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    「双月千年世界 5;緑綺星」
    緑綺星 第3部

    緑綺星・暗星譚 5

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    シュウの話、第97話。
    長耳男の素性と本性。

    - - - - - - - - - - - - - - - - - - - -

    5.
     エヴァの予想していた通り、この秘密基地のトップであるあのスーツの長耳は、基地管理AIからの報告をまともに聞き入れていなかった。
    《注意です。A1419、C2062、C5077、D6092、E2087、F3383、G3981、H1187との通信が途絶しています。注意です。基地内の酸素濃度が低下しています。注意です……》
    「うるさいな……」
     スピーカーに背を向け、彼はモニタにかじりついている。
    「ねえ、ミソノちゃん? もうそこに立てこもって何日も経つけど、もう限界だろ? いや、約束するけれど変なことはしないよ。決して。本当に。君のお母さんと弟くんと約束してるからね。向こうがちゃんと約束を守ってくれている限り僕、……私も約束は守るから」
    《……》
     カメラに缶を投げつけられ、ピンクと青のモザイクだらけになった画面の向こう――倉庫の中でしゃがみ込んでいた美園が、カメラの方をじっとにらみつける。
    《アンタ、ウソツキじゃん。約束なんて口ばっかり。ママと海斗のコトも、利用するだけ利用して始末する気でしょ》
    「し、しないよ! しないとも!」
    《あたしのコトも指一本触れないって言ったけど、ソレもウソ。手ぇ出す気満々なの、会った瞬間分かったもん》
    「いやいや、そんなことないって……」
    《じゃああたしをココに連れ込んだ後、服脱げっつったのは何なのよッ!?》
     マイクの受信容量を超え、ノイズ混じりになった怒声をぶつけられ、スーツ男は口をつぐんだ。
    「そ、それは、制服姿のままじゃ僕が変な気を起こしそうで、……あ、いや……」
    《あたしは絶対ここから出ない! アンタに襲われるくらいならここで死んでやるから!》
    「あぁー……」
     美園に頑なに拒絶され、スーツ男が頭を抱えたところで――AIのアナウンスが一際大きな声で割り込んできた。
    《警告です》
    「ああもう、いいかげんにし、……け、警告? 警告って初めて聞く……かも?」
    《基地内の酸素濃度が安全基準を下回っています。生命維持に重大な影響を及ぼす危険があります。生存プロトコルを発動します。基地内の人間は全員、外へ退避しなさい》
    「え……ちょ、ちょっと待て! 今のは取り消し! 却下だ!」
    《生存プロトコルは基地内の安全が確保されるまで解除および中止できません。繰り返します。基地内の人間は全員、外へ退避しなさい》
    「なっ……」
     何が起こっているのか把握できないらしく、スーツ男の顔から血の気が引いていった。

     うつろな目をした兵士がぞろぞろとトンネルから出てくるのを確認し、エヴァが報告する。
    「兵士たちが外に出てきた。おそらく基地の中の酸素が無くなりかけてるんだろう」
    《どれくらいいる?」
    「じゃんじゃん出てくる。基地内の全員だろう」
    《出切ったら教えろ。スチフォ通して『ショックビート』で気絶させる》
    「了解。……ん?」
     と、うつろな兵士たちの中に、明らかに自分の意志が存在するらしい、焦った表情の者を何名か見つける。
    「カイト、あいつら……」
    「うん。雰囲気、違うね」
    「拘束するぞ」
    「分かった」
     瞬時に二人とも飛び出し、その兵士たちの背後に回り込む。
    「なっ!?」
     抵抗する暇も与えず、エヴァは相手の足を払い、倒れ込んだところで肘鉄を右胸に叩き込む。
    「ごは……っ」
     急所を突かれ、相手の目が引っくり返る。その一瞬でエヴァは相手の両手足をダクトテープでぐるぐる巻きにし、担いで連れ去った。

    「おい、起きろ」
     担いできた兵士2人を叩き起こし、エヴァは拳銃を向けながら尋問を始めた。
    「正直にすべて話せ。嘘を言えば尻尾が1センチずつ減るぞ」
    「ひっ……」
    「この基地にいる、『まともな』人間は何人だ? MPSじゃない奴だ」
    「ろ、6人。俺を入れて」
    「責任者は?」
    「ヘラルド・アルテア、長耳の男だ。3ヶ月前に配属された。元、北の一級党員の息子だとかなんだか」
    「北の? 色々聞きたいところだが……それどころじゃないな。ここに一般人が連れて来られたはずだ。虎獣人の少女で……」
    「ああ、いる。アルテアの命令で拉致してきた」
    「……ッ」
     横で話を聞いていた海斗が顔を真っ赤にし、憤怒の表情を見せる。
    「なんてことするんだ……お前ら」
    「う……」
     今にも刀を抜かんばかりの鬼気迫る表情に、兵士は顔を青ざめさせた。
    「お、俺は反対した! ちゃんと『一般人を巻き込んではいけない』と止めたんだ。だがあのボンクラ、『裏稼業やってる奴の家族が一般人ヅラしていいわけない』とか無茶な言い訳して……」
    「美園に何をしたんだ? 手を出したのか?」
     とうとう、くん、と鯉口を切り出した海斗にすっかり恐れをなしたらしく、兵士はぶんぶんと首を横に振った。
    「い、いや、それは無い! だってあの娘、アルテアにビンタかまして倉庫に閉じこもっちまったんだよ! 結局連れ去ってから今までずっと、そのまんまだったし」
    「じゃあ……美園はまだ、中にいるんだな?」
    「た、た、多分」
     それを聞くなり、海斗は立ち上がる。
    「おい、カイト! 中は酸素が減ってきてる! そのまま入れば危険だぞ!」
    「それは美園だって同じだ! 助けに行かなきゃ……!」
     海斗が声を荒らげかけた、その時――トンネルからLAV(軽装甲車)が、勢い良く飛び出していった。
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