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    「双月千年世界 1;蒼天剣」
    蒼天剣 第5部

    蒼天剣・闘由録 8

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    晴奈の話、第281話。
    闘技場編、最後の事件の始まり。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    8.
     晴奈は対戦終了から15分ほど後に、医務室にて目を覚ました。
    「う……」
    「お、気がついたか」
     横にはロウやフォルナ、シリンたちが並んでいる。どうやら晴奈を心配し、皆で来てくれたらしい。
    「……私は、負けたのか?」
    「ああ。オレが、……勝ったよ」
     ロウは静かにそう伝える。晴奈は「……はは、そうか」とつぶやき、短くため息をついた。



     晴奈が目を覚ましてすぐ、表彰式が行われた。
     これまでずっとリング脇のバルコニーでしゃべっていた司会者が、晴奈たちの目の前に立ってニコニコしている。
    「おめでとう、おめでとう! 本当に今大会は鳥肌の立つような名勝負の連続でした! 私も久々に、熱い思いで大会をお送りすることができました!」
     司会者の男は1位のロウ、2位の晴奈、3位の楢崎の順に堅い握手をかわし、しきりに頭を下げる。
    「皆さん、本当に本当に、本っ当にお疲れ様でした! このルード・ゴールドマン、非常に感動しております! ありがとうございました!」
     余談になるが、晴奈はここでようやく司会者の名前を知った。

     表彰式の後、すぐに賞金と優勝カップの贈呈が行われた。
     1位のロウには金のカップと、100万クラム。
     2位の晴奈には銀のカップと、80万クラム。
     そして3位の楢崎には銅のカップと、50万クラムが贈呈された。
     三人は一旦選手控え室に戻り、帰り支度をしながらこの記念品をどうしようかと相談していた。旅の途中である晴奈と楢崎にとっては、はっきり言って邪魔でしか無いからだ。
    「はは……、どうしようかな、このカップ」
     楢崎は少し困った顔で、ピカピカに磨かれたカップを覗き込んでいる。
    「良かったら旅が終わるまで、オレが預かっときますよ」
     ロウは色々な角度からカップを眺め、はにかんでいる。
    「セイナはどうすんだ?」
    「私はチェイサー商会に預けることになっている。商会に置けば、箔がつくんだそうだ」
    「ま、確かにつくだろうな」
     三人はそれぞれがもらったカップをじっと眺めていたが、突然楢崎がこんな提案をした。
    「……これでさ、酒を呑んでみないかい? きっと美味しいよ」
    「え」
    「ふむ」
     晴奈とロウは顔を見合わせ、同時にニヤッと笑った。
    「悪くないな」
    「面白いですね」
    「よし、じゃあ酒を持って……」
     楢崎が席を立ちかけた、その時だった。
    「すみません、皆さん……!」
     控え室の扉を勢いよく開けて、フェリオが入ってきた。
    「どうした、フェリオ」
    「すみません、ご協力、……願えませんでしょうか!」
     フェリオは真っ青な顔で敬礼している。普段の飄々とした態度とまったく違うフェリオの様子を見て、晴奈たちは尋常ならざる事態が起こっているらしいと察した。
    「何かあったのかい?」
    「先輩がいないんっス!」
     フェリオの言葉に、三人はけげんな顔をする。
    「いない、とは?」
    「……実は、ですね。その先輩がですね、クラウン一味を潜入捜査してまして。毎週氷曜に、定時連絡が入るはずなんスよ」
    「氷曜と言えば、今日だな」
    「ええ。試合が終わった辺りが、ちょうど定時連絡の時刻だったんスけども、来ないんスよ、いくら待っても」
     晴奈たちは柱時計を確認する。試合が終わってから、既に2時間以上は経過していた。
    「それは、まずいのか?」
    「超まずいっス、激ヤバっス! ボスからも、『今週の定時連絡、もしキャロルが現れなければ警戒するように』と言われてまして……」
    「キャロル? ……それは、もしかして」
     晴奈と楢崎は顔を見合わせる。
    「あ、そう言えばご存知なんでしたね。
     ええ、バート・キャロル警部補は正真正銘、金火公安の職員っス。もちろん正体を隠して潜入していたんスけども、ここ最近はクラウンが情緒不安定で、警戒していたんスよ。
     近いうち逮捕しようと考えていたんスけども、闘技場側から『試合の都合があるから』って、逮捕を遅らせるよう頼まれていて……」
    「その結果が、バートの異変か。……まったく、あのヒゲ狐め」
     晴奈は先ほど見たルードの笑顔を思い出し、思わず毒づいた。
    「ともかく公安本部に連絡して、現在捜索・拿捕チームが編成されてます。でも、早く助けないと先輩、殺されちゃうかも知れないっス」
    「殺される、か。それは確かに、悠長にはしておれぬな。よし、手を貸そう」
    「我々は何をすればいいのかな?」
     晴奈と楢崎は、快く協力を願い出た。
    「あ、オレも……」
     ロウも協力しようとするが、晴奈はそれを断った。
    「おいおい、ロウ。お主は早く帰った方がいいだろう? 奥さんと子供が、首を長くして待っているだろうからな」
    「いや、でも」
    「心配するな。相手はクラウンだぞ? 力技しか能のないあいつに遅れを取るわけが無い」
    「……まあ、そうだな。……ホントに、帰っちゃっていいのか?」
    「家族の時間を奪わなければならぬほど、要領は悪く無いさ。早く帰って元気な顔を見せてやれ、ロウ」
     ロウはまだ何か言いたそうだったが、やがてうなずいた。
    「……んじゃ、まあ。お言葉に、甘えるとするかな。俺の分まで頑張ってくれよ、二人とも」
    「ああ。また明日にでも、さっき言ってた酒のこと、やってみようね。それじゃお疲れ様、ロウくん」
    「それでは、行って参る」
     晴奈と楢崎はフェリオに先導され、控え室を後にした。



     ロウは足取り軽く、教会への道のりを歩いていた。
    (セイナとナラサキさんには悪いけど、やっぱり早く帰りたかったからなぁ。おわびに、明日はオレが酒おごってやるかな。
     ……へへっ、へへへへ。2連覇しちまったぜ! すっげー嬉しいなぁ、もう! 早く帰って、シルたちを喜ばせてやりてーぜ、へへへへっ)
     道中、何度も顔がにやけてしまう。ロウは空を飛ぶように、家路を急いだ。
    「たっだいまー!」
     教会に着き、ロウは大声で帰りを告げた。
     だが、誰も返事をしない。いや、それどころか灯りすら点いていない。
    「……あれ?」
     不思議に思ったロウは、居間の方に足を運ぶ。そこもやはり灯りが点いておらず、人気が無い。
    「どっか、出かけたのか……?」
     とりあえず近くにあった燭台に火を点け、部屋に明かりを灯してみた。
    「……!?」
     明るくなった室内を見て、ロウは絶句した。
     荒らされている。椅子は足や背を折られ、テーブルも真っ二つに割れている。あちこちに食器が散乱し、朝見た時とはまったく様子が違う。
    「な、何だこりゃ!?」
     ロウはゾク、と背筋に冷たいものを感じた。
    「シル! どこにいるんだ!? 返事してくれ!」
     寝室も見てみたが、居間と同様荒らされている。
    「アズサ! ビート! チノ! レヴィ! トレノ!」
     子供たちの名を呼びながら、教会を隅から隅まで探す。しかし、何の反応も返ってこない。
    「一体、何があったんだ……!?」
     ロウは真っ青な顔で居間に戻り、立ちすくんだ。



     悲劇の時間が、始まった。

    蒼天剣・闘由録 終

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    そう言えば。
    以前に、この世界の魔術体系を説明するとか言って、
    全然やってなかったのを思い出しました。
    と言うわけで、明日解説を入れます。
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    ~ Comment ~

    NoTitle 

    奇しくも、そちらでも誘拐の話が進行してる最中ですね。
    突然身柄を拘束され、被害者は終始、恐怖にさらされる。
    それだけでもひどい話なのに、理不尽に、一方的に要求を突き付けて来る。
    とても卑劣で、恐ろしいことです。

    ついに登場しましたね。
    読者さんらの反応が楽しみです。

    NoTitle 

    日本国内の年間の略取誘拐件数200件前後を推移している。
    ・・・ということを考えれば、2日に一回は国内でどこかで起こっている・・・と計算すれば誰が巻き込まれてもおかしくはない・・というのは成り立ちますよね。
    こちらでもユキノが登場しているのでよろしくお願いします。

    NoTitle 

    残念ながら、ウィルが正道に乗ることは、しばらく先。
    本当に、遅くになってから。

    本当に不幸な男です。

    NoTitle 

    ウィアードくん……この世の不幸を一身に受けたようなやつだなあ……気の毒すぎるうむむむ。

    しかし、ここで子供と妻をさらった連中を相手に大暴れして大殺戮をすると、奥さんに別れられてしまうような……あの奥さん、こういうことには免疫なさそうだしなあ。

    なんとかウィアードくんが最後には正道に立ち返ってくれればいいのですが。うむむ。

     

    どもども、黄輪です。
    読んでいただきまして、ありがとうございます(*´∀`)

    ブログの上の方に
    「蒼天剣 目次 / 拍手コメントへのお返事」
    と言うページがあるので、
    そこから「第1部」をクリックすれば、1話目から読めますよー。

    って言うか最新の話から読んじゃいましたかΣ(゚∀゚;)
    アクセス数からして、新しい方から掘り下げて読まれたみたいですね。
    お手数おかけしました。

    1話目が分かりやすいように、目次の方に項目を追加しておきますね。

     

    読ませていただきました。(^^)

    これ第一話から読みたいんですけど、どうすればいいですか??
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