「双月千年世界 1;蒼天剣」
蒼天剣 第5部
蒼天剣・非道録 2
晴奈の話、第283話。
公安チームの懸念。
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2.
時刻は大会終了後に戻る。
ロウは真っ青な顔で、教会の居間に佇んでいた。
「シル……、みんな……」
どこを探しても、皆の姿は無い。ロウは途方に暮れ、一脚だけ無事だった椅子に腰かけた。
「一体、何があったんだよ……?」
まるで性質の悪いイタズラのような光景に、ロウは呆然としたままだった。
「……?」
と、真っ二つになったテーブルの下に、封筒が落ちていることに気付く。
ロウはテーブルの下から手紙を抜き取り、中身を読んだ。
「ウィアードのクソ野郎様へ
お前の家族はみんな預かった。
どうしても返してほしいってんなら、夜10時に第1港湾区ガヤルド大倉庫B―1に来い。
誰かに知らせたり、連れて来たりした場合、預かった奴らは殺す。
本当のキング ピサロ・クラウン」
手紙を握り潰し、ロウは震える声で叫ぶ。
「あ……んの……、野郎おおおッ!」
ロウは倉庫から革紐を取り出し、三節棍の切れた鎖をつなぎ直す。
「ふざけてんじゃねえぞ……! オレの家族に手を出しやがったらどうなるか、教えてやらあああああッ!」
三節棍の応急処置を終え、ロウはすぐに港へと走り出した。
一方、こちらは晴奈一行。
フェリオは晴奈と楢崎に協力を要請した後、共に観戦していたエランとシリンも呼び、金火公安の本庁、公安局へと連れて来た。
「本当なんですか、バート先輩の連絡が取れないって」
「ウソ付くかよ、んなコトで! マジだよ、マジ!
ともかく、もうそろそろクラウンのアジトへ強制捜査が入るはずだ! 情報を手に入れ次第、オレたちも向かうぞ!」
全員の足が動きかけたところで、エランと一緒にいたフォルナが提案する。
「あの、それよりも」
「ん?」
「倉庫の方、当たってみてはいかがでしょうか?」
「何で?」
フォルナはエランの手を引き、論拠を示す。
「前回わたくしがさらわれた際、エランとシリン、そしてあなたは倉庫に来てくださいましたよね?」
「そうだけど、ソレとコレとは別件だろ?」
「もう一つエランから伺ったのですが、まだ誘拐された方たちと言うのは見つかっていない、とのことでしたわよね?」
「……そうだけど? ソレ、ドコから聞いたんスか?」
尋ねたフェリオに、フォルナはとん、とエランの肩を叩く。
「てめーなぁ、機密情報ばらしてんじゃねーよ」
「ご叱責は後程お受けします。それよりも――こちらもエランから伺いましたけれど――クラウンのアジトでも、見つかっていないと聞いています」
「えーえー、そうっスよ。オレらの機密、一杯知ってんスねぇ」
フェリオが苛立った様子を見せるのにも構わず、フォルナはこう続ける。
「バートさんは、なかなか優秀な捜査官だと伺っております。なのに、彼らのアジト内で誘拐された方たちを発見できなかった、と言うのは……?」
「だから、ソレが何なんスか?」
「クラウン一味は、誘拐した人たちをどこか別の場所に閉じ込めているのでは無いでしょうか? そしてほぼ確実に、バートさんも同様に閉じ込められていると思います」
「まあ、ソレは考えられなくは無いっスけどもね。でも、だからって倉庫にいるかも、って言うのは短絡的じゃないっスか?」
フェリオは納得が行かないらしく、反論してくる。
と――。
「私もフォルナさんに同意見よ」
「え」
晴奈たちの輪に、赤毛で眼鏡の、ベストを着た短耳の女性が入ってきた。
「ボス、何でっスか?」
「よく考えてみて、フェリオ君。クラウン一味のアジトは第1工業区と第1港商業区の境目、通称『裏通り』にあるのよ。すぐ近くに第1港湾区、つまり先ほどフォルナさんが挙げた倉庫群もある。
誘拐や殺人と言った重大な悪事が秘密裏に行われる傾向が強いのは言うまでも無いし、本拠地から近ければ近いほど、隠蔽工作は行いやすい。
状況的に考えても、現在使われていない古い倉庫に閉じ込められている可能性は、非常に高いわ」
「なる、ほど……」
フォルナの意見を疑い深く聞いていたフェリオは、この女性には素直に従った。
「あの、あなたは?」
フォルナに尋ねられた女性は、目を細めて会釈した。
「はじめまして。私はジュリア・スピリット。金火公安の警部です。現在、クラウン一味に対する捜査チームを指揮しています。
こちらのフェリオ君とエラン君、そしてバート君は私のチームの構成員です」
「そうでしたか」
ぺこりと頭を下げるフォルナを一瞥し、ジュリアはフェリオに向き直る。
「それで、フェリオ君。何故、この人たちを?」
目を細めてにらむジュリアに、フェリオはばつが悪そうな表情を返す。
「あ、えっと、彼らはオレの友人でして、腕の方も立つので」
「少しばかり頭や腕に自信があっても、捜査となれば話は別よ。民間人は帰しなさい」
冷たく言い放ったジュリアに、シリンがカチンと来た。
「何やそれ? 折角助けたろ思たのに、そんな言い方……」「何度も言いますが、助けは必要ありません。我々は捜査のプロですから」
「へーぇ、そのプロが捕まっとるんやろ?」
ジュリアの目がピク、といらだたしげに動く。が、あくまで冷静な口調で切り返す。
「少なくとも素人よりはまだましな働きをします。
それにあなた方は、闘技場でのクラウンしかご存じないのでしょう? であれば、恐らく罠に絡め取られて返り討ちに遭う危険性が高い。むざむざ、民間人を危険な目に遭わせるわけには行きませんから」
「罠だと? あの愚劣なクラウンが?」
晴奈がけげんな口調で尋ねると、ジュリアはため息をつきながら答えた。
「闘技場のクラウンは確かに、下劣で策も技術も無い、あなた方から見れば取るに足らない男でしょう。
しかし、裏社会のクラウンは相当に卑劣で、残忍極まりない要注意人物であり、正真正銘の重犯罪者です。事実、闘技場で彼を下した選手がエリザリーグ優勝後に突如として行方不明になった、あるいは暴漢に襲われる、突然の事故に遭うなどして二度と出場できない体になった、……と言うような事例は、決して少なくありません。
あなた方が無事でいられるのは、この街に家族もなく、旅の者であり、初出場でマークされていなかった、……と言う、幸運とも言うべきいくつかの理由からでしょう」
それを聞いて、楢崎がうなずく。
「なるほど。確かにミーシャくんはこの街で気ままに一人暮らししているから脅す材料が無いし、僕も黄くんも旅の者で、今回が初出場だった。狙いにくかったわけだね」
「ええ。……その点で言えば、非常に気がかりなのがウィアードさんなのですが」
「確かに。この街に家族がいるし、今回2連覇しているからね。……帰して、大丈夫だったんだろうか?」
楢崎の不安を聞いて、晴奈も心配になる。
「そうですね……、ジュリア殿も我々がいては邪魔になると言っておりますし、ロウの安否を確認した方がいいかも知れません。
我々はひとまず、教会に向かいましょうか」
晴奈たちはフェリオに別れを告げ、教会へと急いだ。
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公安チームの懸念。
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時刻は大会終了後に戻る。
ロウは真っ青な顔で、教会の居間に佇んでいた。
「シル……、みんな……」
どこを探しても、皆の姿は無い。ロウは途方に暮れ、一脚だけ無事だった椅子に腰かけた。
「一体、何があったんだよ……?」
まるで性質の悪いイタズラのような光景に、ロウは呆然としたままだった。
「……?」
と、真っ二つになったテーブルの下に、封筒が落ちていることに気付く。
ロウはテーブルの下から手紙を抜き取り、中身を読んだ。
「ウィアードのクソ野郎様へ
お前の家族はみんな預かった。
どうしても返してほしいってんなら、夜10時に第1港湾区ガヤルド大倉庫B―1に来い。
誰かに知らせたり、連れて来たりした場合、預かった奴らは殺す。
本当のキング ピサロ・クラウン」
手紙を握り潰し、ロウは震える声で叫ぶ。
「あ……んの……、野郎おおおッ!」
ロウは倉庫から革紐を取り出し、三節棍の切れた鎖をつなぎ直す。
「ふざけてんじゃねえぞ……! オレの家族に手を出しやがったらどうなるか、教えてやらあああああッ!」
三節棍の応急処置を終え、ロウはすぐに港へと走り出した。
一方、こちらは晴奈一行。
フェリオは晴奈と楢崎に協力を要請した後、共に観戦していたエランとシリンも呼び、金火公安の本庁、公安局へと連れて来た。
「本当なんですか、バート先輩の連絡が取れないって」
「ウソ付くかよ、んなコトで! マジだよ、マジ!
ともかく、もうそろそろクラウンのアジトへ強制捜査が入るはずだ! 情報を手に入れ次第、オレたちも向かうぞ!」
全員の足が動きかけたところで、エランと一緒にいたフォルナが提案する。
「あの、それよりも」
「ん?」
「倉庫の方、当たってみてはいかがでしょうか?」
「何で?」
フォルナはエランの手を引き、論拠を示す。
「前回わたくしがさらわれた際、エランとシリン、そしてあなたは倉庫に来てくださいましたよね?」
「そうだけど、ソレとコレとは別件だろ?」
「もう一つエランから伺ったのですが、まだ誘拐された方たちと言うのは見つかっていない、とのことでしたわよね?」
「……そうだけど? ソレ、ドコから聞いたんスか?」
尋ねたフェリオに、フォルナはとん、とエランの肩を叩く。
「てめーなぁ、機密情報ばらしてんじゃねーよ」
「ご叱責は後程お受けします。それよりも――こちらもエランから伺いましたけれど――クラウンのアジトでも、見つかっていないと聞いています」
「えーえー、そうっスよ。オレらの機密、一杯知ってんスねぇ」
フェリオが苛立った様子を見せるのにも構わず、フォルナはこう続ける。
「バートさんは、なかなか優秀な捜査官だと伺っております。なのに、彼らのアジト内で誘拐された方たちを発見できなかった、と言うのは……?」
「だから、ソレが何なんスか?」
「クラウン一味は、誘拐した人たちをどこか別の場所に閉じ込めているのでは無いでしょうか? そしてほぼ確実に、バートさんも同様に閉じ込められていると思います」
「まあ、ソレは考えられなくは無いっスけどもね。でも、だからって倉庫にいるかも、って言うのは短絡的じゃないっスか?」
フェリオは納得が行かないらしく、反論してくる。
と――。
「私もフォルナさんに同意見よ」
「え」
晴奈たちの輪に、赤毛で眼鏡の、ベストを着た短耳の女性が入ってきた。
「ボス、何でっスか?」
「よく考えてみて、フェリオ君。クラウン一味のアジトは第1工業区と第1港商業区の境目、通称『裏通り』にあるのよ。すぐ近くに第1港湾区、つまり先ほどフォルナさんが挙げた倉庫群もある。
誘拐や殺人と言った重大な悪事が秘密裏に行われる傾向が強いのは言うまでも無いし、本拠地から近ければ近いほど、隠蔽工作は行いやすい。
状況的に考えても、現在使われていない古い倉庫に閉じ込められている可能性は、非常に高いわ」
「なる、ほど……」
フォルナの意見を疑い深く聞いていたフェリオは、この女性には素直に従った。
「あの、あなたは?」
フォルナに尋ねられた女性は、目を細めて会釈した。
「はじめまして。私はジュリア・スピリット。金火公安の警部です。現在、クラウン一味に対する捜査チームを指揮しています。
こちらのフェリオ君とエラン君、そしてバート君は私のチームの構成員です」
「そうでしたか」
ぺこりと頭を下げるフォルナを一瞥し、ジュリアはフェリオに向き直る。
「それで、フェリオ君。何故、この人たちを?」
目を細めてにらむジュリアに、フェリオはばつが悪そうな表情を返す。
「あ、えっと、彼らはオレの友人でして、腕の方も立つので」
「少しばかり頭や腕に自信があっても、捜査となれば話は別よ。民間人は帰しなさい」
冷たく言い放ったジュリアに、シリンがカチンと来た。
「何やそれ? 折角助けたろ思たのに、そんな言い方……」「何度も言いますが、助けは必要ありません。我々は捜査のプロですから」
「へーぇ、そのプロが捕まっとるんやろ?」
ジュリアの目がピク、といらだたしげに動く。が、あくまで冷静な口調で切り返す。
「少なくとも素人よりはまだましな働きをします。
それにあなた方は、闘技場でのクラウンしかご存じないのでしょう? であれば、恐らく罠に絡め取られて返り討ちに遭う危険性が高い。むざむざ、民間人を危険な目に遭わせるわけには行きませんから」
「罠だと? あの愚劣なクラウンが?」
晴奈がけげんな口調で尋ねると、ジュリアはため息をつきながら答えた。
「闘技場のクラウンは確かに、下劣で策も技術も無い、あなた方から見れば取るに足らない男でしょう。
しかし、裏社会のクラウンは相当に卑劣で、残忍極まりない要注意人物であり、正真正銘の重犯罪者です。事実、闘技場で彼を下した選手がエリザリーグ優勝後に突如として行方不明になった、あるいは暴漢に襲われる、突然の事故に遭うなどして二度と出場できない体になった、……と言うような事例は、決して少なくありません。
あなた方が無事でいられるのは、この街に家族もなく、旅の者であり、初出場でマークされていなかった、……と言う、幸運とも言うべきいくつかの理由からでしょう」
それを聞いて、楢崎がうなずく。
「なるほど。確かにミーシャくんはこの街で気ままに一人暮らししているから脅す材料が無いし、僕も黄くんも旅の者で、今回が初出場だった。狙いにくかったわけだね」
「ええ。……その点で言えば、非常に気がかりなのがウィアードさんなのですが」
「確かに。この街に家族がいるし、今回2連覇しているからね。……帰して、大丈夫だったんだろうか?」
楢崎の不安を聞いて、晴奈も心配になる。
「そうですね……、ジュリア殿も我々がいては邪魔になると言っておりますし、ロウの安否を確認した方がいいかも知れません。
我々はひとまず、教会に向かいましょうか」
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もくじ
双月千年世界 目次 / あらすじ

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短編・掌編

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雑記

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