「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第2部
緑綺星・宿命譚 6
シュウの話、第74話。
ミッション・インコンプリート。
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6.
その時だった。
《……さん! エヴァさん! 聞こえ……すか!?》
まだ耳に付けたままだった通信機から、とぎれとぎれにラモンの声が聞こえてきた。
《急い……陰に隠……て! 航……支援し……す!》
「……!」
エヴァは小銃を捨て、ばっと身を翻す。
《おいおい、まだやる気なの?》
一方、エヴァとラモンのやり取りに気付いていないらしいSD714は、続々と大統領官邸に進入してくる。
(59機……コンテナから10ずつ……4つ……40……裏手……確かコンテナが1つ……多分あれで全部……今だ!)
エヴァは官邸の生垣を突っ切り、大通りへ転がりながら、通信機に怒鳴った。
「ラモン! 撃て! 官邸の庭だ!」
《了解!》
次の瞬間、どこかから風切り音が鳴る。そしてSD714が今まさに包囲しようとしていた前庭にミサイルが着弾し――SD714たちはあっけなく吹き飛ばされた。
「うわ……っ」
きれいに整えられていた生垣も爆炎とがれきで消し飛び、地面に倒れ伏していたエヴァに大量の粉塵と焼けた枝葉が降りかかる。
「げほ、げほっ……、くそ……体中が……痛いな……耳もだ……」
がらん、とエヴァの前に、リベロを模したSD714の頭が転がってくる。
「……チッ」
白猫党に対する忌々しい気持ちも、兄と祖父に対する憐憫の情も――そして自分の過去の過ちに対する忸怩たる思いも込めて、エヴァはその頭部を蹴っ飛ばした。
「ラモン、今どこにいる? 急な計画変更ですまないが、来れたら迎えに来てほしい」
《そう言うと思って、今そっちに向かってます。って言うか、でなきゃヘリで航空支援なんかできないでしょ?》
「悪いな、助かる。ランディングゾーン(ヘリの着陸指定地点)は君が今、ミサイルを撃ち込んだ官邸前庭だ」
《大丈夫です? 敵が集まって来るんじゃ……》
「その点は心配いらない。敵自ら得意げにあのガラクタどもの総数を教えてくれた上、その全機が前庭に集まって来ていたのを確認している。歩兵戦力についても全員ただのエキストラ役者でしかないと、ご丁寧に教えてもらったよ。であれば地対空攻撃なんか用意しているわけが無い。仮に用意していたとしても、偽者兵士じゃ使い方も分からんだろう」
《了解です。30秒で向かいます》
「頼んだ」
まもなく北東から、ヘリのローター音が聞こえてくる。到着までのわずかな時間、エヴァはあちこちで黒煙が上がる、自分が生まれ育った街の大通りを見回し、ため息をついた。
(ARRDKは撃破したが、白猫党が背後にいるとなればバックアップ策も講じているだろう。私一人じゃ、共和国の奪還は不可能だ。
だが、私の誇りにかけて誓おう。この国はきっといつか、必ず――私が救ってみせると)
《まもなく到着です》
ラモンの声とともに、ヘリが降りてくる。エヴァは焦土と化した前庭に戻り、ヘリに乗り込んだ。
ヘリはリモード共和国を離れ、南へと向かう。
「どこへ向かっている?」
「……考えてないです」
ラモンは肩をすくめ、困った顔を向けた。
「特区に戻ると確実に白猫党に追い回されるでしょうから、反対方向に向かってるだけなんです」
「所属不明機でトラス王国や他の先進国に乗り込めば、問答無用で撃ち落とされるだろうからな。なおさら東方面には向かえない」
「そもそもヘリを売りさばくルートなんて知らないですし、どこに持って行けばいいやらですよ」
「さて、どうするか……」
やがてウォールロック山脈が眼前に現れ、二人はぼんやりとその稜線を眺めていた。と――。
「……何か鳴ってないか?」
「え? ……あ、僕のスマホです」
ラモンは操縦桿を握りながらポケットを探り、スマホを取り出す。
「げ」
画面に視線を落とした途端に顔をしかめたラモンを見て、エヴァはその相手が誰であるかを察した。
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6.
その時だった。
《……さん! エヴァさん! 聞こえ……すか!?》
まだ耳に付けたままだった通信機から、とぎれとぎれにラモンの声が聞こえてきた。
《急い……陰に隠……て! 航……支援し……す!》
「……!」
エヴァは小銃を捨て、ばっと身を翻す。
《おいおい、まだやる気なの?》
一方、エヴァとラモンのやり取りに気付いていないらしいSD714は、続々と大統領官邸に進入してくる。
(59機……コンテナから10ずつ……4つ……40……裏手……確かコンテナが1つ……多分あれで全部……今だ!)
エヴァは官邸の生垣を突っ切り、大通りへ転がりながら、通信機に怒鳴った。
「ラモン! 撃て! 官邸の庭だ!」
《了解!》
次の瞬間、どこかから風切り音が鳴る。そしてSD714が今まさに包囲しようとしていた前庭にミサイルが着弾し――SD714たちはあっけなく吹き飛ばされた。
「うわ……っ」
きれいに整えられていた生垣も爆炎とがれきで消し飛び、地面に倒れ伏していたエヴァに大量の粉塵と焼けた枝葉が降りかかる。
「げほ、げほっ……、くそ……体中が……痛いな……耳もだ……」
がらん、とエヴァの前に、リベロを模したSD714の頭が転がってくる。
「……チッ」
白猫党に対する忌々しい気持ちも、兄と祖父に対する憐憫の情も――そして自分の過去の過ちに対する忸怩たる思いも込めて、エヴァはその頭部を蹴っ飛ばした。
「ラモン、今どこにいる? 急な計画変更ですまないが、来れたら迎えに来てほしい」
《そう言うと思って、今そっちに向かってます。って言うか、でなきゃヘリで航空支援なんかできないでしょ?》
「悪いな、助かる。ランディングゾーン(ヘリの着陸指定地点)は君が今、ミサイルを撃ち込んだ官邸前庭だ」
《大丈夫です? 敵が集まって来るんじゃ……》
「その点は心配いらない。敵自ら得意げにあのガラクタどもの総数を教えてくれた上、その全機が前庭に集まって来ていたのを確認している。歩兵戦力についても全員ただのエキストラ役者でしかないと、ご丁寧に教えてもらったよ。であれば地対空攻撃なんか用意しているわけが無い。仮に用意していたとしても、偽者兵士じゃ使い方も分からんだろう」
《了解です。30秒で向かいます》
「頼んだ」
まもなく北東から、ヘリのローター音が聞こえてくる。到着までのわずかな時間、エヴァはあちこちで黒煙が上がる、自分が生まれ育った街の大通りを見回し、ため息をついた。
(ARRDKは撃破したが、白猫党が背後にいるとなればバックアップ策も講じているだろう。私一人じゃ、共和国の奪還は不可能だ。
だが、私の誇りにかけて誓おう。この国はきっといつか、必ず――私が救ってみせると)
《まもなく到着です》
ラモンの声とともに、ヘリが降りてくる。エヴァは焦土と化した前庭に戻り、ヘリに乗り込んだ。
ヘリはリモード共和国を離れ、南へと向かう。
「どこへ向かっている?」
「……考えてないです」
ラモンは肩をすくめ、困った顔を向けた。
「特区に戻ると確実に白猫党に追い回されるでしょうから、反対方向に向かってるだけなんです」
「所属不明機でトラス王国や他の先進国に乗り込めば、問答無用で撃ち落とされるだろうからな。なおさら東方面には向かえない」
「そもそもヘリを売りさばくルートなんて知らないですし、どこに持って行けばいいやらですよ」
「さて、どうするか……」
やがてウォールロック山脈が眼前に現れ、二人はぼんやりとその稜線を眺めていた。と――。
「……何か鳴ってないか?」
「え? ……あ、僕のスマホです」
ラモンは操縦桿を握りながらポケットを探り、スマホを取り出す。
「げ」
画面に視線を落とした途端に顔をしかめたラモンを見て、エヴァはその相手が誰であるかを察した。
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