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    「双月千年世界 5;緑綺星」
    緑綺星 第3部

    緑綺星・闇討譚 4

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    シュウの話、第91話。
    黒ずくめの正体。

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    4.
     猫獣人に素直に従い、七瀬は自分の車を離れ、相手のものらしい黒いバンに乗り込む。猫獣人も乗り込んだところで、彼は既に乗り込んでいた仲間――黒ずくめの狼獣人に声をかけた。
    「だからエヴァさん、何度も言ったはずですけど、ちゃんと体拭いて乗り込んで下さいってば。掃除、大変なんですから」
    「防水性なんだからいいだろう? それに今は仕事中だ。細かいことは気にしてられん」
    「んもう、これだから兵隊崩れは……。っと、自己紹介が遅れました。僕はラモン・ミリアン。そっちの『狼』はエヴァンジェリン・アドラーさんです。お名前、聞いてもいいですか?」
    「……橘七瀬よ」
    「こっちの長耳は?」
     エヴァに尋ねられ、そこでようやく七瀬は、後部座席に寝かせられた海斗を見付けた。
    「橘海斗。……生きてんでしょうね?」
    「無論だ。姓が同じようだが、親子か?」
    「義理だけどね」
    「息子に人殺しをさせてるのか?」
     その言葉に、七瀬は鼻をフンと鳴らして返す。
    「色々あんのよ。家庭の事情に首突っ込まないでちょうだい」
    「……まあ、そうだな。そんな議論のために、わざわざ央南まで来たんじゃない。私の目的はあんただ、オーノ博士」
    「は、はい!?」
     海斗同様、エヴァに連れて来られたらしい大野博士が、びくっと体を震わせる。
    「誤解しないでほしいが、私たちにはあんたを殺すつもりもさらうつもりも無い。まず経緯を説明しておこう。私たちは……」
     説明しかけたエヴァに、ラモンが突っ込みを入れる。
    「僕を勘定に入れないで下さい。僕はあくまであなたに雇われた身です」
    「そうだったな、訂正する。私は1年前から裏社会に身を投じ、白猫党の壊滅のために活動していた。その過程で白猫党があんたの調査をしきりに行っていたこと、あんたの殺害とあんたの調査・研究記録の全抹消を、党の央南支部に指示していたことが分かった。
     発令されたのは2週間ほど前だ。すぐに私は央南に飛び、研究所にあったあんたのパソコンの全データを数日前、コピーさせてもらった。そこから今日までにどんな研究がどれくらい進んでいるのかは知らないが、ほぼバックアップは取れていると考えていいだろう。だが正直、我々がその内容を確認しても、何を意味しているのかはさっぱり分からなかった。となればあんたに直接話を聞くしかなかったが、私も白猫党に追われる身だからな。下手に接触して戦闘になるようなことは避けたかった。
     だから今日まであんたの周辺をそれとなく回りつつ、監視の目がないところで接触できるタイミングを図っていたんだが……」
     そこでまだ横たわったままの海斗に目をやり、エヴァは肩をすくめた。
    「暗殺者に狙われたとあっては、流石に守らないわけには行かない。結果的にこうして、多少乱暴な接触にはなってしまったが――ともかく会えたからには教えてほしい。
     オーノ博士、あんたは難民特区で何を見つけた? 白猫党があんたを狙う理由は何だ?」
    「……」
     一転、大野博士は神妙な顔になり、ぐしょぐしょになっていたジャージの襟を正した。
    「えっと……エヴァさん? でしたっけ、以前に、あの、難民特区でお会いしましたよね」
    「ああ」
    「あの時から薄々、『あれっ?』『もしかして?』って思ってたことだったんですけど、あの時はまだ確証が持てなくって、新聞社の方にもこの話は、お伝えしてないんです」
    「それは何だ?」
    「えーと、まあ、土壌の酸性値がですね、かなり低くて、あの、低いと酸性ってことなんですけども、あの土地がですね、異様に酸性値が低かったんです。どうも地中の埋蔵物が影響してるんじゃないかって。でですね」「博士」
     エヴァは明らかに苛立った様子で、大野博士に詰め寄った。
    「結論から言ってくれないか? ズバリ、あの土地には何があるんだ? 古代超文明の遺跡でもあるのか?」
    「いやいやいや、そんなんじゃないです。あのですね、その、石油なんじゃないかって」
    「石油? 油田があんな荒廃した土地のど真ん中にあるって言うのか?」
     面食らった様子を見せたエヴァに、やはりしどろもどろながらも博士は説明を続ける。
    「はい、現時点でかなり、可能性は高いものと見ています。直近の、あの、4ヶ月前くらいのボーリング調査でも、頁岩層の中に石油状物質を相当な割合で確認できてまして」
    「どのくらいの埋蔵量だ? 白猫党がわざわざ狙うほどの量があると?」
    「正確な量は分かりません。なにぶん、地中の話ですから。でも酸性値の異様な低さと、それが相当な広範囲に分布していることから考えて、少なくとも1億トン以上は……」
    「1億トン!?」
     この数字を聞いて、まだ気を失ったままの海斗を除く全員が仰天した。

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    諸説ありますが、石油が埋蔵されている地域には、
    (現在の科学では)特に規則性や条件が見出せないんだとか。
    中東やシベリアに油田があるのは、科学的には
    「たまたまそこに溜まってた」以上の説明が付けられないそうです。
    中東の偉い人いわく、「この地に油田があるのはアッラーの賜物だから」だそうですが、
    実際、現代人類の知見では、それ以上に納得行くような解釈はできません。

    そもそも人類は空の果てに対しても地の底に対しても、
    「すべてを理解している」と豪語できるような知識を未だ獲得していません。
    月の裏には何があるのか? 地球にマグマが存在するのは何故なのか?
    現代科学では結局「~があるとされている」「~と見られている」と言うような、実体のない、
    仮説レベルのふんわり、ぼんやりとした説明でお茶を濁していることがほとんどです。

    ですので――明日、世界のどこに新たな油田が発見されるのかなどと言う話もまた、
    誰にも明言することはできないのです。
    もしかしたら本当にどこかの都市部の地下、例えば地下鉄工事か何かをしている最中に、
    うっかり掘り出してしまうようなことだって、無いとは言い切れないのです。
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