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    「双月千年世界 5;緑綺星」
    緑綺星 第2部

    緑綺星・宿命譚 2

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    シュウの話、第70話。
    祖父の後悔。

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    2.
     アドラー屋敷も相当攻撃を受けたらしく、既に半壊していた。
    (流れ弾が当たったと言う感じじゃない。間違いなく攻撃目標にされた感じだ。……いや、相手のトップがリベロなんだ。ここを襲わないわけが無い)
     崩れ落ちた箇所から中へ入り、用心深く廊下を進む。
    (騎士団本部を最初に襲い、そして陥落させたとして、祖父が簡単に投降するとは思えない。隙を見て脱出し第二の拠点、即ちこの屋敷に逃げ込んで態勢の立て直しを図る。アドラー家の一員たる私ならそう考えるし、リベロも同じ考えに至ったのだろう。そして追撃し……その結果がこれだ)
     既にARRDKは引き上げたらしく、屋敷の中に人の気配は無い。エヴァは地下への階段を下り、金属製の扉の前で立ち止まる。
    (有事の際に使われるアドラー家専用シェルター……やはりここは無事か。……いや)
     扉の認証装置を操作し、ロックを解除する。
    (リベロなら開けられるだろう。と言うよりもあいつは一時、ここの住人だったんだからな)
     だが扉を開け、中の様子を確認したところで、エヴァは首をかしげた。
    (……? 大勢で押し入ったような様子が無いな。硝煙の臭いもしない。破らなかったのか?)
     警戒しつつ奥へと進み、ほどなくエヴァは、変わり果てた姿の祖父と再会した。
    「……死んでいるな」
     ジョゼの服は血で染まっており、手には弾を撃ち尽くした拳銃が握られている。
    (ARRDKの包囲から抜け出し、最後の意地でここまでたどり着きはしたが、……と言うところか。……うん?)
     と、遺体が寄りかかっていた木箱の上に手帳が置かれているのに気付く。
    (状況からして、祖父が遺したものだろう)
     エヴァは小銃を傍らに置き、手帳を手に取った。
    (当たり前だが、昨日時点までは整然と文字が並んでいる。……トッドレールの言っていたことの裏が取れてしまったな)
     手帳には騎士団の活動のすべてが、事細かに記されていた。
    (近隣諸国へのスパイ活動……国境辺縁での難民排除計画……『すべて順調。問題なし』だと? 何が問題なしだ、この人でなし!)
     ページをめくる手に次第に力がこもり、やがてエヴァは手帳を木箱に叩きつけた。
    「この……この、このっ、この……!」
     罵倒の言葉は頭の中にいくつも浮かんできてはいたが――それを肉親へ浴びせるのは流石に良心がとがめたため――どうしても口に出せず、代わりに木箱を蹴って苛立ちを抑えようとしたが――。
    (……?)
     木箱に叩きつけられた手帳の、最後のページに、何かが書かれていることに気付き、エヴァの足が止まる。もう一度手帳を手に取り、そのページを確かめた。



    「リベロの反乱 そして エヴァのMIA どちらも私が 軍人や政治家としてではなく アドラー家として成すべきことを成さず 私欲 いや、国家の欲 強欲のために 騎士団の歪みを糺さず 見て見ぬふりをしたがために 起こるべくして起こったこと
     真にアドラー家の一族 誇り高きダークナイトであるならば 正義のために動くべきだったのだ いつの頃からアドラー家は堕したのだろう 私の代で変えることはできなかったのか 変えることができなかった
     結局は 私もまた 誤った歴史を築き 悪と強欲に加担してしまったのだ

     私は 己の弱さを恥じる」




     手帳を読む手が――今度は怒りのためではなく、激しい動揺のために――震えていた。
    (これは……どう言うことだ? 祖父は……悔いていたと言うのか?)
     手帳を閉じ、もう一度祖父の亡骸を見る。
    (……分からないでも、ない。アドラー家は先祖代々の軍人の家系、大きな期待と羨望を寄せられてきたのだ。その期待に応えるためには、国家に並々ならぬ貢献をせねばならなかった。……その過程で少しずつ、正義の道を外れていったのだろう。それがいつの頃からなのか、それは分からないが、少なくとも剛毅な祖父が容易に変えられぬほど、長く続いていたのだろう。
     その苦悩がどれほどか、……私には到底計り知れないが、それでも、祖父の正義に寄り添いたかったその気持ち、その無念だけは、理解できる。……それなのに今、リベロが悪事を働こうとしている。曲がりなりにも平和であったこの国をめちゃくちゃな理屈で脅かし、破壊しようとしているのだ。何としても止めなければならない)
     エヴァは手帳を懐にしまい、小銃を背負って、屋敷を後にした。
    (私が止めてみせる。私こそが――最後のダークナイトなのだから)
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