「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第3部
緑綺星・奇家譚 1
シュウの話、第78話。
薄暗い街の片隅で。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
時は双月暦506年。
夜道を駆ける、三毛耳の猫獣人の少女がいた。
名を、晴奈と言う。
央南地方で名を馳せる大商家の令嬢であったが、先刻その身分を自ら捨ててきた。
彼女には志ができたからだ――「あの人のように、強い剣士になりたい」と。
元々、彼女は何不自由なく育てられていた、箱入り娘であった。ゆくゆくは婿を取らせて家を継がせようと、親が決めていたのだ。
だが晴奈には、それが何よりの不満になっていた。彼女は物心ついた時から、「自分の人生は自分で決める」「親でも自分を縛れない」と考えるようになっていた。
そして今日、晴奈はある者との出会いで、その思いをより明確で、具体的なものにしたのだ。
その結果として今、晴奈は夜道をひた走っていた。「その人」に、もう一度会うため。そして新たに抱いた彼女の志を、全うするために。
彼女こそ、後に「蒼天剣」の異名を取った女武芸者、セイナ・コウ(黄晴奈)である。
これより、その物語を――彼女が志を抱き、央南に一大勢力を築く剣術一派、焔流に入門するところから――
「おい、そのテレビ換えろ! チャンネル換えろ!」
「え? あ、は、はい!」
いかにも柄の悪そうな男に怒鳴られ、気の弱そうな店主が慌ててリモコンを操作する。
「な、何にしますか?」
「あ? んなもんお前が気ぃ効かせろや! なんでもかんでも聞いてくんじゃねえ!」
「はっ、はい!」
テレビの画面が大河ドラマから、いかにも頭の悪そうな芸人がひな壇に並ぶバラエティ番組に切り替わる。司会者がゲラゲラ笑いながら彼らを罵倒している様子を見て、男はようやく満足げな顔をした。
「……ったく、とりあえずキレイなオンナ出しとけばいいやみてえなクソドラマなんか流してんじゃねえよ。ハラ立つんだよ、クソが」
「す、すみません」
「大体メシが出てくんのも遅えし、脂っこいだけでクソまずいし、流してるテレビ番組もセンス悪いしよ、やっぱお前畳めよ、この店よぉ?」
「い、いやー、その……」
「なっ? そうしろよ? そっちの方がいいって。この辺駐車場も無えし、みんな喜ぶぜ、な? どうせお前の店なんて誰も来やしねえんだからよ」
「そ、その……あの……」
困り果てた顔をする店主に料理が残っていた皿を投げつけ、男は立ち上がる。
「あー、胸クソ悪い。もう帰るわ。明日には書類もまとめとけよ。じゃーな」
「え、あの、お、お、お代……」
店主が申し訳無さそうに尋ねた時には、既に男は店を後にしていた。
男は我が物顔で薄暗い路地をのしのしと歩き、やがてぴた、と立ち止まる。
「うー……トイレ、トイレ、……チッ、無さそうだな。いいや、あの電柱で」
電柱の前でズボンのジッパーを下ろし、男は用を足そうとする。
「トイレもねえし……駐車場もねえし……アレだ、アレ、……えーと、ナントカのアレ、……都市整備ってもんがよ……」
と――背後からじゃり、じゃりと足音が聞こえ、男は猪首を回して背後を確認しようとする。
「何だよ、見てんじゃ……」
威嚇じみた声を上げかけたが――その時には既に、男の首は地面に転がっていた。
「……もしもし」
男の背後に立っていた何者かが、長い耳に手を当ててぼそぼそとしゃべる。
「終わったよ。後片付け、頼んどいて」
刀を振り、滴っていた血を払って、彼は襟口に刀をしまい込んだ。
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薄暗い街の片隅で。
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時は双月暦506年。
夜道を駆ける、三毛耳の猫獣人の少女がいた。
名を、晴奈と言う。
央南地方で名を馳せる大商家の令嬢であったが、先刻その身分を自ら捨ててきた。
彼女には志ができたからだ――「あの人のように、強い剣士になりたい」と。
元々、彼女は何不自由なく育てられていた、箱入り娘であった。ゆくゆくは婿を取らせて家を継がせようと、親が決めていたのだ。
だが晴奈には、それが何よりの不満になっていた。彼女は物心ついた時から、「自分の人生は自分で決める」「親でも自分を縛れない」と考えるようになっていた。
そして今日、晴奈はある者との出会いで、その思いをより明確で、具体的なものにしたのだ。
その結果として今、晴奈は夜道をひた走っていた。「その人」に、もう一度会うため。そして新たに抱いた彼女の志を、全うするために。
彼女こそ、後に「蒼天剣」の異名を取った女武芸者、セイナ・コウ(黄晴奈)である。
これより、その物語を――彼女が志を抱き、央南に一大勢力を築く剣術一派、焔流に入門するところから――
「おい、そのテレビ換えろ! チャンネル換えろ!」
「え? あ、は、はい!」
いかにも柄の悪そうな男に怒鳴られ、気の弱そうな店主が慌ててリモコンを操作する。
「な、何にしますか?」
「あ? んなもんお前が気ぃ効かせろや! なんでもかんでも聞いてくんじゃねえ!」
「はっ、はい!」
テレビの画面が大河ドラマから、いかにも頭の悪そうな芸人がひな壇に並ぶバラエティ番組に切り替わる。司会者がゲラゲラ笑いながら彼らを罵倒している様子を見て、男はようやく満足げな顔をした。
「……ったく、とりあえずキレイなオンナ出しとけばいいやみてえなクソドラマなんか流してんじゃねえよ。ハラ立つんだよ、クソが」
「す、すみません」
「大体メシが出てくんのも遅えし、脂っこいだけでクソまずいし、流してるテレビ番組もセンス悪いしよ、やっぱお前畳めよ、この店よぉ?」
「い、いやー、その……」
「なっ? そうしろよ? そっちの方がいいって。この辺駐車場も無えし、みんな喜ぶぜ、な? どうせお前の店なんて誰も来やしねえんだからよ」
「そ、その……あの……」
困り果てた顔をする店主に料理が残っていた皿を投げつけ、男は立ち上がる。
「あー、胸クソ悪い。もう帰るわ。明日には書類もまとめとけよ。じゃーな」
「え、あの、お、お、お代……」
店主が申し訳無さそうに尋ねた時には、既に男は店を後にしていた。
男は我が物顔で薄暗い路地をのしのしと歩き、やがてぴた、と立ち止まる。
「うー……トイレ、トイレ、……チッ、無さそうだな。いいや、あの電柱で」
電柱の前でズボンのジッパーを下ろし、男は用を足そうとする。
「トイレもねえし……駐車場もねえし……アレだ、アレ、……えーと、ナントカのアレ、……都市整備ってもんがよ……」
と――背後からじゃり、じゃりと足音が聞こえ、男は猪首を回して背後を確認しようとする。
「何だよ、見てんじゃ……」
威嚇じみた声を上げかけたが――その時には既に、男の首は地面に転がっていた。
「……もしもし」
男の背後に立っていた何者かが、長い耳に手を当ててぼそぼそとしゃべる。
「終わったよ。後片付け、頼んどいて」
刀を振り、滴っていた血を払って、彼は襟口に刀をしまい込んだ。
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大変お待たせしました。約8ヶ月ぶりの連載再開です。
2、3年前くらいから同時並行してしてやっていることが増えてしまったため、
制作物一つひとつを完成させるのにかかる時間が異様に長くなってしまっています。
相変わらず移り気な性格で申し訳ない。
ただ、その分マンネリなことを繰り返したりはせずに済むかな、と。
常に新しいことに挑戦していくつもりですので、これからもご期待下さい。
大変お待たせしました。約8ヶ月ぶりの連載再開です。
2、3年前くらいから同時並行してしてやっていることが増えてしまったため、
制作物一つひとつを完成させるのにかかる時間が異様に長くなってしまっています。
相変わらず移り気な性格で申し訳ない。
ただ、その分マンネリなことを繰り返したりはせずに済むかな、と。
常に新しいことに挑戦していくつもりですので、これからもご期待下さい。



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