「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第3部
緑綺星・闇討譚 1
シュウの話、第88話。
憂鬱な目覚め。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
「……う……」
フロントガラスからのこつん、こつんと言う音で、七瀬は目を覚ました。
「……やめてよ」
正面に視線を移し、フロントガラスを小鳥がくちばしでつついているのを見て、七瀬はクラクションをちょん、と押した。ビッ、と甲高い音が辺り一面に響き渡り、小鳥は慌てた様子で飛び去っていった。
「……な……なせ……さん」
助手席に座っていた海斗も目を覚まし、首をだらんと向けてくる。
「……ここ……王国?」
「多分ね。……よっしゃ、スマホもパソコンも無事みたいね」
七瀬はかばんの中からノートパソコンを取り出し、起動させる。
(今の時刻は……正午ちょい前。アイツらの態度からして、あたしたちをドコかから監視してるはず。ってコトは……)
見透かしたように、七瀬のスマホが鳴る。
(……ハラ立つわね)
TtTの友達一覧に「クライアント」と言う名前が追加されているのを見て、七瀬は悪態をつく。
「誰がアンタなんかと友達になるかっての」
「中身は?」
「『そろそろお目覚めでしょうか? 只今よりカウントを開始いたします。6時間毎に残り時間をお知らせいたします』、だって。何から何まで心底ウザいわね」
「じゃ、今から行動開始?」
「そーなるわね。……海斗、GPSでここの位置出せる?」
「ん」
頼む前に探ってくれていたらしく、海斗がスマホの画面を向けてくる。
「……綾峰郡丹笹町。王国国境付近、ね。あのクソ野郎、マジで焔紅王国に『入ったところ』で下ろしやがったわね」
「って言うか国境線の柵、クルマの真後ろ……だね」
「フン、一々一々やるコトなすコト、ご丁寧な仕事ぶりだコト!」
毒づきながらも車の様子を確かめ、七瀬はさらに毒を吐いた。
「ガソリンもバッテリーも満タンにした上に、クルマん中も外もぜーんぶ掃除してあるし。見てよコレ、弁当箱までキレイに洗ってあるわよ」
「そこまでするんなら、もっとちゃんとしたところに送ってほしいよね」
「ホントよね」
と、ダッシュボードに封筒が置かれていることに気付き、七瀬は中身を確認した。
「で、コイツが今回の標的、大野侃志ね。41歳の農学博士で未婚、家族なし。土壌に関する研究、とりわけ土壌の成分分析や土壌改善に関する分野で活躍、……と。住所は紅農技研のある桜雪市にあるが、ほとんど帰っていない模様、……典型的な学問系オタクのおっさんって感じね」
「じゃ、大野博士……だっけ。その人、研究所にいるのかな」
「多分そーね。でも研究所内に忍び込んで殺したりなんかしたら、クライアントの意向には沿わないでしょうね」
不満たらたらではあったものの、七瀬と海斗は気分を入れ替え、仕事の話を始めた。
「うわ、直近1ヶ月間の移動ルートまで調べてあんの? ……って、ほぼ一本線じゃん」
「こっちが研究所で、こっちが家? ほとんど寄り道してないね」
「せいぜい週末にスーパー寄って、帰りに公園で一杯やるくらいね。で、風曜、天曜は一歩も外に出てない。マジで無趣味なのね」
「出勤は8時半から9時の間、それは変わんないみたいだけど、帰宅時間はバラバラだね。6時台だったり、日付またいだり」
「とは言え人目もあるし、出勤時間に狙うのは危ないわね」
「分かってる。やるなら夜」
「こっちも目立ちたくないし。……っと」
またフロントガラスに鳥が寄って来たところで、七瀬は車のエンジンをかける。
「いつまでもこんな道はずれに停まってたら、通報されかねないわね。とりあえずクルマ停められるホテルかどっか見付けましょ」
「ん、探しとく」
海斗がスマホに視線を落とすと同時に、七瀬は車を発進させた。
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憂鬱な目覚め。
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「……う……」
フロントガラスからのこつん、こつんと言う音で、七瀬は目を覚ました。
「……やめてよ」
正面に視線を移し、フロントガラスを小鳥がくちばしでつついているのを見て、七瀬はクラクションをちょん、と押した。ビッ、と甲高い音が辺り一面に響き渡り、小鳥は慌てた様子で飛び去っていった。
「……な……なせ……さん」
助手席に座っていた海斗も目を覚まし、首をだらんと向けてくる。
「……ここ……王国?」
「多分ね。……よっしゃ、スマホもパソコンも無事みたいね」
七瀬はかばんの中からノートパソコンを取り出し、起動させる。
(今の時刻は……正午ちょい前。アイツらの態度からして、あたしたちをドコかから監視してるはず。ってコトは……)
見透かしたように、七瀬のスマホが鳴る。
(……ハラ立つわね)
TtTの友達一覧に「クライアント」と言う名前が追加されているのを見て、七瀬は悪態をつく。
「誰がアンタなんかと友達になるかっての」
「中身は?」
「『そろそろお目覚めでしょうか? 只今よりカウントを開始いたします。6時間毎に残り時間をお知らせいたします』、だって。何から何まで心底ウザいわね」
「じゃ、今から行動開始?」
「そーなるわね。……海斗、GPSでここの位置出せる?」
「ん」
頼む前に探ってくれていたらしく、海斗がスマホの画面を向けてくる。
「……綾峰郡丹笹町。王国国境付近、ね。あのクソ野郎、マジで焔紅王国に『入ったところ』で下ろしやがったわね」
「って言うか国境線の柵、クルマの真後ろ……だね」
「フン、一々一々やるコトなすコト、ご丁寧な仕事ぶりだコト!」
毒づきながらも車の様子を確かめ、七瀬はさらに毒を吐いた。
「ガソリンもバッテリーも満タンにした上に、クルマん中も外もぜーんぶ掃除してあるし。見てよコレ、弁当箱までキレイに洗ってあるわよ」
「そこまでするんなら、もっとちゃんとしたところに送ってほしいよね」
「ホントよね」
と、ダッシュボードに封筒が置かれていることに気付き、七瀬は中身を確認した。
「で、コイツが今回の標的、大野侃志ね。41歳の農学博士で未婚、家族なし。土壌に関する研究、とりわけ土壌の成分分析や土壌改善に関する分野で活躍、……と。住所は紅農技研のある桜雪市にあるが、ほとんど帰っていない模様、……典型的な学問系オタクのおっさんって感じね」
「じゃ、大野博士……だっけ。その人、研究所にいるのかな」
「多分そーね。でも研究所内に忍び込んで殺したりなんかしたら、クライアントの意向には沿わないでしょうね」
不満たらたらではあったものの、七瀬と海斗は気分を入れ替え、仕事の話を始めた。
「うわ、直近1ヶ月間の移動ルートまで調べてあんの? ……って、ほぼ一本線じゃん」
「こっちが研究所で、こっちが家? ほとんど寄り道してないね」
「せいぜい週末にスーパー寄って、帰りに公園で一杯やるくらいね。で、風曜、天曜は一歩も外に出てない。マジで無趣味なのね」
「出勤は8時半から9時の間、それは変わんないみたいだけど、帰宅時間はバラバラだね。6時台だったり、日付またいだり」
「とは言え人目もあるし、出勤時間に狙うのは危ないわね」
「分かってる。やるなら夜」
「こっちも目立ちたくないし。……っと」
またフロントガラスに鳥が寄って来たところで、七瀬は車のエンジンをかける。
「いつまでもこんな道はずれに停まってたら、通報されかねないわね。とりあえずクルマ停められるホテルかどっか見付けましょ」
「ん、探しとく」
海斗がスマホに視線を落とすと同時に、七瀬は車を発進させた。
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