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黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第5部

    蒼天剣・闘由録 7

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    晴奈の話、第280話。
    決着。

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    7.
    「なあ、フェリオ。二人とも、全然動きよらへんで。どないしたんやろ」
     フェリオと一緒に試合を観に来ていたシリンが、手にしたポップコーンを食べようともせず尋ねる。
    「さあ……? かなり長い時間闘ってるから、バテたんじゃないかな」
    「そんなもんかなぁ……?」
     フェリオはシリンが抱えているポップコーンに手を伸ばし、モグモグと食べる。
    「むぐ……、先生、勝てるかなぁ。勝ってほしいなぁ」
     シリンも思い出したように、握りしめていたポップコーンを口に運んだ。
    「せやなぁ。……姉やん、負けんなー」

     勿論、ピースとプレアも観戦している。
    「膠着状態か……。かなり長引いたけど、そろそろ決着の時だな」
    「そうなの?」
     ピースの膝の上に乗っていたプレアが、振り向いて尋ねる。
     ピースはプレアの頭をぽんと撫でながら、私見を述べた。
    「二人とも、全力で戦い続けたからね。もうほとんど、余力は残っていないはずだ。多分、後一回か二回、打ち込むのが精一杯だろう。
     逆に言えば、次の一撃で多分勝負は決まる。一回攻撃したら、防ぐにせよかわすにせよ、多分もう一度仕掛ける余裕は無いだろうから。
     だから二人とも、じっとしているんだよ」
    「ふうん」
     プレアはもう一度、リングに視線を落とす。
     と、また雷鳴が轟く。これまでより一際大きいその音に、多くの観客が一瞬空を見上げる。プレアも同様に空を見たが、ピースはリングに視線を向けたままだった。
    (この雷鳴が、二人の膠着状態を止めるかも知れない)
     ピースの予想は当たった。
     晴奈とロウは稲光で照らされたその瞬間、同時に飛びかかっていた。



     じっとにらみ合っていた二人の頭上が、激しく光る。そして間も無く、耳をつんざくような雷鳴が、闘技場全体に轟いた。
    「……うおおおおおッ!」「はあああああ……ッ!」
     二人は体力と気力を絞りきり、渾身の一撃を繰り出す。
     二人の周囲に注いでいた雨が、両者の気合いで弾け飛ぶ。上から下に流れ落ちていた雨が二人を中心として水平に、放射状に広がっていった。

     二人はこの時同時に、奇妙な感覚に襲われていた。
     ただの線にしか見えなかった雨粒が、一つの点としてゆっくりと目の前を滑っていくのが確かに見えた。
     ロウの振り上げた三節棍が一つ一つ雨粒を叩き、弾いていく。
     晴奈の抜き払った刀が下に落ちる雨粒を打ち、跳ね上げていく。
     二人の感覚は、非常にゆっくりと状況を見つめていた。

     その間中、晴奈は心の中で唱え続けていた。
    (打て! 打ち抜け! 打ち抜いてくれ、『大蛇』いいいッ!)
     晴奈は半ば懇願に近い、強い思いを刀に込めて薙いだ。
     何秒も、何十秒にも感じる一瞬の中で、「大蛇」と「雅龍」がぶつかり合うのが、晴奈の目にしっかりと映った。

     衝突した瞬間、非常に甲高い、鳥の鳴き声のような金属音が響き渡る。
     と、その鳴き声が一際、高く跳ね上がる。そしてうねるような余韻を残し、音が鳴りやんだ。
    (ふ、ふざけんな……ッ! オレの『雅龍』が……ッ!?)
     ロウは我が目を疑った。
    「雅龍」の棍と棍の間、つないでいた鎖に「大蛇」が絡まり、そのまま甲高い音を立てて千切れるのが見えたからだ。
     二つの神器がぶつかり合ったその時、晴奈の精神力が「大蛇」の限界を引き上げ、ロウの「雅龍」を上回ったのだ。

    「雅龍」を破った勢いのまま、晴奈は刀を振り抜いた。
    「ぐ、……ッ!」
     刀がロウの体に食い込む。その鋭い一撃は、ロウの右肋骨をゴリゴリと砕いていった。
     そのままロウは仰向けに倒れる。遅れてバラバラになった三節棍がカンと乾いた音を立ててリングに落ちた。
    (勝った……、か!?)
     晴奈は一歩引き、ロウの様子を警戒しつつ眺める。

     が――。
    (あ……っ?)
     がくっと、晴奈の足から力が抜けた。視界は既に、真っ暗になっている。
    (何が、起きた?)
     立っていられないほどのめまいに襲われ、晴奈は膝を着く。それと同時に、額がずきずきと痛み始める。
    (な、るほど……、懐かしい、痛み、だ)
     晴奈は何が起こったのか、ここでようやく理解した。千切れた「雅龍」の一片が、晴奈の額を打ち抜いていたのだ。
    (はは、はは……、なんとまあ、おかしい結末か)
     力を入れて立ち上がろうとするが、余計に力が抜けていく。
    (二度も、こんな形で、やられる、とは、な……)
     あっと言う間に、晴奈の意識は失われた。



     倒れた二人を見て、観客たちは騒然となる。
    「あ、あれ?」
    「二人とも、倒れたぞ?」
    「ひ、引き分けか?」
     ピースもプレアも唖然としている。
    「これ……、どうなるの?」
    「ど、どうなるのかなぁ」
     フォルナもシリンも、立ち上がって叫ぶ。
    「セイナ、起きてっ!」
    「姉やん、どないしたんよ!?」
     こっそり駆けつけていたトレノとレヴィも、涙声でロウを呼んだ。
    「お父さん!? お父さーん!」
    「ダメっ、起きてよぉ……! 負けちゃイヤだよぉ……!」
     リングの上にいる晴奈とロウは、それぞれうつ伏せと仰向けに倒れ込んだままだ。
     そのまま、時間が経ち続ける。騒然としていた観客たちは、いつしか晴奈とロウの名を叫び始めた。
    「コウ! コウ! コウ!」
    「ウィアード! ウィアード! ウィアード!」
     観客たちは倒れた二人を助けようかとするように、懸命に名前を呼び続ける。
     そうして1分程経とうかと言うところで――。
    「……っせーな」
     仰向けに倒れていたロウが、拳を振り上げた。
    「今、起きる、からよ、……いてて」
     晴奈は依然倒れたままであり、目を覚ます様子は微塵も無い。
    「くっそ、……ホント、ギリギリだった」
     ロウの言う通り――二人の体力・気力はともに限界まで使い切られていた。それこそ、後一回攻撃すれば、もしくは攻撃されれば力尽きると言うところまで。その限界すれすれの領域で、両者はすべての力を振り絞った。
     いや、晴奈は正真正銘、己の持てる力を出し切っての攻撃だった。しかしロウの最後の一撃には、言わば「1%の助力」があった。
     もしロウが三節棍「雅龍」を使っていなければ、その欠片が晴奈に飛んでいくことは無く、それによって晴奈の額が割られることも、絶対に無かっただろう。
     欠けた三節棍と言うその「1%の助力」が、ロウを勝利へと導いたのだ。



     こうして519年上半期エリザリーグは、ロウ・ウィアードの2連覇で幕を閉じた。
     今期の大会は史上稀に見る名勝負、一つの伝説として、後世に長く伝えられることとなる。

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    2016.06.30 修正
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