「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第3部
緑綺星・闇討譚 5
シュウの話、第92話。
狙われる難民特区。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
5.
「いちおく……1億トンって、……ええと……」
「トラス王国の年間消費量が20万トンとか30万トンくらいですね。ネットの情報ですけど」
ラモンがスマホを眺めながら、ある程度の目安を説明する。
「だからざっくり計算すると、300年分以上に相当しますね」
「さんびゃくねん!?」
七瀬とエヴァの声がハモり、顔を見合わせる。
「そりゃ白猫党が全力で狙いに来るわけだ」
「そんな超巨大油田を軍事国家が確保したりなんかしたら、好き放題できるもんね」
「となると我々の身も危ういかも知れない。下手すれば世界経済がほんの数日で引っくり返りかねない情報を握るオーノ博士に、監視の目が付いていないわけがないからな」
「ソレは多分、無いと思うわ」
七瀬の言葉に、エヴァが「なに?」と声を上げる。
「監視されてるって言うなら、海斗が暗殺失敗した時点で何かしらの介入があるはずよ。例えばこのバンをロケット砲かなんかで撃っちゃえば――まあ、アレコレごまかす手間はいるだろうけど――まとめて片が付くワケだし。なのに未だに、コイツからの連絡すら無いもん。標的とそのボディガードと一緒に話し込んでるなんてこんなイレギュラーな事態、把握してたら連絡くらいするでしょ?」
そう言ってTtTの友達一覧を見せながら、七瀬はこれまでの経緯をエヴァたちに説明した。
「……そうか、娘を人質に取られていたのか」
「話から察するに、そいつらも白猫党っぽいですね。こそこそーっと代理立ててけしかけるってのが、いかにもって感じですよ」
「しかし……となると困ったな」
エヴァはスモークガラス越しにバンの外を確認しつつ、バンの中を一瞥する。
「いつまでも敵がこの状況に気付かないはずがない。気付けばそれこそ銃撃・砲撃されかねない」
「場所を移動しますか?」
「その場しのぎにしかならない。ナナセのスマホで位置は探知できる。相手がここに来れば、容易に状況を把握されてしまうだろう。と言って電源を切るのも得策じゃないだろう。唐突にそんなことをすれば、それこそ異状を察知して駆けつけるだろうしな」
「……じゃ、どうするんです?」
ラモンに渋い顔をされ、エヴァはしばらく考え込んでいたが――やがて、「ふむ」とうなった。
「そもそもオーノ博士が今狙われているのは、白猫党が石油利権を独占するため、秘密裏に処理しようと目論んでいるからだ。であれば秘密にできない状況に持ち込んでしまえばいい」
「と言うと?」
ラモンに答える代わりに、エヴァは大野博士にスマホを向けた。
「博士。今からあんたに、さっきの石油の件についてもう一度説明してもらい、それを撮影する。その動画を私のツテで、全世界に向けて配信してもらえば、もう周知の事実になる。白猫党の隠蔽工作は破綻すると言うわけだ」
「は、はぁ」
「と言うわけでもう一度――今度はなるべく簡潔に――話してくれ」
そう念押ししたものの、やはり大野博士の話は回りくどく、冗長的になった。それでもどうにか録画し終え、エヴァは旧友――即ち今をときめくクラウダー、シュウ・メイスンに送信した。
「これでよし。後はシュウが上手くやってくれる、……はずだ」
「だといいんですが……はぁ」
と――唐突に、車のサイドドアがノックされた。
「……!?」
訪ねてくる人間がいるはずもなく、車内に緊張が走る。
「誰だ……?」
「さ、さあ?」
恐る恐る、ラモンが窓を開ける。そこに現れたのはエヴァに負けず劣らずの、黒ずくめの少女だった。
「ココにエヴァンジェリン・アドラーがいるだろ?」
尋ねた少女に、エヴァが答える。
「私だ」
「やっと会えたな」
そう返し、少女はドアをもう一度叩く。
「開けろ」
「い……嫌っス」
答えたラモンをにらみつけ、少女がもう一度同じことを命じる。
「開けろよ」
「閉めろ、ラモン。素性の分からん奴に応じるな」
エヴァの答えに、少女は元々から吊り気味だった目をさらに尖らせる。
「じゃ、実力行使させてもらうぜ。『テレポート』」
次の瞬間、車全体が浮き上がる感覚を覚え――。
「なっ……!?」
気付けば車ごと、どこか別の場所に移動させられていた。
緑綺星・闇討譚 終
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「いちおく……1億トンって、……ええと……」
「トラス王国の年間消費量が20万トンとか30万トンくらいですね。ネットの情報ですけど」
ラモンがスマホを眺めながら、ある程度の目安を説明する。
「だからざっくり計算すると、300年分以上に相当しますね」
「さんびゃくねん!?」
七瀬とエヴァの声がハモり、顔を見合わせる。
「そりゃ白猫党が全力で狙いに来るわけだ」
「そんな超巨大油田を軍事国家が確保したりなんかしたら、好き放題できるもんね」
「となると我々の身も危ういかも知れない。下手すれば世界経済がほんの数日で引っくり返りかねない情報を握るオーノ博士に、監視の目が付いていないわけがないからな」
「ソレは多分、無いと思うわ」
七瀬の言葉に、エヴァが「なに?」と声を上げる。
「監視されてるって言うなら、海斗が暗殺失敗した時点で何かしらの介入があるはずよ。例えばこのバンをロケット砲かなんかで撃っちゃえば――まあ、アレコレごまかす手間はいるだろうけど――まとめて片が付くワケだし。なのに未だに、コイツからの連絡すら無いもん。標的とそのボディガードと一緒に話し込んでるなんてこんなイレギュラーな事態、把握してたら連絡くらいするでしょ?」
そう言ってTtTの友達一覧を見せながら、七瀬はこれまでの経緯をエヴァたちに説明した。
「……そうか、娘を人質に取られていたのか」
「話から察するに、そいつらも白猫党っぽいですね。こそこそーっと代理立ててけしかけるってのが、いかにもって感じですよ」
「しかし……となると困ったな」
エヴァはスモークガラス越しにバンの外を確認しつつ、バンの中を一瞥する。
「いつまでも敵がこの状況に気付かないはずがない。気付けばそれこそ銃撃・砲撃されかねない」
「場所を移動しますか?」
「その場しのぎにしかならない。ナナセのスマホで位置は探知できる。相手がここに来れば、容易に状況を把握されてしまうだろう。と言って電源を切るのも得策じゃないだろう。唐突にそんなことをすれば、それこそ異状を察知して駆けつけるだろうしな」
「……じゃ、どうするんです?」
ラモンに渋い顔をされ、エヴァはしばらく考え込んでいたが――やがて、「ふむ」とうなった。
「そもそもオーノ博士が今狙われているのは、白猫党が石油利権を独占するため、秘密裏に処理しようと目論んでいるからだ。であれば秘密にできない状況に持ち込んでしまえばいい」
「と言うと?」
ラモンに答える代わりに、エヴァは大野博士にスマホを向けた。
「博士。今からあんたに、さっきの石油の件についてもう一度説明してもらい、それを撮影する。その動画を私のツテで、全世界に向けて配信してもらえば、もう周知の事実になる。白猫党の隠蔽工作は破綻すると言うわけだ」
「は、はぁ」
「と言うわけでもう一度――今度はなるべく簡潔に――話してくれ」
そう念押ししたものの、やはり大野博士の話は回りくどく、冗長的になった。それでもどうにか録画し終え、エヴァは旧友――即ち今をときめくクラウダー、シュウ・メイスンに送信した。
「これでよし。後はシュウが上手くやってくれる、……はずだ」
「だといいんですが……はぁ」
と――唐突に、車のサイドドアがノックされた。
「……!?」
訪ねてくる人間がいるはずもなく、車内に緊張が走る。
「誰だ……?」
「さ、さあ?」
恐る恐る、ラモンが窓を開ける。そこに現れたのはエヴァに負けず劣らずの、黒ずくめの少女だった。
「ココにエヴァンジェリン・アドラーがいるだろ?」
尋ねた少女に、エヴァが答える。
「私だ」
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そう返し、少女はドアをもう一度叩く。
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