「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第3部
緑綺星・静侍譚 2
シュウの話、第84話。
仁義なき襲撃。
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2.
手下たち3名が殺害されたことで、元々勘が鋭く奸智に長ける日吉は一連の襲撃が同一犯による犯行であること、そして目的が一貫していること――即ち自分の一派が狙われていることを悟り、早々に手を打っていた。他の篠雲会幹部たちとの接触を断ち、続いて自分の「城」である私邸、そして私邸に接続されたカジノのある別邸を閉鎖し、自分の私兵と共に、その中に閉じこもったのである。これは彼にとっては主要な収入源を止める苦肉の策ではあったが、「防衛」と言う面に関しては十分に効果が期待できる策でもあった。
その甲斐もあって、籠城態勢に入ってからこの日まで、彼の前に不審者が現れるような事態は、一度も発生しなかった。
異常が無いとなると、緊張が緩んでいくのが人間の性(さが)である。
「ふあー……」「ふあ~ぁ……」
別邸内を見回っていた日吉の手下2人が、揃って欠伸する。いつもならこれ以上無いくらいに騒がしい別邸も、今はしんと静まり返っており、眠気を助長している。
「っべーな……立ったまま寝ちまうわ」
「だな」
「大体オヤジも人づかい荒いんだよ。自分は部屋ん中でじーっとしてるくせに、俺たち下っ端を昼も夜もこーやってウロウロさせてよ」
「たまんねーよな」
「何がヒットマンだよ。そりゃ確かに立て続けに3人殺されてるってのは聞いたけども、全部黄州とか白州とか、その辺の話だろ?」
「らしいな」
「玄州でどーのって話じゃねーし、ビビりすぎなんだよ。オヤジも歳だし、もうろくしちまったかな」
「かもな。……っと、悪い」
適当に相槌を打っていた相手が、ひょいと廊下の角を曲がる。
「どうした?」
「小便行ってくる」
「早めにな。二人一組にいないと、オヤジもオジキもうるせーから」
「分かってる」
廊下の三叉路でぽつんと一人になり、彼は懐から煙草を出す。
「……ふー」
一息吸い込み、辺りを見回したところで、「ヘッ」と悪態をつく。
「まったく心配性なんだから……監視カメラあっちこっち取り付けてんのに、さらに人に監視させてんだからよ。一服しねーとやってらんねーっての」
肩をすくめつつ、もう一息吸い込もうとしたところで――自分の周りに漂っていた煙草の紫煙が、廊下の奥へ流れていることに気付く。
「……お?」
良く見れば、手に持っている煙草から立ち上る煙も、同じ方向に流れている。
「窓全部閉めてるよな。エアコンも付けてな……」
言いかけたその瞬間――彼はばたりと、その場に倒れた。
「悪い悪い、ちっとコーヒー飲み過ぎた……」
と、そこへ用を足しに向かった相方が戻って来る。
「……おい!?」
目を丸くし、倒れた相方に駆け寄ろうとしたところで、彼も同じように倒れ込んだ。
《組長! 別邸で二人倒れてました!》
「なにっ!?」
手下からの電話を受け、日吉はスマホに向かって怒鳴った。
「来やがったか! 二人はどうした!?」
《死んではいませんが、目ぇ覚ましません。クスリか何かでやられたみたいです》
「別邸っつったな! どこで見つけた!?」
《2階のゲストルームとカードコーナーの間の廊下です!》
「おうッ! おいお前ら、警報鳴らせ! 別邸を固めろ!」
スマホを握りしめたまま、日吉は周囲の部下に命令し、包囲網を築かせる。
「ヒットマンは別邸2階、ゲストルーム手前の廊下だ! 全部封鎖しろ! 知らん顔がいたらすぐに撃ち殺せ! いいなッ!」
部下たちが慌ただしく彼の前から離れ、後には日吉と、黒ずくめのスーツに身を包み、重武装した護衛の4人だけとなった。
「……ふー」
屋敷中に響き渡る警報のけたたましい音に、日吉の重たげなため息が重なる。
「これで仕留めてくれりゃ、もう安心だが……ま、こっちは100人だ。兵隊1小隊が来たってんならともかく、コソコソ忍び込んでくるような輩だ。10人も20人もいやしねえだろ。……おい、シン。酒持って来てくれ。ウイスキーだ。ロックもな」
「あ、はい」
部下の一人が短機関銃を下ろして肩にかけ、そそくさと隣の部屋へ向かう。それを聞いていた他の部下が、心配そうな声を漏らした。
「オヤジ、酒はあんまり良くないって……」
「いいんだよ」
日吉は首を振り、椅子にもたれ込んだ。
「医者の言うこと一々真に受けてちゃ、まともに生活なんかできねえよ。『お仕事は一日3時間程度に』だの、『毎日1時間は歩き回れ』だの、普通の社会人がんなこと律儀にやってられるかってんだ」
「はあ……」
それ以上は口を開かず、部下たちは元通りに短機関銃を構え直した。その様子を眺めていた日吉が眉をひそめ、また声を荒げる。
「おい、シン? 酒持って来るだけでどんだけ時間かけてんだよ!? とっとと持って来いや!」
隣室に向かって怒鳴るが、返事は返ってこない。
「……シン? おい、何かあったのか?」
日吉の声色が、けげんなものに変わる。そのまま黙り込んだが――代わりに彼は、無言で部下たちに、隣室に向かうよう手で指し示した。
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仁義なき襲撃。
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手下たち3名が殺害されたことで、元々勘が鋭く奸智に長ける日吉は一連の襲撃が同一犯による犯行であること、そして目的が一貫していること――即ち自分の一派が狙われていることを悟り、早々に手を打っていた。他の篠雲会幹部たちとの接触を断ち、続いて自分の「城」である私邸、そして私邸に接続されたカジノのある別邸を閉鎖し、自分の私兵と共に、その中に閉じこもったのである。これは彼にとっては主要な収入源を止める苦肉の策ではあったが、「防衛」と言う面に関しては十分に効果が期待できる策でもあった。
その甲斐もあって、籠城態勢に入ってからこの日まで、彼の前に不審者が現れるような事態は、一度も発生しなかった。
異常が無いとなると、緊張が緩んでいくのが人間の性(さが)である。
「ふあー……」「ふあ~ぁ……」
別邸内を見回っていた日吉の手下2人が、揃って欠伸する。いつもならこれ以上無いくらいに騒がしい別邸も、今はしんと静まり返っており、眠気を助長している。
「っべーな……立ったまま寝ちまうわ」
「だな」
「大体オヤジも人づかい荒いんだよ。自分は部屋ん中でじーっとしてるくせに、俺たち下っ端を昼も夜もこーやってウロウロさせてよ」
「たまんねーよな」
「何がヒットマンだよ。そりゃ確かに立て続けに3人殺されてるってのは聞いたけども、全部黄州とか白州とか、その辺の話だろ?」
「らしいな」
「玄州でどーのって話じゃねーし、ビビりすぎなんだよ。オヤジも歳だし、もうろくしちまったかな」
「かもな。……っと、悪い」
適当に相槌を打っていた相手が、ひょいと廊下の角を曲がる。
「どうした?」
「小便行ってくる」
「早めにな。二人一組にいないと、オヤジもオジキもうるせーから」
「分かってる」
廊下の三叉路でぽつんと一人になり、彼は懐から煙草を出す。
「……ふー」
一息吸い込み、辺りを見回したところで、「ヘッ」と悪態をつく。
「まったく心配性なんだから……監視カメラあっちこっち取り付けてんのに、さらに人に監視させてんだからよ。一服しねーとやってらんねーっての」
肩をすくめつつ、もう一息吸い込もうとしたところで――自分の周りに漂っていた煙草の紫煙が、廊下の奥へ流れていることに気付く。
「……お?」
良く見れば、手に持っている煙草から立ち上る煙も、同じ方向に流れている。
「窓全部閉めてるよな。エアコンも付けてな……」
言いかけたその瞬間――彼はばたりと、その場に倒れた。
「悪い悪い、ちっとコーヒー飲み過ぎた……」
と、そこへ用を足しに向かった相方が戻って来る。
「……おい!?」
目を丸くし、倒れた相方に駆け寄ろうとしたところで、彼も同じように倒れ込んだ。
《組長! 別邸で二人倒れてました!》
「なにっ!?」
手下からの電話を受け、日吉はスマホに向かって怒鳴った。
「来やがったか! 二人はどうした!?」
《死んではいませんが、目ぇ覚ましません。クスリか何かでやられたみたいです》
「別邸っつったな! どこで見つけた!?」
《2階のゲストルームとカードコーナーの間の廊下です!》
「おうッ! おいお前ら、警報鳴らせ! 別邸を固めろ!」
スマホを握りしめたまま、日吉は周囲の部下に命令し、包囲網を築かせる。
「ヒットマンは別邸2階、ゲストルーム手前の廊下だ! 全部封鎖しろ! 知らん顔がいたらすぐに撃ち殺せ! いいなッ!」
部下たちが慌ただしく彼の前から離れ、後には日吉と、黒ずくめのスーツに身を包み、重武装した護衛の4人だけとなった。
「……ふー」
屋敷中に響き渡る警報のけたたましい音に、日吉の重たげなため息が重なる。
「これで仕留めてくれりゃ、もう安心だが……ま、こっちは100人だ。兵隊1小隊が来たってんならともかく、コソコソ忍び込んでくるような輩だ。10人も20人もいやしねえだろ。……おい、シン。酒持って来てくれ。ウイスキーだ。ロックもな」
「あ、はい」
部下の一人が短機関銃を下ろして肩にかけ、そそくさと隣の部屋へ向かう。それを聞いていた他の部下が、心配そうな声を漏らした。
「オヤジ、酒はあんまり良くないって……」
「いいんだよ」
日吉は首を振り、椅子にもたれ込んだ。
「医者の言うこと一々真に受けてちゃ、まともに生活なんかできねえよ。『お仕事は一日3時間程度に』だの、『毎日1時間は歩き回れ』だの、普通の社会人がんなこと律儀にやってられるかってんだ」
「はあ……」
それ以上は口を開かず、部下たちは元通りに短機関銃を構え直した。その様子を眺めていた日吉が眉をひそめ、また声を荒げる。
「おい、シン? 酒持って来るだけでどんだけ時間かけてんだよ!? とっとと持って来いや!」
隣室に向かって怒鳴るが、返事は返ってこない。
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