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    「双月千年世界 5;緑綺星」
    緑綺星 第2部

    緑綺星・宿命譚 3

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    シュウの話、第71話。
    嘘と偽装と。

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    3.
     エヴァが大統領官邸に到着した時点で、既に太陽は西へ傾き、夕暮れが迫りつつあった。
    (今朝方、電撃的に襲撃したのだから、相手はおしなべて疲労しているだろう。注意力も落ち込んでいるはずだ。薄暮時の今なら私の行動を捕捉し、即応することは難しいだろう)
     物陰から敵の様子を確認したところ、エヴァの予想通り、誰も彼も憔悴した表情でぼんやり座り込んだり、突っ立ったままでいたりしている。
    (リベロ一人倒せば全てが終わるわけじゃないだろう。少しずつでも無力化しておいて損は無い)
     2、3人で固まっていた相手が、一人、また一人と、場を離れていく。
    (用を足しに行ったか、食料の調達か……。まあいい、好都合だ)
     たった一人残ったところで、エヴァはそっとその一人の背後に忍び寄り、首に腕を回す。
    「がっ!?」
     10秒も絶たない内に気絶した相手を素早く縛り、近くのロッカーに放り込む。
    「ん?」
     と、その様子を別の人間に目撃されたが――。
    「あばばばばば……」
     すかさずテーザー銃を撃ち込み、気絶させる。
    「なんかバチバチって聞こえなかったか?」
    「こっちからだよな。……ん!?」
     さらに敵が現れたが、これもすぐに飛びかかり、瞬く間に昏倒させる。1分も経たない内に4人、5人と倒し、エヴァはあっさり周辺を制圧してしまった。が――そのことに、エヴァは疑問を抱いていた。
    (妙だな……? いくらなんでも柔(やわ)すぎる。
     私は自分の実力を正しく知っている。並の人間が相手なら十把一絡げに叩きのめしてしまえるくらいの実力はある、……と、過不足無く把握している。だが相手は一国を陥落せしめんとするテロリストたちだぞ? そこいらの一般市民と変わらん腕前であるはずが無い。まともな兵士とまともに戦えば、私だって普通に苦戦する。騎士団が相手であったら流石に五分以下。私が勝てる保証は無い。
     同じ軍人、兵士であれば――それが非正規の軍隊であろうと――相応に苦戦してしかるべきだ。だがこいつらは、あまりにも歯ごたえが無さすぎる。正直、一般人が小銃を持たされているのと、大して変わらない。しかし、こいつらが首都を陥落させた連中であることは明らかだ。
     一体こいつらは何者なんだ……?)
     ともかく気絶させた敵を片っ端から縛り上げ、相応の安全を確保した上で、エヴァは官邸の中心である大統領執務室に向かった。

     エヴァは執務室のドアに狼耳を当て、中の様子を探る。
    (……? 足音も息遣いも無い? 物音らしい物音は、何一つ聞こえてこない。誰もいないのか?)
     人気が無いことを確認したが、それでも警戒を緩めず、恐る恐るドアを開ける。
    (罠も仕掛けられていない。……まあ、執務室などと言ってみてもただの部屋だからな。他に拠点を構えている可能性もあるか)
     中へ入り、部屋の中を見回し、やはり誰もいないことを確認する。
    (……ハズレだな。とするとリベロは一体どこに?)
     その時だった。
    《やあ。君は誰かな?》
     どこかから突然声が飛び、エヴァは小銃を構えて振り返る。そこにはいつの間にか、狼耳の男が立っていた。いや――。
    「リベロ!? ……じゃない!」
    《へえ?》
     リベロを模したらしきその人形は、無表情でおどけた動作を見せる。
    《君の顔は見た覚えがある。ちょうど昨日の夜中くらいに。そう、あの動画に出てた娘だ。君がエヴァンジェリンかい?》
    「そうだ。お前は誰だ?」
     銃口を向けるが、人形に動じた様子は無い。
    《僕かい? ここでは『リベロ・アドラー』役で出演している。……とは言え君は『こいつ』を、リベロとは呼びたくないだろうね》
     そう言って自分自身を指差した人形に、エヴァは小さくうなずく。
    「当たり前だ。本物のリベロは今どこにいる?」
    《うーん……そうだね……どう言ったらショックを受けないでもらえそうかな。いや、やっぱり率直に言った方がいいか。
     リベロ・アドラーはもうこの世にいない。3年前に死んでるよ》
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