
「うん、ぐっすり」
黙って歩くのも変に思い、会話らしいものを試みてはみるが、何を話しても自分の感情の上を滑っていく。
「エヴァは眠れなかったみたいだね。なんかぼんやりしてる」
「ああ……まあ、いつものことだ」
そうこうする内に食堂に着き、シュウがコーヒーメーカーを指差す。
「ブラックにする? ミルク入れる? 砂糖いくつ?」
「……カフェイン、苦手なんだ。コーヒー以外が飲みたい」
「あ、そうなんだー」
のんきそうに応じるシュウに、エヴァの苛立ちが再燃する。
「前に言ったと思うんだけどな」
「そうだっけ? ごめんごめん、ソレで飲み物……」「それで!?」
苛立ちを抑えきれず、エヴァは思わず声を荒げる。シュウと、そして周囲の視線が自分に集中し、エヴァの頭がようやく冷めるが、シュウは猫耳を毛羽立たせたまま、固まっている。
「え、っと……、ごめん。そんなに怒るなんて思ってなかったの、ホントにごめん」
「い、いや、済まない。あんまり眠れてないから、……あの、ほら、寝ぼけたんだ、ちょっと」
「……うん。そっか、うん」
深々と頭を下げ、謝罪したものの、シュウの声には明らかに、怯えた色が混じっていた。
その時だった。
《臨時ニュースが入りました》
一瞬前まで海水浴場の様子を映していたテレビが、緊張した面持ちのニュースキャスターのバストアップに切り替わる。
《本日早朝、央北リモード共和国にて大規模な軍事衝突が発生した模様です。繰り返します。本日早朝、央北リモード共和国にて……》
「……!?」
さっきまでの気まずい空気が吹き飛び、シュウとエヴァは顔を見合わせた。
「今、リモード共和国って……?」
「あ、ああ。確かにそう言った」
テレビにはかなり遠くから街の様子を撮影したらしい映像が映っており、もうもうと黒煙が上がっているのが確認できた。
《外務省によりますと、現在、リモード共和国大統領府からの返答は得られておらず、現段階で詳細は不明との、……え? ……今? 今来たの?》
と、右下のワイプに映されていたキャスターが戸惑った表情を浮かべ、そしてまた、テレビ全面に彼の顔が映し出された。
《えー……、たった今、たった今です、たった今現在、リモード共和国を侵攻していると、えー、侵攻していると自称して、えー、発表している人物からの、えー、声明がですね、当局にメールにて送られてきたとのことです。……映像出せる? ……よし、……えー、これから、その映像をですね、再生いたします。えー、……お願いします》
しどろもどろながらもキャスターが指示し、映像が切り替わった。
《私は反リモード共和国、及び反アドラー近衛騎士団組織、通称『ARRDK』の総長、リベロ・アドラーだ。
我々はリモード共和国が密かに行ってきた蛮行・悪行の数々を明らかにし、そして正義の名の元にこれを糺(ただ)すべく活動を行っていた。そして昨晩、私の妹エヴァンジェリン・アドラーが先んじてネット上に動画を公開し、王国の、そして騎士団の非道を詳(つまび)らかにしてくれた。この動画で訴えられていたことはすべて真実である。この妹の勇気に報いるべく、そして妹をこれ以上の危険にさらさざるべく、我々は只今を以て蹶起(けっき)することとした。
我が妹のため、リモード共和国人民のため、そして平和のために、これより一両日以内に騎士団を壊滅させ、そして騎士団を操り長年に渡って不正に富と権力を築いてきたリモード共和国を制圧する。以上だ》
テレビ画面がまた、先程のキャスターを映していたが、エヴァもシュウももう、そちらを見てはいなかった。
「い……今のって? あの人、誰?」
「……あ、兄、……だ」
何が起こっていたのかまるで理解できず、エヴァは呆然としていた。と――シュウのスマホから、ぺこん、ぺこんと立て続けに通知音が鳴る。
「ひぇっ……」
シュウが怯えた声を上げ、スマホを机に投げる。その画面は、昨夜の動画の再生回数が一定数を超えたことを示す通知と、その動画に寄せられたコメントの転送通知でいっぱいになっていた。そしてこの後も通知音は鳴り続け――朝8時前までの時点でたった37回だった再生回数は、正午を迎えるまでに100万回を突破してしまった。
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セーフエリア強襲と、そしてエヴァの訴えが配信されたその翌日、午前8時少し前――。
「ふあ~ぁ……全然伸びてないね、再生数。37回だって」
「……そうか」
意を決して執った行動が功を奏しておらず、エヴァはがっかりしていた。
「だが一応の牽制にはなっただろう。この動画が世に出回った今、奴らが襲ってきたら、わたしの主張を認めたも同然に……」「あ、8時になったよ。食堂開くから、一緒にご飯食べに行こ」「……ああ」
あまり頓着していない様子で、スマホを手にベッドから立ち上がるシュウを見て、エヴァは憤りかけたが――。
(……落ち着け、エヴァンジェリン。そんなの、ただの八つ当たりだろう? シュウはやれることをやってくれたんだ)
自分に何度も言い聞かせ、エヴァも部屋を後にする。そのままシュウに付いて行く形で廊下を進んでいたが、一向に自分の心の整理は付かない。
「あれから眠れたのか?」
「うん、ぐっすり」
黙って歩くのも変に思い、会話らしいものを試みてはみるが、何を話しても自分の感情の上を滑っていく。
「エヴァは眠れなかったみたいだね。なんかぼんやりしてる」
「ああ……まあ、いつものことだ」
そうこうする内に食堂に着き、シュウがコーヒーメーカーを指差す。
「ブラックにする? ミルク入れる? 砂糖いくつ?」
「……カフェイン、苦手なんだ。コーヒー以外が飲みたい」
「あ、そうなんだー」
のんきそうに応じるシュウに、エヴァの苛立ちが再燃する。
「前に言ったと思うんだけどな」
「そうだっけ? ごめんごめん、ソレで飲み物……」「それで!?」
苛立ちを抑えきれず、エヴァは思わず声を荒げる。シュウと、そして周囲の視線が自分に集中し、エヴァの頭がようやく冷めるが、シュウは猫耳を毛羽立たせたまま、固まっている。
「え、っと……、ごめん。そんなに怒るなんて思ってなかったの、ホントにごめん」
「い、いや、済まない。あんまり眠れてないから、……あの、ほら、寝ぼけたんだ、ちょっと」
「……うん。そっか、うん」
深々と頭を下げ、謝罪したものの、シュウの声には明らかに、怯えた色が混じっていた。
その時だった。
《臨時ニュースが入りました》
一瞬前まで海水浴場の様子を映していたテレビが、緊張した面持ちのニュースキャスターのバストアップに切り替わる。
《本日早朝、央北リモード共和国にて大規模な軍事衝突が発生した模様です。繰り返します。本日早朝、央北リモード共和国にて……》
「……!?」
さっきまでの気まずい空気が吹き飛び、シュウとエヴァは顔を見合わせた。
「今、リモード共和国って……?」
「あ、ああ。確かにそう言った」
テレビにはかなり遠くから街の様子を撮影したらしい映像が映っており、もうもうと黒煙が上がっているのが確認できた。
《外務省によりますと、現在、リモード共和国大統領府からの返答は得られておらず、現段階で詳細は不明との、……え? ……今? 今来たの?》
と、右下のワイプに映されていたキャスターが戸惑った表情を浮かべ、そしてまた、テレビ全面に彼の顔が映し出された。
《えー……、たった今、たった今です、たった今現在、リモード共和国を侵攻していると、えー、侵攻していると自称して、えー、発表している人物からの、えー、声明がですね、当局にメールにて送られてきたとのことです。……映像出せる? ……よし、……えー、これから、その映像をですね、再生いたします。えー、……お願いします》
しどろもどろながらもキャスターが指示し、映像が切り替わった。
《私は反リモード共和国、及び反アドラー近衛騎士団組織、通称『ARRDK』の総長、リベロ・アドラーだ。
我々はリモード共和国が密かに行ってきた蛮行・悪行の数々を明らかにし、そして正義の名の元にこれを糺(ただ)すべく活動を行っていた。そして昨晩、私の妹エヴァンジェリン・アドラーが先んじてネット上に動画を公開し、王国の、そして騎士団の非道を詳(つまび)らかにしてくれた。この動画で訴えられていたことはすべて真実である。この妹の勇気に報いるべく、そして妹をこれ以上の危険にさらさざるべく、我々は只今を以て蹶起(けっき)することとした。
我が妹のため、リモード共和国人民のため、そして平和のために、これより一両日以内に騎士団を壊滅させ、そして騎士団を操り長年に渡って不正に富と権力を築いてきたリモード共和国を制圧する。以上だ》
テレビ画面がまた、先程のキャスターを映していたが、エヴァもシュウももう、そちらを見てはいなかった。
「い……今のって? あの人、誰?」
「……あ、兄、……だ」
何が起こっていたのかまるで理解できず、エヴァは呆然としていた。と――シュウのスマホから、ぺこん、ぺこんと立て続けに通知音が鳴る。
「ひぇっ……」
シュウが怯えた声を上げ、スマホを机に投げる。その画面は、昨夜の動画の再生回数が一定数を超えたことを示す通知と、その動画に寄せられたコメントの転送通知でいっぱいになっていた。そしてこの後も通知音は鳴り続け――朝8時前までの時点でたった37回だった再生回数は、正午を迎えるまでに100万回を突破してしまった。
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