「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第2部
緑綺星・奇襲譚 6
シュウの話、第66話。
無法地帯の儲け話。
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6.
「どうしたんですか、こんなところで? ……あ、そんなに警戒しないでいいです」
ラモンはそう続け、腰のテーザー銃――結局あの晩に鹵獲した後、ずっと携行していた――に手を伸ばしたエヴァに落ち着くよう促す。
「アルトさんならもうこの街にいません」
「そうなのか?」
「なんか結構大きい仕事頼まれたらしいです。書き置きだけ残ってました」
「……随分あっさりしたものだな」
「僕とアルトさんの関係なんてそんなもんですよ。仕事で僕の手を借りたいって時だけ、連絡が来るくらいの。……それに分かるでしょ? あの人、結構めんどくさい人なんですよ」
「それは分かるな」
「あの人と一緒にいられるのなんて、1週間か2週間がギリギリ限界です。それ以上は僕も無理です。……って、そんなことよりエヴァさん、こんなところで何してるんですか? クルマ買おうとしてるんですか、もしかして」
「そのつもりだったが……」
エヴァの返事を聞いて、ラモンはぱたぱたと手を振る。
「こんなところで買うもんじゃないですよ。ここで売ってるのはクルマとは名ばかりの、ただの鉄クズですもん。と言うか、この街でまともなものは市場には出回ってないです」
「やはりそうだろうな……うん?」
ラモンの言葉に引っかかるものを感じ、エヴァは突っ込んでみる。
「市場には、と言うのは?」
「軍の非正規部隊とか犯罪組織とかのアジトが、この難民特区のあっちこっちにゴロゴロあるんですよ。その辺りなら多少はまともなものが揃ってます」
「そうなのか? てっきりどこの国からも見放された土地、と思っていたが……」
「『人』を手に入れるにはめちゃくちゃ都合のいい場所ですからね。ある日突然10人、20人消えたって誰も何とも思わないですし、通報とか逮捕とかもありませんからね」
「ゾッとする話だな」
「……あ、そうか」
と、ラモンがニヤッとズル賢そうな笑みを浮かべる。
「エヴァさんって元特殊部隊の人ですよね?」
「うん? ああ、まあな」
「モノは相談なんですけどね」
そう前置きし、ラモンは付いてくるようエヴァに促した。
市場を離れ、荒れた往来を歩きながら、ラモンは話を切り出した。
「さっき言った非正規部隊の拠点がこの近くにあるんです。あの白猫党のとこですね。南側の方です」
「白猫党だと?」
「ま、そんな看板があったり本人たちがそう言ってたりってことは無いんですけども、僕もあっちこっち危険なとこを行き来してる身ですから、兵装を見ればピンと来るんですよ」
「ほう……」
「で、で、その白猫党の非正規部隊っぽいのが拠点を構えてて、で、色々備蓄してるんですよ。クルマもきっとあります」
「まさか……それを襲えと言うのか?」
尋ねたエヴァに、ラモンはにっこり笑って親指を立てる。
「正解、その通りです! いやー、実はここまで乗ってきたあのバス、いよいよ使い物にならなくなってきちゃいまして。修理用に部品取りできるクルマが無いかって市場を見て回ってたとこだったんですが、もしエヴァさんがクルマを調達してくれたら、いっそそっちの方が手っ取り早いなーって。あ、用事があるなら一回くらいは僕が送迎しますし」
「いや、しかし、縁もゆかりもない相手を襲うわけには……」
渋るエヴァに、ラモンはこう返す。
「ここじゃ日常茶飯事ですって。それに今まで散々縁もゆかりもない人たち襲ってきたんでしょ? もう一回くらいやった、って……あー……」
エヴァにテーザー銃を突き付けられ、ラモンはようやく黙る。
「それ以上ふざけたことを言うなら、話はここまでだ」
「すいません」
両手を挙げ、謝罪するが、それでもなおラモンは食い下がる。
「でも実際問題、他に手段無いじゃないですか。それとも他にクルマ手に入れるアテがあったりするんです? って言うかそもそもクルマ買えるおカネ、エヴァさん持ってるんですか?」
「それは……」
「綺麗事言って我慢できるような余裕、無いでしょ? 汚いことでも今はやらなきゃ、どうしようもないんですってば」
「むぐぐぐ……」
エヴァはテーザー銃を構えたまま逡巡していたが、やがて折れた。
「……仮にだ。仮に私たちがその拠点を通りがかって、何かしら犯罪の証拠、あるいは犯罪準備の証拠を見つけたとしたら、その時はだ、その時は、人道上、道義上でだな、適切な対応をしてもよい、はず、だ」
「つまり『因縁付けられそうなとこがあったら襲っちゃっても問題無いよね』って言いたいんですね?」
「は、はっきり言うな!」
「言い訳はその辺でいいですから――つまりやってくれるんですね?」
「……やるしかあるまい。……ただ、……本当に何もやましいところが無い連中だったら、流石に襲わないぞ」
「本当にやましいところが一欠片も無かったとしたら、それでいいですよ。じゃ決まりですね」
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無法地帯の儲け話。
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「どうしたんですか、こんなところで? ……あ、そんなに警戒しないでいいです」
ラモンはそう続け、腰のテーザー銃――結局あの晩に鹵獲した後、ずっと携行していた――に手を伸ばしたエヴァに落ち着くよう促す。
「アルトさんならもうこの街にいません」
「そうなのか?」
「なんか結構大きい仕事頼まれたらしいです。書き置きだけ残ってました」
「……随分あっさりしたものだな」
「僕とアルトさんの関係なんてそんなもんですよ。仕事で僕の手を借りたいって時だけ、連絡が来るくらいの。……それに分かるでしょ? あの人、結構めんどくさい人なんですよ」
「それは分かるな」
「あの人と一緒にいられるのなんて、1週間か2週間がギリギリ限界です。それ以上は僕も無理です。……って、そんなことよりエヴァさん、こんなところで何してるんですか? クルマ買おうとしてるんですか、もしかして」
「そのつもりだったが……」
エヴァの返事を聞いて、ラモンはぱたぱたと手を振る。
「こんなところで買うもんじゃないですよ。ここで売ってるのはクルマとは名ばかりの、ただの鉄クズですもん。と言うか、この街でまともなものは市場には出回ってないです」
「やはりそうだろうな……うん?」
ラモンの言葉に引っかかるものを感じ、エヴァは突っ込んでみる。
「市場には、と言うのは?」
「軍の非正規部隊とか犯罪組織とかのアジトが、この難民特区のあっちこっちにゴロゴロあるんですよ。その辺りなら多少はまともなものが揃ってます」
「そうなのか? てっきりどこの国からも見放された土地、と思っていたが……」
「『人』を手に入れるにはめちゃくちゃ都合のいい場所ですからね。ある日突然10人、20人消えたって誰も何とも思わないですし、通報とか逮捕とかもありませんからね」
「ゾッとする話だな」
「……あ、そうか」
と、ラモンがニヤッとズル賢そうな笑みを浮かべる。
「エヴァさんって元特殊部隊の人ですよね?」
「うん? ああ、まあな」
「モノは相談なんですけどね」
そう前置きし、ラモンは付いてくるようエヴァに促した。
市場を離れ、荒れた往来を歩きながら、ラモンは話を切り出した。
「さっき言った非正規部隊の拠点がこの近くにあるんです。あの白猫党のとこですね。南側の方です」
「白猫党だと?」
「ま、そんな看板があったり本人たちがそう言ってたりってことは無いんですけども、僕もあっちこっち危険なとこを行き来してる身ですから、兵装を見ればピンと来るんですよ」
「ほう……」
「で、で、その白猫党の非正規部隊っぽいのが拠点を構えてて、で、色々備蓄してるんですよ。クルマもきっとあります」
「まさか……それを襲えと言うのか?」
尋ねたエヴァに、ラモンはにっこり笑って親指を立てる。
「正解、その通りです! いやー、実はここまで乗ってきたあのバス、いよいよ使い物にならなくなってきちゃいまして。修理用に部品取りできるクルマが無いかって市場を見て回ってたとこだったんですが、もしエヴァさんがクルマを調達してくれたら、いっそそっちの方が手っ取り早いなーって。あ、用事があるなら一回くらいは僕が送迎しますし」
「いや、しかし、縁もゆかりもない相手を襲うわけには……」
渋るエヴァに、ラモンはこう返す。
「ここじゃ日常茶飯事ですって。それに今まで散々縁もゆかりもない人たち襲ってきたんでしょ? もう一回くらいやった、って……あー……」
エヴァにテーザー銃を突き付けられ、ラモンはようやく黙る。
「それ以上ふざけたことを言うなら、話はここまでだ」
「すいません」
両手を挙げ、謝罪するが、それでもなおラモンは食い下がる。
「でも実際問題、他に手段無いじゃないですか。それとも他にクルマ手に入れるアテがあったりするんです? って言うかそもそもクルマ買えるおカネ、エヴァさん持ってるんですか?」
「それは……」
「綺麗事言って我慢できるような余裕、無いでしょ? 汚いことでも今はやらなきゃ、どうしようもないんですってば」
「むぐぐぐ……」
エヴァはテーザー銃を構えたまま逡巡していたが、やがて折れた。
「……仮にだ。仮に私たちがその拠点を通りがかって、何かしら犯罪の証拠、あるいは犯罪準備の証拠を見つけたとしたら、その時はだ、その時は、人道上、道義上でだな、適切な対応をしてもよい、はず、だ」
「つまり『因縁付けられそうなとこがあったら襲っちゃっても問題無いよね』って言いたいんですね?」
「は、はっきり言うな!」
「言い訳はその辺でいいですから――つまりやってくれるんですね?」
「……やるしかあるまい。……ただ、……本当に何もやましいところが無い連中だったら、流石に襲わないぞ」
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