「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第2部
緑綺星・宿命譚 4
シュウの話、第72話。
クーデターの真実。
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4.
人形から唐突な真実を告げられ、エヴァは面食らっていた。
「死んでいる!? 3年前にだと!?」
《ああ。アドラー家から逃げ出した後、彼は我々のところに身を寄せて……いや、これも率直に言おう。我々が身柄を拘束したんだ》
「白猫党か?」
エヴァのこの質問に、人形はようやく驚いた様子を見せた。
《へえ? 偽装したつもりだったけど、よく見破ったね》
「別の場所でお前たちの非正規部隊に遭遇した。そいつらが持っていた装備はそのまま、ここをうろついていたARRDKのものと同じものだった。ならばイコールで考えるのが道理だろう」
《ま、そりゃバレるよね。とは言えここで君一人にバレたところで、って感じかな。そうだ、バレてもいいやついで、自慢ついでに、もうちょっと話をしてあげるよ。リベロは逃げに逃げて白猫党領内にたどり着き、そして当然の結果として、我々白猫党に捕まった。そこで我々は彼を利用するべく、今回の計画を企てたのさ。
計画の全容はこうだ。白猫党領の領土拡大のため、そして将来的に新央北圏内へ侵攻することを見据えて、その両方に隣接する中立国であるリモード共和国を占領したい。しかし立案当初は我々もまだ、北側との戦闘が完全に収束する見込みが立ってなかったし、必要以上の戦闘も避けたい。何より軍事国家だからって自分の都合だけで無闇やたらに攻め込んだりなんかしたら、国際社会は絶対に容認してくれないし、四方八方から制裁を受けてしまう。だからその、国際社会を納得させられるだけの理由――『大義名分』が必要だった。
そこに現れたのがリベロだ。彼にはリモード共和国を恨んで復讐を企てるだけの理由がある。しかしその一方で、一人でどうにかできるだけの実力も才能も、行動力も無い。我々の傀儡(かいらい)に仕立てるには、これ以上無く絶好の存在だった。我々はリモード共和国に異を唱える体のテロ組織を作った。そう、ARRDKだ。そしてリベロをそのリーダーに据え、時期を待って襲撃する機会を伺う、……と言うのが当初の計画だった》
「『時期』だと? ……っ!」
人形の言葉に、エヴァは息を呑んだ。
《どうやらピンと来たみたいだね。そう、君が昨夜流したあの動画さ。しかも流したのが他ならぬアドラー家令嬢なんだから、都合がいいことこの上無い。いや、これも率直に言ってしまおうか。我々が、君にあの動画を流させるよう仕向けたんだ》
「じゃあ、昨夜の襲撃もやはり……!」
《その通り。難民特区に駐留させてた部隊を動かして、君に危険を感じさせたんだ。あのセーフエリアから大手の新聞社にすぐ連絡できるから、大方そっちの筋で広めてくれるだろうと思ってたけど、君自身が動画を流した。ま、その点はちょっと意外だったし、おかげで予定をかなり早めなきゃならなかったけど、結果的には問題無しさ》
「なぜ私が特区にいると?」
《白猫党領内で戦っていただろ? 無論、領内の監視は行き届いてるし、騎士団が難民狩りをしてたことも把握してる。とは言え我々にとっては領民が逃げ出すのを防止するのに一役買ってたから、いつもなら放っておくところだけど、あの晩は妙なことが起こった。騎士団のトラックが横転して、兎耳の男一人に全滅させられてた。しかもその内の一人が、兎耳の方に付いて行った。そこで残った3人を捕まえて尋問したところ、君の正体と、離隊した理由が分かった。
となればいずれ、君も行動を起こす。我々はそう予測して、君をずっと泳がせていたってわけさ》
「Rは……拘束した3人は生きてるのか?」
《生きてるよ。解放する気は今のところ無いけどね。
それよりリベロの話に戻ろう。我々の計画が気に入らなかったのか、あるいは我々の操り人形であることが嫌だったのか――リベロは自殺した。とは言えあんまり我々の計画には関係無かった。我々にとって必要なのは彼本人じゃなく、彼の名前だけだからね。
彼が死んだその事実を握るのは我々だけだし、だから生きてるってことにして、偽者を用意してごまかした。そうそう、ARRDKの人員も――もしかしたら気付いてるかも知れないけど――特区でさらって来た人間を洗脳して偽の記憶を植え付けた、ただの一般人だ。この計画は北との戦闘ほど重要じゃないし、あまりコストをかけたくなかったからね。
そして――こっちの方がもっと重要だけど――『こいつ』の実地試験もやっておきたかった》
その言葉と同時に、人形からにょきにょきと、金属むき出しの腕が何本も伸びる。
《次世代型戦闘用ドローン『スケープドール714』、通称SD714だ。首都を陥落させたのも、正規軍と騎士団を壊滅させたのも、こいつの戦果さ。
ところでエヴァンジェリン、君は映画を観る方かい? それならこうして得意になって色んな秘密をしゃべった後、そいつがどう言う行動を取るかも分かるよね?》
腕にそれぞれ重火器が搭載されていることを確認した瞬間、エヴァは危険を察知し、その場から飛び退いた。
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クーデターの真実。
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人形から唐突な真実を告げられ、エヴァは面食らっていた。
「死んでいる!? 3年前にだと!?」
《ああ。アドラー家から逃げ出した後、彼は我々のところに身を寄せて……いや、これも率直に言おう。我々が身柄を拘束したんだ》
「白猫党か?」
エヴァのこの質問に、人形はようやく驚いた様子を見せた。
《へえ? 偽装したつもりだったけど、よく見破ったね》
「別の場所でお前たちの非正規部隊に遭遇した。そいつらが持っていた装備はそのまま、ここをうろついていたARRDKのものと同じものだった。ならばイコールで考えるのが道理だろう」
《ま、そりゃバレるよね。とは言えここで君一人にバレたところで、って感じかな。そうだ、バレてもいいやついで、自慢ついでに、もうちょっと話をしてあげるよ。リベロは逃げに逃げて白猫党領内にたどり着き、そして当然の結果として、我々白猫党に捕まった。そこで我々は彼を利用するべく、今回の計画を企てたのさ。
計画の全容はこうだ。白猫党領の領土拡大のため、そして将来的に新央北圏内へ侵攻することを見据えて、その両方に隣接する中立国であるリモード共和国を占領したい。しかし立案当初は我々もまだ、北側との戦闘が完全に収束する見込みが立ってなかったし、必要以上の戦闘も避けたい。何より軍事国家だからって自分の都合だけで無闇やたらに攻め込んだりなんかしたら、国際社会は絶対に容認してくれないし、四方八方から制裁を受けてしまう。だからその、国際社会を納得させられるだけの理由――『大義名分』が必要だった。
そこに現れたのがリベロだ。彼にはリモード共和国を恨んで復讐を企てるだけの理由がある。しかしその一方で、一人でどうにかできるだけの実力も才能も、行動力も無い。我々の傀儡(かいらい)に仕立てるには、これ以上無く絶好の存在だった。我々はリモード共和国に異を唱える体のテロ組織を作った。そう、ARRDKだ。そしてリベロをそのリーダーに据え、時期を待って襲撃する機会を伺う、……と言うのが当初の計画だった》
「『時期』だと? ……っ!」
人形の言葉に、エヴァは息を呑んだ。
《どうやらピンと来たみたいだね。そう、君が昨夜流したあの動画さ。しかも流したのが他ならぬアドラー家令嬢なんだから、都合がいいことこの上無い。いや、これも率直に言ってしまおうか。我々が、君にあの動画を流させるよう仕向けたんだ》
「じゃあ、昨夜の襲撃もやはり……!」
《その通り。難民特区に駐留させてた部隊を動かして、君に危険を感じさせたんだ。あのセーフエリアから大手の新聞社にすぐ連絡できるから、大方そっちの筋で広めてくれるだろうと思ってたけど、君自身が動画を流した。ま、その点はちょっと意外だったし、おかげで予定をかなり早めなきゃならなかったけど、結果的には問題無しさ》
「なぜ私が特区にいると?」
《白猫党領内で戦っていただろ? 無論、領内の監視は行き届いてるし、騎士団が難民狩りをしてたことも把握してる。とは言え我々にとっては領民が逃げ出すのを防止するのに一役買ってたから、いつもなら放っておくところだけど、あの晩は妙なことが起こった。騎士団のトラックが横転して、兎耳の男一人に全滅させられてた。しかもその内の一人が、兎耳の方に付いて行った。そこで残った3人を捕まえて尋問したところ、君の正体と、離隊した理由が分かった。
となればいずれ、君も行動を起こす。我々はそう予測して、君をずっと泳がせていたってわけさ》
「Rは……拘束した3人は生きてるのか?」
《生きてるよ。解放する気は今のところ無いけどね。
それよりリベロの話に戻ろう。我々の計画が気に入らなかったのか、あるいは我々の操り人形であることが嫌だったのか――リベロは自殺した。とは言えあんまり我々の計画には関係無かった。我々にとって必要なのは彼本人じゃなく、彼の名前だけだからね。
彼が死んだその事実を握るのは我々だけだし、だから生きてるってことにして、偽者を用意してごまかした。そうそう、ARRDKの人員も――もしかしたら気付いてるかも知れないけど――特区でさらって来た人間を洗脳して偽の記憶を植え付けた、ただの一般人だ。この計画は北との戦闘ほど重要じゃないし、あまりコストをかけたくなかったからね。
そして――こっちの方がもっと重要だけど――『こいつ』の実地試験もやっておきたかった》
その言葉と同時に、人形からにょきにょきと、金属むき出しの腕が何本も伸びる。
《次世代型戦闘用ドローン『スケープドール714』、通称SD714だ。首都を陥落させたのも、正規軍と騎士団を壊滅させたのも、こいつの戦果さ。
ところでエヴァンジェリン、君は映画を観る方かい? それならこうして得意になって色んな秘密をしゃべった後、そいつがどう言う行動を取るかも分かるよね?》
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