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    「双月千年世界 5;緑綺星」
    緑綺星 第2部

    緑綺星・宿命譚 5

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    シュウの話、第73話。
    次世代型戦闘兵器・SD714。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     一瞬前までエヴァが立っていた場所に無数の弾痕が刻まれ、その背後にあった執務机は木っ端微塵に破壊される。
    (回転連射砲にグレネード砲2門――一瞬でも気を抜けば、私もあの机同様に細切れにされる!)
     エヴァはSD714の集中砲火から逃げるため、側面に回り込もうとする。だがSD714は頭部をぐるんと動かし、エヴァを追尾する。
    《無駄だよ。人間の性能でこいつを上回ることは不可能だ》
     腕が一斉にエヴァを向き、起動音を立てる。
    (まずい!)
     反射的に小銃を向け、頭部――ではなく、その後ろの腕を狙って引き金を絞る。放たれた弾はグレネード砲内の、今まさに放たれようとしていたグレネードの弾頭に当たり、暴発させた。
    《うわっ!? ……あ、……あれ? 参ったな、背部攻撃システムが全部ダウンしちゃった。やるなぁ、エヴァンジェリン・アドラー。……でもまだだ。こいつの力はまだ、こんなもんじゃないよ》
     SD714の折れた腕ががちゃ、がちゃんと落とされ、別のところから腕が伸びる。その一瞬の間を突いて、エヴァは執務室から飛び出した。
    (今のは運が良かったが、あんな芸当が二度も三度もできるわけがない。正面から戦うのは愚策だ。何か方法を考えなければ……!)
     廊下を見渡し、他に敵がいないことを確認しつつ、エヴァはSD714から距離を取るべく走り出す。
    《どこまで逃げても無駄だよ》
     豪快な音を立て、執務室のドアが吹き飛ぶ。そこからSD714が飛び出し、猛然とエヴァの後を追って来る。
    「くっ……!」
     エヴァも近くの部屋のドアを蹴破り、中へと転がり込む。
    《君の動きは各種センサーとハックした官邸内の監視カメラで、ばっちり捕捉できてる。どう逃げようと、君の運命はもう決まってるんだよ》
     エヴァは背負っていたバッグから急いで予備の武器を取り出しながら、対策を練る。
    (手持ちの武器であれを破壊するのは不可能だろう。それでどうにかなるなら、共和国の兵士や騎士団員が倒せているはずだからな。
     しかし……どうやって倒す? 倒さなければ、私が生きてここを出ることも、祖父の無念を晴らすことも叶わない。当然、白猫党がここを襲ったことを公表し、奴らの不義非道を明るみに出すこともできない。何としてでも生き延びなければ……!)
     と、機械音が次第に近付いて来る。
    《やあ、エヴァンジェリン。かくれんぼはおしまいにしようよ》
     急いでバッグをひっくり返し、中から手榴弾を一つ残らず取り出す。
    (下手すれば巻き添えだが……この策しか無い!)
     SD714が壁ごとドアを壊し、部屋の中に入って来ると同時に、エヴァは手榴弾を部屋中に撒き、窓へ向かって駆け出した。
    《おいおい、まだ遊ぶのかい? 僕はもう飽き飽きだ……》
     窓から飛び出すと同時に手榴弾が一斉に爆発し――大統領官邸の一角が、SD714ごと崩れ落ちた。

    「……ふー……」
     エヴァは小銃を構え、自分が飛び出した部屋があった方角をにらみつけていたが、粉塵が収まった辺りで、ようやく構えを解いた。
    (どうにか危機は回避できたらしい。……一国も早く、共和国から脱出しなければな。できれば奴らが侵攻した証拠を集めたいところだが……)
     辺りを見回し、エヴァはため息をつく。
    (あのドローンの中の奴の話じゃ、やって来た兵士はみんな難民を洗脳しただけの木偶の坊。捕まえて尋問したところで、何の情報も持っていないだろう。周りのコンテナに入ってる武器もどうせ、刻印も製造番号も無いゴースト品だろう。……私が持って来た武器もそうだったからな。
     仕方無い。証拠集めは諦めて、脱出の方法を考えるとするか。どの道、相手もリベロだと言い張ってた人形が、ああしてスクラップになったんじゃ……)
     そこまで考えて――エヴァの背筋がぞくりと凍った。
    (……リベロの……『人形』? と言うことは……まさか)
    《ひどいことをしてくれたね、エヴァンジェリン》
     大型コンテナの扉が開き、中から声が聞こえてくる。
    《あれ一機作るのにいくらかかるか知ってるのかい? 半端な戦車より高く付く代物なんだよ? とは言え量産体制はもう整えてるから、今はもうちょっと安く済むんだけどね》
     がしゃん、がしゃんといくつもの足音を立てて、コンテナの中からぞろぞろとSD714の集団が現れる。
    「うっ……!」
    《ちなみに今回リモード共和国に持って来てるSD714は、全部で60機だ。いや、君に1機壊されちゃったから、正確には59機か。どうする、エヴァンジェリン? まだ遊ぶかい?》
     大統領官邸の正門の向こうからも、機械の足音が聞こえて来る。
    《それとももうやめにする? それならリセットボタンは自分で押してくれよ。こっちも弾がもったいないからね。
     さあ……どうする、エヴァンジェリン?》
    「くっ……」
     迫って来るSD714との距離を保ちつつも、エヴァにはもう、打開策が浮かばなかった。
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