「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第3部
緑綺星・奇家譚 2
シュウの話、第79話。
少年と母親、暗殺者と代理人。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
カチカチとコントローラの音が響く部屋に、虎耳の女性が入って来る。
「振り込まれたわよ、報酬」
「……」
声をかけられ、モニタの前で黙々とゲームをプレイしていた長耳の少年は、イヤホンを外して虎耳の方に振り向く。
「いくら?」
「16万8千玄。ま、そんなもんって感じかしらね」
「安いね」
会話を交わしつつも、彼の手はせわしなくコントローラを操作し続けている。
「一国の首脳ならともかく、町の嫌われ者程度じゃね。ソレでも今回のターゲットが死んだコトで、あの辺りの中小企業だとか個人経営店はホッとしてんじゃないかしら。かなりアコギな地上げを繰り返してたみたいだし……」「話はそれだけ?」
虎耳に背を向け、彼はまたゲームに没頭しようとする。が――。
「……あ」
モニタには試合結果が映されており、どうやら彼の勝利を知らせているらしかった。
「相変わらずの腕前ね。今の今まであたしと話してたのに」
「ポイントを押さえれば楽勝だよ」
「って言われても、あたしにはピンと来ないわ。そーゆーのってリアルタイムで状況が変化するもんじゃないの? オンライン対戦でしょ?」
「誰にだって攻めるぞってタイミングがあるから、相手のそれをかわせば絶対にやられない。逆にそのタイミングを外したとこで襲えば、簡単に倒せる」
「ゆうべの依頼みたいに?」
そう問われ、少年は首を横に振った。
「あれはもっと簡単。相手は完全に別のことに気を取られてたもん。あれじゃ『どうぞ襲って下さい』って言ってるようなもんだよ」
「ソレで実際に襲えるのはアンタだけよ。……っと、ゴメンね」
虎耳がポケットからスマホを取り出し、画面を確認したところで、少年はもう一度イヤホンを付けようとしたが、虎耳が「海斗」と彼の名前を呼んだ。
「なに?」
「次の仕事の準備しといて」
「……立て続けだね」
コントローラを置き、海斗は虎耳にもう一度向き直った。
「アンタの仕事っぷりが気に入ったみたいよ」
「そう」
海斗はゲームの電源を落とし、壁に立てかけていた刀を手に取った。
「昼間は素振りやめときなさいよ」
「大丈夫だよ、七瀬さん」
海斗はにぃ、と薄く笑って返す。
「誰にも気付かせないことに関しては、僕は誰よりも上手いから」
海斗が部屋を出たところで、七瀬はスマホをタップし、メールの文面を確認した。
「……『詳細については直接会ってお話したく存じます』、か。海斗が戻って来るのが2時間くらい後だから、十分間に合うわね」
七瀬が近所の喫茶店に到着したところ、取引相手の短耳が遠慮がちな仕草で手を挙げるのが確認できた。
「あ、どうも……橘さん。ここです」
「どーも」
相手の対面に着き、七瀬はにこっと会釈しておく。
「昨日の今日ですぐに次のご依頼ですか。よほど切羽詰まっているか、あるいは、よほどこちらの腕を買っているか、……と言ったところでしょうか」
「どちらもです」
「それはどーも」
もう一度、にこっと会釈して、七瀬はかばんからファイルを取り出した。
「その切羽詰まった事情と言うのは、もしかしてこちらの件でしょうか?」
「……っ」
ファイルにとじられていたとある工事計画の書類を見て、相手の顔がこわばる。
「あの、それは」「高山さん」
三度会釈してから、七瀬はこう続けた。
「私どもの鉄則は『目鼻と頭を利かせろ』――どんな情報でも逃さず集め、それが何を意味するかを推測・推察する。でなければこの業界では生き残れませんから」
「……このファイル、脅しの材料にするおつもりですか」
「いいえ」
ファイルを手元に寄せ、七瀬は首を横に振る。
「その点はご心配なく。私どもの仕事はあくまでも『受注』であり、『自社生産』はしておりませんから」
「は、はあ……」
「それよりも私どもにとって重要なのは、あなた方と『篠雲会』にどんなつながりがあるのか。そしてあなた方が何故彼らを消そうとしているのか。それを把握しておかなければ、私どもも危険にさらされかねません。
どうぞ、包み隠さずお話しください」
「……はい」
七瀬の圧力に屈したらしく、高山は小さくうなずいた。
@au_ringさんをフォロー
少年と母親、暗殺者と代理人。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
2.
カチカチとコントローラの音が響く部屋に、虎耳の女性が入って来る。
「振り込まれたわよ、報酬」
「……」
声をかけられ、モニタの前で黙々とゲームをプレイしていた長耳の少年は、イヤホンを外して虎耳の方に振り向く。
「いくら?」
「16万8千玄。ま、そんなもんって感じかしらね」
「安いね」
会話を交わしつつも、彼の手はせわしなくコントローラを操作し続けている。
「一国の首脳ならともかく、町の嫌われ者程度じゃね。ソレでも今回のターゲットが死んだコトで、あの辺りの中小企業だとか個人経営店はホッとしてんじゃないかしら。かなりアコギな地上げを繰り返してたみたいだし……」「話はそれだけ?」
虎耳に背を向け、彼はまたゲームに没頭しようとする。が――。
「……あ」
モニタには試合結果が映されており、どうやら彼の勝利を知らせているらしかった。
「相変わらずの腕前ね。今の今まであたしと話してたのに」
「ポイントを押さえれば楽勝だよ」
「って言われても、あたしにはピンと来ないわ。そーゆーのってリアルタイムで状況が変化するもんじゃないの? オンライン対戦でしょ?」
「誰にだって攻めるぞってタイミングがあるから、相手のそれをかわせば絶対にやられない。逆にそのタイミングを外したとこで襲えば、簡単に倒せる」
「ゆうべの依頼みたいに?」
そう問われ、少年は首を横に振った。
「あれはもっと簡単。相手は完全に別のことに気を取られてたもん。あれじゃ『どうぞ襲って下さい』って言ってるようなもんだよ」
「ソレで実際に襲えるのはアンタだけよ。……っと、ゴメンね」
虎耳がポケットからスマホを取り出し、画面を確認したところで、少年はもう一度イヤホンを付けようとしたが、虎耳が「海斗」と彼の名前を呼んだ。
「なに?」
「次の仕事の準備しといて」
「……立て続けだね」
コントローラを置き、海斗は虎耳にもう一度向き直った。
「アンタの仕事っぷりが気に入ったみたいよ」
「そう」
海斗はゲームの電源を落とし、壁に立てかけていた刀を手に取った。
「昼間は素振りやめときなさいよ」
「大丈夫だよ、七瀬さん」
海斗はにぃ、と薄く笑って返す。
「誰にも気付かせないことに関しては、僕は誰よりも上手いから」
海斗が部屋を出たところで、七瀬はスマホをタップし、メールの文面を確認した。
「……『詳細については直接会ってお話したく存じます』、か。海斗が戻って来るのが2時間くらい後だから、十分間に合うわね」
七瀬が近所の喫茶店に到着したところ、取引相手の短耳が遠慮がちな仕草で手を挙げるのが確認できた。
「あ、どうも……橘さん。ここです」
「どーも」
相手の対面に着き、七瀬はにこっと会釈しておく。
「昨日の今日ですぐに次のご依頼ですか。よほど切羽詰まっているか、あるいは、よほどこちらの腕を買っているか、……と言ったところでしょうか」
「どちらもです」
「それはどーも」
もう一度、にこっと会釈して、七瀬はかばんからファイルを取り出した。
「その切羽詰まった事情と言うのは、もしかしてこちらの件でしょうか?」
「……っ」
ファイルにとじられていたとある工事計画の書類を見て、相手の顔がこわばる。
「あの、それは」「高山さん」
三度会釈してから、七瀬はこう続けた。
「私どもの鉄則は『目鼻と頭を利かせろ』――どんな情報でも逃さず集め、それが何を意味するかを推測・推察する。でなければこの業界では生き残れませんから」
「……このファイル、脅しの材料にするおつもりですか」
「いいえ」
ファイルを手元に寄せ、七瀬は首を横に振る。
「その点はご心配なく。私どもの仕事はあくまでも『受注』であり、『自社生産』はしておりませんから」
「は、はあ……」
「それよりも私どもにとって重要なのは、あなた方と『篠雲会』にどんなつながりがあるのか。そしてあなた方が何故彼らを消そうとしているのか。それを把握しておかなければ、私どもも危険にさらされかねません。
どうぞ、包み隠さずお話しください」
「……はい」
七瀬の圧力に屈したらしく、高山は小さくうなずいた。
- 関連記事



@au_ringさんをフォロー
総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

総もくじ
双月千年世界 3;白猫夢

総もくじ
双月千年世界 2;火紅狐

総もくじ
双月千年世界 1;蒼天剣

もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

もくじ
他サイトさんとの交流

もくじ
短編・掌編

もくじ
未分類

もくじ
雑記

もくじ
クルマのドット絵

もくじ
携帯待受

もくじ
カウンタ、ウェブ素材

もくじ
今日の旅岡さん

- ジャンル:[小説・文学]
- テーマ:[自作小説(ファンタジー)]
~ Trackback ~
トラックバックURL
⇒
⇒この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)
~ Comment ~