fc2ブログ

黄輪雑貨本店 新館


    「双月千年世界 5;緑綺星」
    緑綺星 第3部

    緑綺星・奇家譚 3

     ←緑綺星・奇家譚 2 →緑綺星・奇家譚 4
    シュウの話、第80話。
    鉄道計画裏事情。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    3.
    「そこまでお調べしていると言うことは、その……、私の素性もご存知なんでしょうね」
     恐る恐ると言った口ぶりで尋ねる高山に、七瀬も小さくうなずいて返した。
    「黄グループ都市開発部門鉄道事業部の偉い方、と言うところまで。無論、本名も存じていますが、それをわざわざ今ここで言及する必要性はありませんから、今後も『高山さん』と呼ばせていただきます」
    「は、はい」
    「3週間前、私どもはあなたから一度目の依頼を受けました。非合法な土地ブローカーを排除してほしいとのご依頼でしたね。そして先週の二度目の依頼ですが、こちらは前述したブローカーの共同経営者。そして昨日のご依頼で排除した人物は、その両者に土地を転売していた業者の一人であったことが、私どもの調査により判明しております。
     そして今回以降の依頼ですが――最終的には恐らく、この人物が標的ではないかと推察しています」
     七瀬はファイルをめくり、いかにも裏社会に通じていそうな、趣味の悪いスーツの男が写った写真を示した。
    「日吉先太郎――表向きは央南中西部の不動産を手掛ける実業家ですが、裏の顔は篠雲会幹部の一人。これまでの三度の依頼で排除した人物たちに資金と情報を提供していた張本人でもあります。
     そして彼が現在密かに進めている不動産買収計画ですが、このほとんどが、あなた方が計画している新線敷設候補地と重複していることを考えると……」
    「ええ、お察しの通りです」
     高山は一際渋い顔をして、こくりとうなずく。
    「篠雲会はこれまでにも我々の――都市開発部門の事業計画に関わっており、事実として、弊社の成長に少なからず寄与してきました。彼らがいなければ、今日の弊社は無かったとも言えます」
    「でしょうね。前世紀の状況で央南全域にわたる鉄道網を敷設しようにも、当時の黄家や央南連合の力だけでは到底、実現は叶わなかったでしょうから」
    「ですが時代は変わりました。私の前任の代まで続いてきた関係を今後も維持することは、もはや弊社にとっても、そして社会にとっても害にしかなりません」
    「ですから『この私が正義を示す』、……などと仰るつもりですか?」
     薄く笑いながらそう尋ねた七瀬に、高山は首を横に振って返す。
    「そんな偽善を言っても、本意は十分ご存知でしょうからね……。ええ、理想論だけの話ではありません。先程あなたが言及した新線敷設計画、これにも篠雲会は介入しようとしており、彼らは既に我々が買収しようと考えていた土地を先んじて取得しています。遠からず、彼らはこの土地を――買値の何倍もの額で――売りつけるつもりでしょう。
     無論、社内では応じるべきではない、断固として関係を断つべきと言う意見も多数ありましたが、相手は反社会的組織、いわゆる暴力団です。うかつに手を切るような姿勢を見せれば、どんな報復に出るか分かりません」
    「と言って既に計画の変更も中止も困難な段階にあり、このままでは言うなりになるしかない。そこでいっそ強硬策を講じ、彼らを『物理的に』排除してしまおう、と」
    「ええ」
    「そう言ったお心積もりでしたら、進捗状況に大きな問題がありますね」
     そう返して、七瀬はファイルを閉じる。
    「これまでに排除した相手はいずれも小物です。この程度の相手を何人排除しても、相手の計画を阻止することは不可能でしょう」
    「で、ではあなたは、直に日吉を狙えと?」
    「できれば初手でそれを依頼していただければ、非常に助かりました。相手が警戒していない内に行動すれば、リスクも少なかったのですから。しかしこの3件で、相手は確実に警戒しています。警戒されればされるほど排除が困難になるのは、当然の理屈でしょう?」
    「ふ、ふむ、そう、ですね」
     やんわりと叱咤され苦い顔をする高山に、七瀬が畳み掛ける。
    「この期に及んで小物ばかり狙っていては、そう遠くない内、相手はあなた方が黒幕、依頼者であると断定するでしょう。そうなれば危険は現場担当だけではなく、あなた方にも及びます」
    「う……」
    「恐らくこれまでの3件はトライアル(性能試験)のつもりも含まれていたのでしょうが、もう結果は出ているはずですし、これ以上は不要かと。『本番』に進みましょう」
    「……そ、そうですね」
     高山は額に浮いた汗をぬぐい、小さくうなずいた。
    「では……排除を、日吉の排除を、お願いします。報酬はこれまでの3倍、いや、5倍の80万玄でいかがでしょう?」
    「8倍、130万玄を要求します。先程も申し上げた通り、状況は緊迫化していますから。『急場は割増』がこの業界の鉄則です。とは言え雑魚10名を排除するよりは安上がりでしょう?」
    「……承知しました。その条件で、よろしくお願いします」
    関連記事




    ブログランキング・にほんブログ村へ





    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 5;緑綺星
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ 3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    総もくじ 3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 5;緑綺星
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 4;琥珀暁
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 3;白猫夢
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 2;火紅狐
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 1;蒼天剣
    総もくじ  3kaku_s_L.png 双月千年世界 短編・掌編・設定など
    もくじ  3kaku_s_L.png DETECTIVE WESTERN
    もくじ  3kaku_s_L.png 短編・掌編
    もくじ  3kaku_s_L.png 未分類
    もくじ  3kaku_s_L.png 雑記
    もくじ  3kaku_s_L.png 携帯待受
    もくじ  3kaku_s_L.png 今日の旅岡さん
    総もくじ  3kaku_s_L.png イラスト練習/実践
    • 【緑綺星・奇家譚 2】へ
    • 【緑綺星・奇家譚 4】へ

    ~ Comment ~

    管理者のみ表示。 | 非公開コメント投稿可能です。

    ~ Trackback ~

    トラックバックURL


    この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

    • 【緑綺星・奇家譚 2】へ
    • 【緑綺星・奇家譚 4】へ