「双月千年世界 5;緑綺星」
緑綺星 第3部
緑綺星・暗星譚 1
シュウの話、第93話。
逆襲の時。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
1.
「話は分かった」
エヴァと七瀬の話を聞き終え、天狐は小さくうなずいて返した。
「大野博士については、天狐ゼミで保護してやる。フェロー(特別研究員)とでも言っときゃいいだろ。紅農技研には『オレが来いっつって連れてきた』って言っときゃ、ソレで納得すんだろ。七瀬のスマホも今、一聖と鈴林が位置情報システムをごまかしてるトコだ。腕は確かだから、こっちも問題ないだろう。ついでに七瀬のクルマも持って来てやった。明日にはミッドランドで走れるよう、車輌登録しといてやる。
その他、とりあえずの住む場所だとか何だかも、言ってくれりゃソレなりに手配する。オレと一聖が無理矢理連れてきたんだし、石油の件はマジで大事(おおごと)だからな。知らせてくれた分の礼はさせてもらう」
そこで言葉を切り、天狐は七瀬と海斗に目を向けた。
「で、問題はお前らの家族だな」
「ええ。美園も保護しなきゃ」
「だが、ソコが一番の問題でもある」
と、スマホの細工を終えたらしく、一聖が会話に入ってくる。
「お前さんから住所聞いて家に行ってみたが、誰もいなかった。近所やら学校やらをこっそり探ったが、どうやら1週間以上前、つまり七瀬たちが前の依頼に取り掛かってる間にさらわれたらしい。スマホも電源切られてるらしくて、位置情報が割り出せねえ」
「そんな……」
一聖の説明に、七瀬は頭を抱える。と、そこで一聖がニヤッと口元を歪めた。
「だが相手はいっこ、とんでもないしくじりをやらかしてる」
「え?」
「七瀬のTtTに友達登録してるコトさ。しかも6時間に1回、ご丁寧に連絡して来てやがる。そのアカウントと送信記録を解析したところ、すべて同じ場所――央南東部、青州大月市内から発信されてるコトが判明した」
「ってことは、つまり……!?」
一転、七瀬の顔に朱が差す。一聖はうなずきつつ、こう続けた。
「さらに調べたところ、発信源と思われる場所は表向き、郊外の採石場跡だったが、周辺のライブカメラやら監視カメラやら確認したところ、トラックやらトレーラーやらの出入りがやたら激しい。十中八九、偽装した軍用車輌だろう。さらにそんな大型車輌がドカドカ出入りしてる割に、衛星画像にはソレらが停まってる様子が一切写ってねえ。どうやら地下にかなり大規模な基地があるらしいな。
ソコに美園がいるのは、ほぼ間違いない」
「……!」
七瀬と海斗は顔を見合わせ、喜びかけたが――すぐに表情が曇る。
「でも……どうやって助けるの?」
「それは、……その」
七瀬の顔にあきらめの色が浮かび、やがてうつむいてしまった。
「いるのは……いるのは分かっても……白猫党の基地のド真ん中じゃ……」
「僕が、……僕が行く」
「ダメよ。一人で軍隊と張り合えるワケ、ないじゃない」
「行く」
「ダメ」
「行く。行かなきゃならないんだ」
「ダメって言ってるでしょ!?」
海斗の襟を握りしめ、七瀬が怒鳴る。
「行ったらどうなるか、アンタ分かんないワケじゃないでしょ!? アンタがいくら剣の達人だからって、相手は重武装した兵隊よ!? 正面からノコノコ突っ込んでったら、3分ももたず蜂の巣にされるだけよ!」
「それでも行くんだ!」
七瀬の腕を弾き、海斗も怒鳴り返した。
「僕は一人ででも行く! 美園を助けるためなら、死んだって構わないッ!」
「一人じゃないさ」
と、部屋の外から声が飛んでくる。
「白猫党が相手やったら、俺も手ぇ貸したるで」
「右に同じだ。私にも、因縁や恨みが色々とあるからな」
揃って現れたジャンニとエヴァに、海斗は目を丸くした。
「助けて……くれるの? どうして?」
「『助ける』と言うのは少し違う。一緒に行くのは、利害が一致しているからだ。私も、君も、それからこの『狐』君も、揃って白猫党を敵に回しているし、何なら殲滅・壊滅させてやろうと目論んでいる。それならこれは、行動を開始するのには絶好の機会だ。少なくとも私はそう思っている」
「俺も同感や。白猫党には市国引っ掻き回されたり、コケにされたり、ええ加減ハラ立ってきてんねん。ここらでええ加減、一発ブチ込んだらへんとな」
「……ありがとう」
深々と頭を下げる海斗に対し、七瀬は依然として表情を崩さない。
「たった3人で何やろうって言うのよ? 多勢に無勢なのは変わりないじゃない」
「たった3人だが、一騎当千の実力持ちの3人だ。サポートしてやりゃ、基地だろうと要塞だろうとブッ飛ばせるさ」
天狐は椅子からひょいと立ち上がり、一聖と肩を組んだ。
「そのサポートはオレとコイツがやる。任せときな」
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逆襲の時。
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「話は分かった」
エヴァと七瀬の話を聞き終え、天狐は小さくうなずいて返した。
「大野博士については、天狐ゼミで保護してやる。フェロー(特別研究員)とでも言っときゃいいだろ。紅農技研には『オレが来いっつって連れてきた』って言っときゃ、ソレで納得すんだろ。七瀬のスマホも今、一聖と鈴林が位置情報システムをごまかしてるトコだ。腕は確かだから、こっちも問題ないだろう。ついでに七瀬のクルマも持って来てやった。明日にはミッドランドで走れるよう、車輌登録しといてやる。
その他、とりあえずの住む場所だとか何だかも、言ってくれりゃソレなりに手配する。オレと一聖が無理矢理連れてきたんだし、石油の件はマジで大事(おおごと)だからな。知らせてくれた分の礼はさせてもらう」
そこで言葉を切り、天狐は七瀬と海斗に目を向けた。
「で、問題はお前らの家族だな」
「ええ。美園も保護しなきゃ」
「だが、ソコが一番の問題でもある」
と、スマホの細工を終えたらしく、一聖が会話に入ってくる。
「お前さんから住所聞いて家に行ってみたが、誰もいなかった。近所やら学校やらをこっそり探ったが、どうやら1週間以上前、つまり七瀬たちが前の依頼に取り掛かってる間にさらわれたらしい。スマホも電源切られてるらしくて、位置情報が割り出せねえ」
「そんな……」
一聖の説明に、七瀬は頭を抱える。と、そこで一聖がニヤッと口元を歪めた。
「だが相手はいっこ、とんでもないしくじりをやらかしてる」
「え?」
「七瀬のTtTに友達登録してるコトさ。しかも6時間に1回、ご丁寧に連絡して来てやがる。そのアカウントと送信記録を解析したところ、すべて同じ場所――央南東部、青州大月市内から発信されてるコトが判明した」
「ってことは、つまり……!?」
一転、七瀬の顔に朱が差す。一聖はうなずきつつ、こう続けた。
「さらに調べたところ、発信源と思われる場所は表向き、郊外の採石場跡だったが、周辺のライブカメラやら監視カメラやら確認したところ、トラックやらトレーラーやらの出入りがやたら激しい。十中八九、偽装した軍用車輌だろう。さらにそんな大型車輌がドカドカ出入りしてる割に、衛星画像にはソレらが停まってる様子が一切写ってねえ。どうやら地下にかなり大規模な基地があるらしいな。
ソコに美園がいるのは、ほぼ間違いない」
「……!」
七瀬と海斗は顔を見合わせ、喜びかけたが――すぐに表情が曇る。
「でも……どうやって助けるの?」
「それは、……その」
七瀬の顔にあきらめの色が浮かび、やがてうつむいてしまった。
「いるのは……いるのは分かっても……白猫党の基地のド真ん中じゃ……」
「僕が、……僕が行く」
「ダメよ。一人で軍隊と張り合えるワケ、ないじゃない」
「行く」
「ダメ」
「行く。行かなきゃならないんだ」
「ダメって言ってるでしょ!?」
海斗の襟を握りしめ、七瀬が怒鳴る。
「行ったらどうなるか、アンタ分かんないワケじゃないでしょ!? アンタがいくら剣の達人だからって、相手は重武装した兵隊よ!? 正面からノコノコ突っ込んでったら、3分ももたず蜂の巣にされるだけよ!」
「それでも行くんだ!」
七瀬の腕を弾き、海斗も怒鳴り返した。
「僕は一人ででも行く! 美園を助けるためなら、死んだって構わないッ!」
「一人じゃないさ」
と、部屋の外から声が飛んでくる。
「白猫党が相手やったら、俺も手ぇ貸したるで」
「右に同じだ。私にも、因縁や恨みが色々とあるからな」
揃って現れたジャンニとエヴァに、海斗は目を丸くした。
「助けて……くれるの? どうして?」
「『助ける』と言うのは少し違う。一緒に行くのは、利害が一致しているからだ。私も、君も、それからこの『狐』君も、揃って白猫党を敵に回しているし、何なら殲滅・壊滅させてやろうと目論んでいる。それならこれは、行動を開始するのには絶好の機会だ。少なくとも私はそう思っている」
「俺も同感や。白猫党には市国引っ掻き回されたり、コケにされたり、ええ加減ハラ立ってきてんねん。ここらでええ加減、一発ブチ込んだらへんとな」
「……ありがとう」
深々と頭を下げる海斗に対し、七瀬は依然として表情を崩さない。
「たった3人で何やろうって言うのよ? 多勢に無勢なのは変わりないじゃない」
「たった3人だが、一騎当千の実力持ちの3人だ。サポートしてやりゃ、基地だろうと要塞だろうとブッ飛ばせるさ」
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