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    「双月千年世界 5;緑綺星」
    緑綺星 第3部

    緑綺星・奇家譚 5

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    シュウの話、第82話。
    宿題と予習。

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    5.
     例に漏れず虎獣人の七瀬・美園母娘も大食な性質であり、皿いっぱいに盛られた粉焼きをぺろりと平らげた後、そのまま台所に立って夕食を作り始めた。
    「僕はいいよ」
     海斗はそう言ったものの、七瀬は「なに言ってんの」と返してくる。
    「アンタまだ14歳なんだから、いっぱい食べないと成長しないわよ」
    「そんなに食べらんないよ」
    「食べ切れなかったらまたあたし食べたげるって」
     そう言いつつ、自分の分の粉焼きを食べ終えた美園も台所に向かおうとする。
    「あ、いーわよ。宿題でもやってなさい」
    「ありがと、ママ。……んじゃ海斗も手伝ってよ」
    「僕まだ食べてるじゃん」
    「食べ終わってからでいーよ。んじゃ」
     ぺらぺらと手を振りながら美園が居間を出ようとしたところで、七瀬が背を向けたまま、海斗に話しかけてきた。
    「あ、そうそう。明日からあたしと海斗、玄州に行くわよ。予定は1週間ってトコかしら」
    「仕事?」
     ドアに手をかけていた美園が振り返ったところで、七瀬も振り向く。
    「ええ。明日は朝から高速で行くつもりしてるから、今日は早めに寝てよ、海斗」
    「分かった」
    「ご飯は買い置きしてる?」
    「そのつもりでスーパー行ったから、冷蔵庫ん中パンパンにしてるわよ。一応おカネも置いとくけど、無駄遣いしちゃダメよ」
    「ありがと。んじゃ、宿題やってくるねー」
     美園が自分の部屋に向かい、二人になったところで、海斗が「かばん見ていい?」と七瀬に声をかけた。
    「資料? いーわよ。茶色の方に入ってるわ」
    「うん」
     居間に放り出したままだった七瀬のかばんからファイルを取り出し、箸を片手にぺら、ぺらとめくりながら、淡々と質問する。
    「相手はこの日吉って人?」
    「ええ。連合広域指定暴力団、篠雲会系の下部組織、日吉組3代目組長。ぶっちゃけヤクザの親分ね」
    「この人の家、かなり大きいね。大物なの?」
    「篠雲会の中でもビッグ3って呼ばれるクラスの大物よ。日吉が経営してる不動産会社は篠雲会の主要資金源になってるし、その私邸では色んな裏取引やギャンブルが行われてて、裏の世界じゃ『闇の大富豪』って呼ばれてるくらいよ」
    「じゃあ、警備は厳重そうだね」
    「加えてここ数週間、手下が立て続けに殺されたせいで――あたしたちの請けた依頼ね――相手は確実に警戒してるわ。正面切って殴り込みなんて、まず不可能よ」
    「って、みんな思ってるだろうね」
     ようやく粉焼きをさらい終えた海斗が、台所に皿を持って来る。
    「七瀬さんの『鉄則』にもあるよね。『敵が最も意外と思うところを突け』って」
    「そりゃ言ったけど、常識的に考えたら死にに行くようなもんよ。勝算はあるの?」
    「相手の装備次第。調べてある?」
    「一応当たってみたわ。で、この数日、非正規ルートで武器弾薬が玄州の、日吉邸周辺に運ばれたって情報をキャッチしてる。ほとんどが拳銃とスタンガンだけど、PDWやショットガンなんかもあるわね」
    「刀剣類は?」
    「無かったわ。元々日吉邸か、組の方にストックしてあるのかも」
    「調べられる?」
    「流石にヤクザの武器在庫管理情報までつかめないわよ……。そっちは期待しないで」
    「まあ、知らなくても何とかなるかな。日吉邸の見取り図は……これ?」
    「2枚あるわ。片方は本邸で、もう片方は私邸につながってる私設カジノよ。でも流石に厳戒態勢の中、カジノは開いてないでしょうけどね。今晩中に調べとくわ」
    「ちゃんと寝てよ?」
    「分かってるわよ。現場到着前に事故なんて、面倒になるだけだし。9時には寝るわ」
    「じゃ、僕も七瀬さんが寝るまでに計画練っとく」
    「分かったわ。……じゃ、ご飯は早めに出しちゃった方がいいわね。6時半くらいに食べちゃって、ソレから会議しましょ」
    「分かった。……やっぱりあんまり食べられそうにないな。さっきので結構お腹いっぱいなんだよね」
    「そんじゃ軽めに盛ったげるわね」
    「うん」



     何気ない日常と、殺伐とした非日常が渾然と混ざったこの奇妙な一家――この時まだ、彼らは自分たちがとてつもなく巨大な運命に飲み込まれることなど、微塵も想像していなかった。

    緑綺星・奇家譚 終
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