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    「双月千年世界 5;緑綺星」
    緑綺星 第2部

    緑綺星・宿命譚 7

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    シュウの話、第75話。
    ラスト・ダークナイト;その宿命のために。

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    7.
    「トッドレールか?」
    「です。……もしもーし」
     電話に出た途端、あのキンキンとしたアルトの声がコクピット内に響き渡った。
    《もしもーしじゃねえよ、お前さんよぉ? なんだって白猫党のヘリなんざ奪ってやがんだ? 特区じゃ大騒ぎだぜ、『キジトラ猫獣人と真っ黒な狼獣人の二人がアジト襲った』っつって、血眼で探し回ってんぞ。俺らの寝床も引っかき回されてるしよぉ》
    「あ、えーと、そのー……」「トッドレール」
     エヴァはラモンのスマホを奪い、会話に割り込む。
    「あんた、ヘリの横流しはできるか? ヘリの売却代金は私とラモンとあんたで三等分だ。その上で150万コノンを、私の取り分から払う」
    《ああん? その声……もしかしてエヴァンジェリンか? まさかお前さんがラモンそそのかしたんじゃねえだろうな?》
    「答えろ。できるのか? できないのか?」
    《ソレが人にモノ頼む態度かよ? まあいい、ツテはある。だが特区にゃ持って来れねえやな。今ドコ飛んでんだ?》
    「えーと……ウォールロック山脈近くです。リモード共和国から南に100キロくらい」
    《じゃ、そのまま山越えろ。南側東沿いのふもとにロータスポンドって町がある。今から向こうの知り合いに電話してやっから、ソコで落ち合おうぜ》
    「助かる」
    《また後で連絡する。じゃあな》
     電話が切れ、コクピットに静寂が戻る。
    「なんか勝手に三等分されましたけど……まあ、元からタダでもらったようなもんですし、いいです、それでも」
    「悪いな」
    「じゃ、南に向かいます。ナビ頼みます」
    「ああ。ロータスポンドだったな。スマホこのまま借りるぞ」
    「どうぞ」
     スマホで付近の地図を確認しつつ、エヴァはぼそ、とつぶやいた。
    「これでとりあえず、活動資金は作れそうだな」
    「活動資金? 何のです?」
    「白猫党と戦うためのだ」
    「は?」
     ラモンの動揺が操縦桿に伝わり、ヘリがわずかに傾く。慌てた様子で戻しながら、ラモンがおうむ返しに尋ねた。
    「白猫党と戦うですって? 何言ってんですか?」
    「白猫党は私の故郷を襲い、兄と祖父を殺した相手だ。復讐するのは道理だろう? 何よりああまで卑怯千万な方法で侵略するような奴らを、許しておくわけには行かない。放っておけばさらなる非道を繰り返し、いずれ世界に害をなすだろうからな」
    「別にエヴァさんがやる必要無いじゃないですか」
     奇異なものを見るような目で、ラモンが顔を覗き込む。
    「この世界には悪い奴や嫌な奴なんて、そこら中にゴロゴロいるんですよ? どうしようもないクズだって、掃いて捨てるほどいます。そんなのを一々、たった一人で相手してたら、体が持ちませんよ。
     それに復讐だとか正義のためだとか、そんなことのために人生、使うもんじゃないです。誰もほめちゃくれないし、もちろんおカネにだってならないですし。正義の味方なんて、わざわざ現実でやる必要は無いですよ」
    「君はそうかも知れない。でも私には、それしか無い、それにしか、生きる意味が見出だせないんだ」
    「ほんっとにエヴァさんは、僕たちと違う世界を生きてる人なんですね」
     しばらく沈黙が流れ――そしてラモンもぽつぽつとした口調で、こうつぶやいた。
    「でも……まあ……カッコいいですよ。眩しい……生き方です」
    「ほめてくれてるのか?」
    「そのつもりです」
    「……ありがとう」
     そのままヘリは南へと進み――エヴァンジェリン・アドラーは央北を離れた。



     ほぼ同時刻、某所――。
    「ウソだろ……」
     真っ青になった画面を前にした彼の顔もまた、青ざめていた。冷汗を拭いながらキーボードを叩くが、何の反応も返って来ない。
    「SD714が……最新の戦闘ドローンが1機残らず全滅なんて……まさか……そんなバカな……」
     男はガタガタと椅子を鳴らし、立ち上がる。
    「これ……まずいよな。こんなのが上に知れたら、減給どころの話じゃないよ。下手したら処刑モノだ」
     男は机に置いていた財布やスマホをかき集め、その場から離れようとする。と――。
    「腕時計はいいの?」
    「へ? ……~っ!」
     振り返ったところで、机に置いていたはずの腕時計を鼻先に差し出され、男は硬直する。
    「か……かかか……閣下!?」
    「全て見ていた」
    「そ……そう……です……か」
    「被害額は90億クラムと言ったところ?」
    「う……」
     男はその場に座り込み、頭を床にこすりつけて謝った。
    「申し訳ありません! とんでもないことになってしまい、本当に、あの……」「構わない」「……え?」
     顔を上げたところで、閣下と呼ばれたその短耳はくる、と背を向ける。
    「SD計画とMPS計画のデータは十分取れたと言っていい。費用対効果は十分。リモード共和国も手中に収めた。今、新たなリベロ役を手配している。損害も補填の目処が立っている。今作戦は万事において問題無しと判断。あなたはまだ有用。処刑の必要無し。席に戻って。以上」
    「……はい、閣下」
     男が腕時計を受け取り、そろそろと席に戻ったところで、「閣下」は淡々とした口ぶりでこう続けた。
    「エヴァンジェリン・アドラー。彼女は我々の脅威足りうる。彼女を探し出し、抹殺しなければならない。情報があれば速やかに知らせること。以上」
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