「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第2部
緑綺星・奇襲譚 5
シュウの話、第65話。
罪と報復。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
「エクスプローラ社の役員から直々に、お前にお達しがあった」
正午少し前、シュウは苦い顔をしたカニートに呼び出され、二人きりで話していた。
「『弊社のインターン生がビデオクラウドにて政治的主張を主旨とする動画を配信していたとの情報をつかみ、我々役員会で当該動画を視聴した結果、前述のインターン生、シュウ・メイスンと思しき名前が公表されていることを確認した。弊社はあくまでも公平かつ公正を期すべき社会の公器であり、弊社、もしくは弊社に関係する人間が特定の政権、政党、政治結社、およびその他の政治団体に類する組織へ加担する行為は、決して容認してはならない。ついては該当のインターン生に事実確認を行うこととし、もし前述の内容に相違が無いものであれば、相応の処置を講ずる』とのことだ」
「そ、『相応の措置』って……」
「まず間違いなくクビ、……いや、インターンだから語弊があるな。まあ、服務規程上の違約があるとして、大学への損害賠償が行われるだろう。良くて単位取り消し、悪くて退学だろうな」
「そ、そんなぁ~……」
顔を真っ青にするシュウに、カニートが畳み掛ける。
「そんなじゃないだろ。こうなることは容易に予想できたはずだ」
「でも、だって、わたしが自分の名前出したワケじゃ……」
「例えあの動画で名前が出なかったとしても、世間は調べる。そして投稿者がお前だってことに、いずれは行き着いただろう。結果は一緒だ。ともかく、お前がやったことはお前の予想以上に責任が重かった。もう他人に責任なすりつけてる場合じゃない。素直に自分の罪を認めるしかないな」
「『罪』って……何が罪なんですか?」
シュウはべそをかきながら、そう尋ねた。
「わたしは友達のためにやったんですよ。このままじゃ友達が危険にさらされるから、その対抗措置として。正当防衛でしょ、ソレなら?」
「俺に言い訳したって仕方ない。……この件はもう、俺にどうこうできる状況じゃない。むしろ俺も、お前に対する監督責任を問われるだろう」
カニートはシュウに背を向け、こう言い捨てた。
「お前には心底がっかりした。もっと慎重な奴だと思ってたんだがな。正直、もう顔も見たくない」
「……っ」
それ以上何も言えず、シュウはぐすぐすと泣きながら部屋を後にし、自分の部屋に戻った。
「エヴァ、ひっく、ごめん、わたし……」
が――部屋の中には、誰もいなかった。
クーデターの声明動画を観た直後、エヴァはたまらず、セーフエリアの外に飛び出していた。
(なにが『我が妹のために』だ、あのクズめッ!)
心の中には羞恥心と――そして何故か――義憤が湧き上がっていた。
(あいつに利用されたことが悔しくてたまらない。その上、それを口実に共和国を襲うだなど、許されることじゃない。……国を捨てたつもりだったが、実際に襲われたとあっては、立ち上がらないわけにはいかない。ましてやあんなふざけた理屈で攻め込んでいいわけがない。
どうにかして国に戻り、リベロの蛮行を止めなければ!)
移動手段を確保するため、あの蚤の市に足を運んだものの――。
(……やはりまともなものは無いか)
中古車を一通り見て回ったが、どれも走行能力がありそうには見えず、エヴァは頭を抱えた。
(となると徒歩で? いや、不可能だ。直線距離でも、共和国まで300キロ近くあるんだぞ? 仮に踏破したとしても、リベロの侵攻を止めるには絶対に間に合わない。何としても車を入手しなければ……)
と――背後から唐突に、声が掛けられた。
「あれ? エヴァさん?」
「……!?」
振り向くと、そこにはあの「猫」のドライバー、ラモンの姿があった。
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罪と報復。
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5.
「エクスプローラ社の役員から直々に、お前にお達しがあった」
正午少し前、シュウは苦い顔をしたカニートに呼び出され、二人きりで話していた。
「『弊社のインターン生がビデオクラウドにて政治的主張を主旨とする動画を配信していたとの情報をつかみ、我々役員会で当該動画を視聴した結果、前述のインターン生、シュウ・メイスンと思しき名前が公表されていることを確認した。弊社はあくまでも公平かつ公正を期すべき社会の公器であり、弊社、もしくは弊社に関係する人間が特定の政権、政党、政治結社、およびその他の政治団体に類する組織へ加担する行為は、決して容認してはならない。ついては該当のインターン生に事実確認を行うこととし、もし前述の内容に相違が無いものであれば、相応の処置を講ずる』とのことだ」
「そ、『相応の措置』って……」
「まず間違いなくクビ、……いや、インターンだから語弊があるな。まあ、服務規程上の違約があるとして、大学への損害賠償が行われるだろう。良くて単位取り消し、悪くて退学だろうな」
「そ、そんなぁ~……」
顔を真っ青にするシュウに、カニートが畳み掛ける。
「そんなじゃないだろ。こうなることは容易に予想できたはずだ」
「でも、だって、わたしが自分の名前出したワケじゃ……」
「例えあの動画で名前が出なかったとしても、世間は調べる。そして投稿者がお前だってことに、いずれは行き着いただろう。結果は一緒だ。ともかく、お前がやったことはお前の予想以上に責任が重かった。もう他人に責任なすりつけてる場合じゃない。素直に自分の罪を認めるしかないな」
「『罪』って……何が罪なんですか?」
シュウはべそをかきながら、そう尋ねた。
「わたしは友達のためにやったんですよ。このままじゃ友達が危険にさらされるから、その対抗措置として。正当防衛でしょ、ソレなら?」
「俺に言い訳したって仕方ない。……この件はもう、俺にどうこうできる状況じゃない。むしろ俺も、お前に対する監督責任を問われるだろう」
カニートはシュウに背を向け、こう言い捨てた。
「お前には心底がっかりした。もっと慎重な奴だと思ってたんだがな。正直、もう顔も見たくない」
「……っ」
それ以上何も言えず、シュウはぐすぐすと泣きながら部屋を後にし、自分の部屋に戻った。
「エヴァ、ひっく、ごめん、わたし……」
が――部屋の中には、誰もいなかった。
クーデターの声明動画を観た直後、エヴァはたまらず、セーフエリアの外に飛び出していた。
(なにが『我が妹のために』だ、あのクズめッ!)
心の中には羞恥心と――そして何故か――義憤が湧き上がっていた。
(あいつに利用されたことが悔しくてたまらない。その上、それを口実に共和国を襲うだなど、許されることじゃない。……国を捨てたつもりだったが、実際に襲われたとあっては、立ち上がらないわけにはいかない。ましてやあんなふざけた理屈で攻め込んでいいわけがない。
どうにかして国に戻り、リベロの蛮行を止めなければ!)
移動手段を確保するため、あの蚤の市に足を運んだものの――。
(……やはりまともなものは無いか)
中古車を一通り見て回ったが、どれも走行能力がありそうには見えず、エヴァは頭を抱えた。
(となると徒歩で? いや、不可能だ。直線距離でも、共和国まで300キロ近くあるんだぞ? 仮に踏破したとしても、リベロの侵攻を止めるには絶対に間に合わない。何としても車を入手しなければ……)
と――背後から唐突に、声が掛けられた。
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「……!?」
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